第102話

「でも、あいにくねモーゼズ。こちとらちょっと――ヴァージョンアップしてんのよっ!」


 そうして、私は鞘から神殺しの――炎剣を抜いた。



 とりあえず、森の中で目視できるのはゴブリンエンペラーが3体。

 大きさは普通のゴブリンよりもかなり大きい。とはいえ、元々が小柄種族なので人間と大してサイズは変わらない。

 見た目的に分かりやすいインパクトはないが、それでも個体での討伐難易度はSランクだ。

 そして、目視はできないまでも気配から察するに半径300メートル以内に13体全てが揃っている。

 まあ、軽く普通の規模の国なら13体だけで簡単に落とせちゃうよね。


 で、大将と思われるアルティメットゴブリンは……私の察知できる範囲内にはいないみたい。

 いや、私の索敵能力の網から逃れているという可能性もある。


 そうして、一番近くのゴブリンエンペラーが私に襲い掛かってきた。


 私が剣で応戦しようとしたところで――


「コーデリアっ! 下がれっ!」


 飛来した神槍グングニルがゴブリンエンペラーに突き刺さる。

 そういえば、オルステッドは最近……聖器ではなく神器の授与がされたという話だ。


 あの槍にはリュートのエクスカリバーと同じく神殺しの属性もついていて、魔物の再生能力も意味を為さない。

 更に闘気の糸で操ることもできるから、投擲してもすぐに手元に戻ってくる形で使い勝手も良い。


 そして、それを操るのがSランクの壁を個人で突破した……当代最強の勇者である神槍のオルステッド。


 そうなれば、私の眼前でゴブリンエンペラーが一撃で倒されるのもまた必然。


 と、そこで私達の背後から新手のゴブリンエンペラーが飛び出してきた。


 ゴブリンの爪撃をプラカッシュが怪力で受け止めて、その隙にアベノが陰陽の符術を練り上げる。


「炎符:メギドっ!」


 獄炎がプラカッシュも巻き込んで炸裂した。

 だが、この場の誰もプラカッシュを心配はしていない。


 と、言うのも――。


「流石だな」


「ええ、剣技に関する魔力操作すら捨てて……肉体言語を極めてしまえば、魔法はむしろ邪魔。身体能力関連以外の自身の全ての魔力を封印すると同時に、魔力にかかる全ての事象を限りなく無効化してしまう」


「ああ、魔捨て……あるいは魔抜けだ。魔術師と組ませるとエグい性能を発揮する。久しぶりに見たが……いやはや、あれはあれで反則だな」


 プラカッシュは勇者で言えば、アベノと共に組んで真価を発揮する特殊タイプだ。

 膂力で敵の動きを止めて、そしてプラカッシュもろともに殲滅魔法で一撃で葬り去る。


 私が知る限りでは、恐らくはプラカッシュの魔力無効障壁を抜くには……本気を出した時のリリスの金色咆哮くらいしか知らない。

 まあ、あの女もこの半年で色々と面倒なことになってそうだけどね。


 と、それはともかく――。


「コーデリア? 連中の網を突破して離脱する。俺たちだけじゃゴブリンエンペラーはともかくアルティメットゴブリンの対処は不能だっ!」


「いや、ここでケリをつける」


 いや、むしろ――ここでケリをつけさせてくれるなら時間がかからずにありがたい。

 これから私は他の大厄災の現場に向かわなくちゃいけないんだから。


「おいコーデリア? 戦場じゃあ俺の言う事には従ってもらうぞ? この中じゃ……お前が一番弱いんだからな」


 と、その時……私の脳にビリっと電気が走ったような感触を覚えた。


 ――来た。大厄災の代名詞ともいわれる幻獣種だ。




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