第111話

 さて、東方の虐殺鬼である。

 

 見た目の姿は鎧武者で、魔物であれ人間であれ相手を選ばずに妖刀が吸った命は幾十万。


 元々は遥か昔の勇者であり、彼は自らの力を高める為に禁断の邪法を行使した。


 吸血鬼に自ら噛まれる事でレッサーヴァンパイアと化した彼は永遠の命を手に入れた……ということだな。


 代わりに理性を失って、獣以下の知性しかないと言う話だ。


 かつての英雄は今では戦場を求めて歩き続け、経験値を回収するだけのマシーンと成り下がった……と、言う見事な転落ストーリーってことだな。


 龍王たちの把握している情報では、さすがに1000年以上も経験値の回収をしているだけあって、単体であればアルティメットゴブリンを圧倒する力を持っているとのこと。


 で、そこに目をつけたのがモーゼズ達っていう訳だ。


 連中の当初の進化計画ではコーデリアを人類の到達地点である人魔皇とよばれる状態にまでもっていくことだった。

 が、俺が龍王を使ってコーデリアの育成計画に横やりを入れたことで頓挫した訳だ。


 まあ、その研究の副産物である量産型勇者(オーヴァーズ)については既に生産終了って訳だが……。


 ともかく、今、俺たちが目の前にしている鎧武者には直近に人工進化が施されているのは間違いない。


 恐らくはモーゼズ達が作り上げた量産型は、犯罪者ギルドやら貧民街から攫って来たような荒くれもの達ばかりとなるはず……。

 必然的に、素体としては鎧武者は桁違いになる。


 つまり、連中が所有している転生者以外の戦力として、鎧武者は最強であると断じても良いだろう。


「まずは……小手調べ」


 悠然と沼地を歩いてくる鎧武者に向けて跳躍。


 大上段から渾身のエクスカリバーを振り下ろす。


 ――ガキっ!


 鈍い音が鳴って、俺は着地と同時に宙返りで相手の返す刀を避けた。


「痛……っ!」


 見切りを数ミリ失敗した。薄皮を切られちまったか。


 まあ、流石にこのレベルになってくるとワンパンってのは無理がある……か。


 が、対処は可能だ。


 さすがに量産型の最強個体程度にやられていると、ここで詰みだからな。


 しかし――


「困ったな」


 俺の索敵スキルのレーダーに、あまりよろしく無い連中が引っかかった。


 5体の強者の反応で……3対についてはアルティメットゴブリン。


 俺は鎧武者の相手をしなくちゃなんねーし、そこまで余裕をかませるような相手でもない。


 ゴブリン含めて全部を相手にしろと言われると……いや、それもできないことはないんだ。


 ただし、それは相手が全部俺だけを標的にしてくれるという場合だな。


 俺に適わないと判断した場合、アルティメットゴブリンは逃走を選ぶだろう。


 その場合は、ここにいる人間――逃走経路上にいる連中に被害が出る可能性が高い。


 三枝達以外は完全に足手まといで、アルティメットゴブリン相手だと良いように蹂躙されるだろう。


 それに、三枝達にしても鎧武者、あるいはアルティメットゴブリン3体相手ではちょっとばっかりキツいというか、無理ゲーだな。

 切り札のアレを使えばアルティメットゴブリンの1体くらいなら何とかなるだろうけど……。


「仕方ねーな」


 ってことで、俺は新規で現れた残りのお二人さんに声をかけた。


「で、どっちがお好みだコーデリア?」


「強い方……かな?」


 ニヤリと笑ったコーデリア。


「で、お前はどっちがお好みだリリス?」


「私もまた強い方を望もう――今の自分を試したい」


「オーケーだ。お前ら二人で鎧武者にあたれ」


 パンと掌を叩いて、俺はアルティメットゴブリンの方に向かった。


「危なくなってもすぐには助けに入れないぞ? アルティメットゴブリン3匹は俺でも時間はちょっとはかかる」


「危なくなんないように――こちとら半年血反吐を吐いてきたのよ」


 そうして俺は苦笑いと共にこう言った。


「まあ……お手並み拝見といこうか」


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