第107話
「――私はリリス」
「リリス?」
「……龍王の使いと言い換えても良い」
そこでリチャードはギョっとした表情を作った。
「それで?」
「……ここは私が収める。貴方たちが出ても無駄に屍を築くだけ」
「龍王の関係者とあれば……ハッタリという訳でもないのだろうな。しかし、単独で殴り込みをかけるつもりか?」
その言葉には私は応じずに、リチャードにこう尋ねた。
「……鬼神達の本拠地の場所を知りたい」
するとリチャードは東の方向を指し示した。
「外に出て東を見れば大きな山が一つあるから、すぐに分かる。鬼哭(おにな)き山と呼ばれていてな。昔からの鬼の住処らしいな」
「……なるほど」
私が軽く頷き一歩を進めたところでリチャードがポンと私の肩を叩いた。
「少数精鋭作と言うのも悪くはない。私と……他のSランク級7名程度であれば力を貸すが? 流石に一人で行かせるわけには……」
そこで私はクスリと笑った。
「ここは私が収める。貴方たちはこのまま各地の戦力と合流して……別途……私達からコンタクトがあるまでは待機していて欲しい」
「しかし……オイっ!」
要件は伝えたので、私は総大将の天幕から外に出た。
「待てっ! 待てっ!」
肩を掴まれたので私はため息と共に口を開いた。
「……何?」
「君もまたSランク以上の――人類の貴重な戦力なのだろう? 戦力の逐次投入は愚策も良いところだっ!」
「……それで?」
「せめて我々と共に一緒に行って欲しい。貴重な戦力を無駄死にさせる訳にはいかないっ!」
再度の深いため息。
私は首を左右に振りながらこう言った。
「……貴方たちでは足手まといだと――そう言っている」
「えっ?」
「……それに私は鬼哭(おにな)き山には向かわない。今、ここで全てのケリをつける」
「どういうこと……?」
私はマーリンから餞別代りに授かった天魔の杖を鬼哭(おにな)き山に向けて掲げた。
「……索敵関連の都合10のスキルを発動。また、禁術によるサーチも同時発動」
圧倒的な情報量が私の頭に溢れて、瞬時に頭痛と吐き気に襲われる。
――龍の魔眼を発動させる。
額の第三の瞳に宿った父さんが情報処理操作を補佐してくれるので頭痛は一気に軽減された。
「……人間の反応はゼロ。当初の予定どおりにコトを進める」
脳内に形成されている龍魔術の回路に魔力を通す。
同時に禁術を発動させて、心臓からの生体エネルギーを魔力エネルギーに直接返還。
リュートが近くにいないので無限に近いMPは使用できないが――2発までなら今の私であれば可能。
脳から龍魔法を杖に流す。
心臓から魂――生命エネルギーそのものを杖に流す。
二つの魔法を杖の中で融合し、そして錬成させていく。
そして――
――禁術の神髄……微小なりし深淵世界へと至る禁断の扉をこじ開ける。
リュート曰く、微小なりし深淵とは分子……あるいは原子の世界だと言う。
私達とは表現が違うが、本質は全く同じモノだ。
証拠に、師であるマーリンが辿り着いた数式と、アインシュタインと言う物理学者が辿り着いた数式は共に同じものだった。
つまりはE=MCの2乗
――それは光と質量の本質。
モノがそこにあるという概念を消失させて、天文学的規模の破壊エネルギーを取り出す禁断の術。
「……核熱咆哮(ドラグズ・ニュークリアー)」
父から受け継いだ金色の咆哮で、師が示した禁術の神髄へと至る道をこじあける。
そう、これは――世界で私だけのオリジナル魔法だ。
山に熱線が一直線に伸びていき――
――煌めく閃光。
――響く轟音。
――そして続く熱風。
「や、や……山が……吹き飛んだっ!?」
剣聖神がその場で腰を抜かして、山の方角を指さしながらそう言った。
「……爆心地近辺の地図の書き換えが必要な程度の大穴が開いたのは事実だろう。後は表面を吹き飛ばしただけに過ぎない」
核熱によってキノコ雲が発生し、煙は晴れてはいないけれど、山の表面は吹き飛ばされたはずだ。
まあ、ハゲ山となって、残すは岩肌と赤土といったところだろう。
――無論……山に潜んでた鬼達は――灼熱の閃光という名の死神の鎌で命を刈り取られたはずだ。
そうして私は満足げに大きく頷いた。
仕上がりの具合は120%。
「……これならリュートの足手まといにはならない」
そうして私は次の戦場へと向けて歩みを進め始めたのだった。
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