第103話

 ――金色に輝くゴブリンだった。

 

 大きさは普通のゴブリンと変わらずで、ゴブリンエンペラーとは違って巨大化はしていない。

 このあたりは鬼の最終進化系である鬼神と同じ理屈だろう。

 弱さを打ち消す、力を誇示する為の巨大化。そうであれば十分に強い者であれば、あるがままの自然な形で落ち着くのもまた道理。


「不味いな……」


「どうするのです? 貴方がリーダーなのでしょうオルステッド!?」


「…………退路も無い。逃げきれん」


 寡黙なプラカッシュが口を開いた?

 私も含めて一同が目を見開いたが、それほどまでに追い込まれていると3人は感じているんだろう。


 そこでアルティメットゴブリンは周囲を見渡し、岩に腰を落ち着けた。

 そしてパチリと指を鳴らす。


 少しの間を置いて、残る11体のゴブリンエンペラーが私達を取り囲むように現れた。


「……本格的に不味いな」


「だからどうすると聞いているのでオルステッドっ!?」


 そこでお手上げだとばかりにオルステッドは肩をすくめた。


「ゴブリンエンペラーだけでもかなり厳しいだろうな」


「そんなことは分かっていますっ! 具体的な対処法……いや、逃走法の指示を求めているのですっ!」


「あのさ?」とオルステッドはアルティメットゴブリンに視線を送る。


「なあ、ヒコマロさんよ。お前……アレから逃げられると思うか?」


「……」

 

 アベノはしばらく押し黙り、オルステッドはその肩をポンと叩いた。


「それが答えだ。俺たちの狙いはゴブリンエンペラーに絞る」


「ハぁ?」


「……俺たちで可能な限り殲滅するんだ。そうすれば後の連中が楽できるからな。やるだけやって散ろう」


「……玉砕戦と言うことですか?」


 プラカッシュは瞼を閉じ――そして目を見開くと同時に拳を鳴らし始めた。

 アベノ以外は基本的には男気のある連中なので……嫌いじゃない。


 そこで再度、アルティメットゴブリンがパチリと指を鳴らした。


 すると金色の光がアルティメットゴブリンの体表から放たれ、11体のゴブリンエンペラーに吸い込まれていく。


「全部のゴブリンが……金色になっただと?」


「……恐らくは指揮官による強化スキルでしょう」


 さしずめ、金色の祝福というところか。

 そうしてアルティメットゴブリンが指で強化ゴブリンエンペラー4体を指し示し、そして指で私達を指さした。

 4体のゴブリンエンペラーがこちらに歩みを進めていく。


「1対1での決闘をそれぞれ行えと言う事か?」


「……言わずもがなで、そうでしょう」


 と、その瞬間――ゴブリンエンペラーが跳んだ。


 それぞれがそれぞれの勇者に向かって一直線に。


「早いっ!」


 オルステッドの言葉通り、先ほどとは段違いの速度だ。

 

 当のオルステッドは何とか槍で爪撃を止めた。


 が、プラカッシュは爪撃を肩口に受け、そのまま地面に引きずり倒されて馬乗りになられた。


 寝技は格闘最強のプラカッシュの独壇場のはずだけど……ダメ。力量に差があって技術でカバーできていない。


 オルステッドは……ほぼ互角。とりあえず、早い目にプラカッシュに加勢しないと……死人が出る。


 そして――


「それでは皆さん――ご機嫌よう」


 アベノの体が宙に溶けて無数の紙――折り鶴となって空へと舞い上がっていく。

 独自の脱出法のようで、この術式は私達ですらも知らない。


 ってか……この状況で平気で逃げた? 

 いけすかないとは思っていたけど……どんだけなのよアレは?

 コハルちゃんの一族をネチネチとハメたって疑惑があるけど、間違いなくアレが仕向けたことなんだろうね。


 で、私にも当然……ゴブリンエンペラーが跳びかかってきている訳だけど……。


「――仙気解放」


 リュートも仙術を扱える。

 アイツの場合はステータスを爆上げする為に、古今東西のありとあらゆる燃費の悪い身体強化法を幾十、あるいは幾百という単位で戦闘中に使用する。


 数十万クラスのバカげたMPと、そして仙術によって大気の魔素を体内に取り込んでMPに再変換するという形で、アイツの非常識は成り立っている。


 元々は仙術っていうのは最終的には魂を大気に同化させ、自らを神格化させるという、なんだかよく分からない宗教染みたところが最終目的だ。


 そういう意味で、大気の魔素の流れを操ると言うリュートの手法は至極まっとうな仙術の戦闘への利用法だろう。


 私の場合もそれと基本は同じだ。


 けど、そもそものMPが普通の剣士程度しかないということで、リュートと同じ手法は効果が薄い。

 いや、バーサーカーモード程度のMP消費なら、枯渇を気せずに良いという利点はあるのだけれど。


 で、まあ……私の師匠と同じく、私は仙術の脳筋使用を選択した。

 体内に取り込むのではなく、体表に取り込んで武装として活用する。

 

 ――要は、錬成した仙気を四肢と剣に纏わせるってコト。


 これで攻撃力と防御力の爆上げがなされるってことだね。


 他にも反射神経強化とか、運動性能強化とか、魔法耐性強化とか、まあ色々とやったことはあるんだけど、基本的にはそんな感じの究極脳筋仕様となっている。


 で、それで私が剣を振るとどうなるかと言うと――


「ギャっ!」


 強化ゴブリンエンペラーを一刀両断、そのままプラカッシュの所に跳躍。

 馬乗りの状態のゴブリンエンペラーの首を刎ねる。と、そこでアベノと闘うはずだったゴブリンエンペラーが私の背後から爪撃。

 簡単に避けることはできるけど、実戦で扱ったことはほとんどないので、練習がてら――ピンポイントに仙気を鎧に集める。


 ――ガキィィイイイインッ!


 けたたましい音が鳴るが、鎧は無傷。


 良し……防御も完璧。練習通りにできる。


「はい、3匹目」


 ゴブリンエンペラーの胸を貫いたところで、オルステッドは自分が相手にしていたゴブリンエンペラーを独力で退治できたようだ。


「コー……デリア? お前……?」


「今からちょっと失礼な事言うけど……怒らないで聞いてねオルステッド?」


「何だ……?」



「――足手まといだから……後ろで見てて」


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