第105話
「これがアルティメットゴブリン……」
金色に輝くゴブリンを見て私はそう独り言ちた。
そこにいるだけで感じる圧倒的な威圧感に私の第6感が最大限のアラートを脳内に響かせる。
でも……と私は思う。
アルティメットゴブリンは私を見て、配下の強化ゴブリンを捨て駒に使った。
――いや……使わざるを得なかったと言うべきか。
少なくとも、アルティメットゴブリンは私を脅威と認識したということなのだ。
そして私自身も……師匠やリュートほどの威圧感をこの魔物からは感じることは無い。
私がニヤリと口元を歪めると同時、アルティメットゴブリンはこちらに向けて駆け出してきた。
――早い。
でも、対応できないなんてことはない。
繰り出された爪を剣で受け、そして蹴りを入れる。
アルティメットゴブリンが蹴り飛ばされ、巻き込まれた樹木がなぎ倒されていく音が森林に響き渡る。
そうして大樹にゴブリンがメリ込んだところでゴブリンは停止した。
蹴り自体のダメージについてはほとんど無かったみたいだけど、そこでゴブリンは「ギャっ!」と汚い悲鳴をあげた。
――ゴブリンの最大の攻撃手段である爪が溶けていたのだ。
さすがは炎神の魔剣だと私は苦笑いする。
「ともかく右手の爪はもう使い物にはならない」
そこでアルティメットゴブリンの瞳の色が変わった。
金色に輝く度合いが強まり、更に身に纏うオーラに黒色が混じりだしたのだ。
「……暗黒闘気か」
黒と金色のハイブリッド方式ってところで、そこで私の背中に嫌な汗が走った。
アルティメットゴブリンの表情は苦悶に歪んでいて、私で言うと……かつてのバーサーカーモードのように肉体に無理がある強化方法なのだろう。
数分か数十秒かは分からない。
それに、ここまで追い詰められてようやく出してきた手段だから、本当に奥の手でもあるのだろう。
つまりはこれをしのげば完全に完封することはできる。
でも……恐らく――
「くっ!」
縮地と言い換えても良いような速度でアルティメットゴブリンは私に迫り、そして左手の爪を繰り出してきた。
ほとんど見えないレベルでの速度の攻撃だ。
勘だけで避けたが、次に牙による噛みつきがきた。
こちらがギリギリで見えたので普通に避けるが、次に蹴り……右足の爪が来た。
「くっそっ!」
バックステップで距離を取ろうとするけど、すぐに距離が詰められて仕切り直しをさせてくれない。
完全に防戦一方のままでジリ貧状態だ。
流石は伝説に残る……大厄災の代名詞とも言える悪夢の幻獣種だ。数多の勇者とSランク級冒険者の命を刈り取っただけのことはある。
そうしてアルティメットゴブリンが優勢を確信してニヤリと笑ったところで、私もやはりニヤリと笑った。
「まさか初っ端からこっちも奥の手を使うなんてね」
私の瞳に朱色の炎が灯る。
そして私の剣にもまた……文字通りの青い炎が灯った。
「いや、火之迦具土神(ヒノカグツチ)までパワーアップするのは聞いてないけどね」
ひょっとしてこの剣は術者の力量によって真価を発揮する系の武器だったりするのだろうか。
と、それはさておき……私は仙術を覚えて近接戦闘力を爆発的に向上させた。
けれど、元々の力であるバーサーカーモードはそのまま残っている訳だ。
それはやっぱり私の奥の手という意味では変わらない。
ギョっとした表情のアルティメットゴブリンが私に攻撃を繰り出してくるけれど――
「生憎だけど、こんなところで私は止まれないのよね」
1ミリの見切りで爪を避けて――
――剣を一閃
アルティメットゴブリンの首が飛んで、私は小さく頷いた。
「アイツは――ここから先の領域にいるから。ずっと昔に私を追い越して……私を置いてけぼりにして……一人でずっとずっと向こうの遥か先に走って行っちゃった奴がね」
そうして私は馬車に戻って荷物を背負った。
「コーデリア……お前……その力は……?」
オルステッドの震え声での問いかけには応じない。
私は西の方角に歩き始めようとした。
「おいお前……どこに?」
「世界各地で大厄災が起こっているんだよね?」
「ああ、そうだと聞いたが……」
「なら、聞くまでも無い。私は行く……次の戦場に」
そうして私は西の方角に向けて一歩を踏み出した。
――今の私でリュートを追い越したとまでは思えない。
けれど……とギュっと拳を握りしめた。
――差は……確実に縮まっているはず。一気に縮めたはずだ。
「そう。手を伸ばせば……届かないなんてことは無いっていう程度にはねっ!」
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