第110話
・サイド:マークス枢機卿
「はははーっ! オーガエンペラーっ! 回復なんてさせねえからなっ!」
「コハルっ! 前に出過ぎるなっ!」
「やかましいロートルっ! テメエはジジイのお守りをやってろっ!」
「今日も雷(カミナリ)様は絶好調みたいじゃのうー。しかし、ロートル連中の言うことは聞いといたほうがよいぞ。おぬしは攻撃一辺倒で防御は未熟――ほい、世界樹福音(プロテクション)!」
沼地に絶え間なく轟く雷撃。
オーガエンペラーの群れが――まるでベテラン冒険者がゴブリンの巣穴を行くかのように瞬く間に蹂躙されていく。
相手はSランク級の魔物だぞ?
「何なのだこの連中は……」
信じられない光景を目の当たりにして、私は思わずそう声を漏らしてしまった。
「3食昼寝付きで適切な訓練をしてれば、まあ、誰でもこの程度のことができる」
ははっと笑いながら少年がそう言った。
と、そこで周囲のオーガエンペラーを一掃した三人が戻ってきて、真っ青な表情でこう言った。
「リュートさんっ!? アッシらは毎日毎日……怪しげな毒物を無理やり……吐くまで食わさせられたんですけどっ!?」
「はははーっ! 昼寝付きって言うか、昼寝程度の仮眠しか半年間させてもらってないがなっ!」
「安全マージン無しの……いつ死んでもおかしくないような無茶なレベリング。そして死と隣り合わせの強化法の数々……まあ、ある意味では適切なのかもしれんが……」
「まあまあそう言うな。俺の時よりかは大分マシだったはずだ」
「「「アンタと一緒にしないで欲しいっ!」」」
口の悪い巫女。
ロートルの戦士。
エルフの導師。
どうやら三人は地獄を見せられていたらしいことが伺える。
と、そこで3人が急に真剣な表情を作った。
「鬼神さん達が団体さんでのお出ましってところだ」
「ほほほ。なるほど……禍々しい気(オド)じゃ。流石に神の名を冠してはおらんな」
「さて、どうしやすかリュートさん?」
見ると、周囲には目視できる限りで10体の鬼神。
これだけで大国一つが瞬く間に呑まれそうな戦力ではあるが――
「一人一体だな。お前らで3体の相手をしろ」
涼し気な表情で少年はそう言い放った。
「リュートさん? 後は……どうするんでやすか?」
そうして少年は剣を抜いて、コキコキと首を鳴らしてこう言った。
「――俺がやる」
「いや、待てっ!」
「どうしたんだ?」
「相手は鬼神10体だぞ? 君たちが規格外なのは十分に分かったっ!」
「分かったんだったら俺たちに任せろ」
「いくらなんでも無茶が過ぎるっ! こちらにも戦力はあるんだ。みんなで協力すればこちらの被害は最小限に――」
私の言葉に少年は肩をすくめてこう言い放った。
「通常戦力は役に立たない。ここら先の領域は――人間を辞めちまった連中の領域だ。人の身のままで土足で足を踏み入れると……ケガするぜ?」
「どういうことだ?」
「足手まといっていう話だ」
――そうして数分後。
「もう無茶苦茶だな……君たちは」
10体の鬼神――その首の全てが胴体から分断され、無傷のままで4人は息を切らしもせずに……いや、3人はかなり疲れた感じはあるな。
だが、7体という鬼神の戦力の全てを一刀の下に斬り捨てた少年については、一切の呼吸の乱れすらも見られない。
と、そこで少年はキっと東の方角を見据えた。
「さて、前哨戦だ」
「前哨戦?」
「――人類の進化形:量産型勇者(オーヴァーズ)。奴らの切り札の一つだ」
そうして、私達の前に東方の人災と呼ばれる虐殺鬼が姿を現した。
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