第113話
サイド:リリス
――化け物か。
それが私がコーデリア=オールストンの剣舞を見た時の第一印象だった。
今の私ですらも目で追うのがやっとの剣撃の応酬。
そして何よりも私の目を引いたのは――
――ヒノカグツチ
魔術的な視点から見ると、あのような武具が存在することはありえない。
神殺しに特化したのがリュートのエクスカリバーなら、あれは……神だけではなく人と魔を狩る煉獄の魔剣。
元々、コーデリア=オールストンの持つ聖剣は、人の紡いだ魔法を掻き消す能力が備わっていた。
その能力はそのままに、神殺しの属性と魔を穿つ獄炎の属性すらも併せ持った究極クラスの伝説のアーティファクト。
神も人も魔物も、触れる者全てを見境なく切り裂く魔剣。
――虐殺姫(バーサーカー)が持つに、これほどにふさわしいシロモノも無いだろう。
そして、コーデリア=オールストンが相手にしているのは……生ける伝説のはずなのに、攻防は6対4でコーデリア=オールストンの優勢に見える。
このままでは私の出番がない。
そう思った私は最も最速で出せる禁術を紡ぎ始めた。
「……核熱咆哮(ドラグズ・ニュークリアー)」
E=MCの2乗。
存在を熱量へと変換させる禁忌の魔術を発動させる。
リュート曰く、核熱レーザー。
マーリン曰く、龍を穿つ死閃。
言い方は違えど、それは同じ事象を意味するものだ。
虐殺鬼の鎧を貫通して、右肩の一部を吹き飛ばし、熱線は地平線の彼方へと延びていく。
――轟音。
そうして遠くにキノコ雲が発生した。
「化け物ね。アンタ……人間(ヒューマン)って種族を名乗るの辞めた方が良くない?」
「……それはこっちのセリフだ」
そのままコーデリア=オールストンは一気に虐殺鬼に対して剣舞のラッシュを繰り出した。
片手が飛んでいる状態ではまともに対処もできず、少しずつ虐殺鬼は四肢に剣を入れられて……ナマスに刻まれていく。
鎧の一部が飛び、肉片が飛び、血が飛ぶ。
「……核熱矢(ニュークリア・サジタリウス)」
私もまた遠距離から、威力を狭範囲に閉じ込めた核熱の魔法の矢を放つ。
核熱系は周囲を丸ごと吹き飛ばすモノが多いので、低威力ではあるがこれは禁術の中でも扱いやすい。
まあ、要するにこれは熱で装甲を溶かす防御不可避の矢という奴だ。
ズドドドドっ。
無数の矢が虐殺鬼に突き刺さり、そこでコーデリア=オールストンがヒノカグツチを一閃。
虐殺鬼の首が飛んだところで、どうやらリュートもアルティメットゴブリンを殲滅したようだ。
「上出来だ。リリスは大体どんな仕上がりかは分かってたが、コーデリアがここまでモノになるなんて想像もしてなかった」
そうしてリュートは、ちょっとだけ引き気味の表情でこう言った。
「――まあ、お前ら……ちょっとした化け物だな」
「アンタにだけは言われたくないっ!」「……リュートにそれは言われたくない」
ほぼ同時に入ったツッコミにリュートはクスリと笑った。
ともかく、これで同時勃発していた人工的大厄災は収束させることができたのだ。
私達以外の討伐隊にも安堵の色が広がったのは雰囲気で分かる。
と、その時――
「伝令っ! 伝令っ!」
ここの総大将と言うことになっている、大陸最大の勢力を誇る神聖帝国の軍事顧問……マークス枢機卿の下に早馬が走ってきた。
早馬の使いから手紙を受け取った彼は、見る間に顔を青くしてこう言った。
「世界同時大厄災で……戦力が空になっている間に……神聖帝国が落とされた……だと?」
リュートは軽くため息をついて、マークス枢機卿に尋ねた。
「敵戦力は1万程度。首謀者の名前は世界連合の書記を務める若き秀才――賢者モーゼズだな?」
「どうして……それを?」
リュートはマークス枢機卿の言葉には応じない。
私達3人は頷きあったところで、リュートは拳を鳴らしてこう言った。
「さて、茶番は終わって――ここから先が本番だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます