第101話

 サイド:コーデリア=オールストン



 馬車の中。森の道をガタゴトと揺れながら私達は王都へと向かっていた。


「しかし、本当に我々もツイていませんね」


 私の対面、東方の衣装に身を包んだ20台後半の男――ヒコマロ=アベノが息を扇子を一薙ぎしながらそう言った。

 

 この服装は倭の国では陰陽師と呼ばれる者の戦装束だ。


「ヒコマロ……まあそう言うなよ」


 私の横に座るオルステッドが呆れた風に肩をすくめた。


「東西南北の全ての勇者が集まっての大厄災処理の共同作戦。東の私、西のオルステッド=ヨーグステンさん、南のプラカッシュ」


 言い換えれば、百式符術のヒコマロ、神槍のオルステッド、怪力無双のプラカッシュとなる。


 全員が20代で、ヒコマロは東方版のモーゼズっぽい感じの見た目で、オルステッドはスラっとした金髪の優男、プラカッシュは二つ名の通りに筋肉モリモリで浅黒い肌の寡黙な男だ。


 で、今はこの3人全員がSランク級への到達者となっている。

 歴代最高クラスの天才とも言われるオルステッド至っては、最近Sランク級を越えたと言う話もあるよね。


 そこでヒコマロが私に侮蔑の視線を向けてきた。


「そして――鮮血姫(バーサーカー)。戦闘能力もせいぜいがAランク級冒険者程度の小娘という話ですし、挙句の果てには半年間の職務放棄の上での失踪ですよ?」


「だからそう言うなってヒコマロ」


「戦場で頭がおかしくなられて、後ろから襲われても困るのですよね。そもそもがAランク級程度であれば……冒険者ギルドから斡旋すれば良い。そこまでの稀有なる戦力という訳でもないでしょうに」


 そこでオルステッドはギロリとヒコマロを睨みつけた。


「これ以上は言わない。そこで辞めろ。俺はコーデリアを昔から知っている。力が未熟なのは認めるが、鮮血姫(バーサーカー)っていうのは何かの間違いだ」


 ヒコマロが何かを言おうとしたところで、オルステッドはさえぎるように言葉を続けた。


「それ以上コーデリアに難癖をつけるなら、俺への文句へと受け取る。それで良いならいくらでも喋れ」


 グググ……とばかりにヒコマロは押し黙った。


 と、言うのもオルステッドはスキルである覇王のオーラを顕現させて、威圧感でヒコマロに牽制を行っているのだ


 オルステッドとは何度か魔物退治で共同戦線を張ったことはあるけど、基本は気の良い気さくなお兄さんって感じの人だ。


 ただ、戦闘状態に突入すれば、阿修羅の如くに縦横無尽に槍を繰っていった。


 今、彼が発している覇王のオーラだって並みの魔物じゃビビって近づいてこれない。


 魔物の巣窟の中を無人の野の如くに一緒に歩いた時はそりゃあ驚いたもんだ。いや、私自身が威圧に耐えられずに震えを隠すのに難儀したんだけどさ。


「成長したなコーデリア」


「ん?」


「隠さなくても震えないようになったじゃないか」


 はは……と、私は苦笑いする。


 うん、今……私は確信した。


 3人の中で最強のオルステッドが覇王のオーラを身に纏って、自らの力を誇示した訳だ。


 いや、自分を実際よりも大きく見せる為の覇王のオーラな訳だね。


「まあ、少しは……成長したと思うよ」


 そうして馬車の天井を見上げた。


 なるほどね。

 リュートは……いつも私をこういう感じで見ていたのか。


 そりゃあ、何でも一人でやっちゃうよね。そりゃあ守らなきゃ……って思うよね。


 馬鹿にされてると思って怒ったこともあったけど、本当にトンチンカンなことを私は思っていたんだね。


「しかし、オルステッドさん? 本当に大厄災が起こっていると?」


「規模は小さいがゴブリン種に進化が発生していることは確定だ。Sランク級個体のブリンエンペラーも複数確定しているし、最悪……アルティメットゴブリンの発生もありえるな」


 本来はゴブリンの進化の過程には存在しないアルティメットゴブリン。

 

 いや、実際には存在するんだけど……システム上の進化現象として、自力での到達のルートが存在しないだけなんだよね。


 かつての大厄災で大きく人口調整を行ったアルティメットゴブリン。


 冒険者ギルド換算で言えば、恐らくはSS級~SSS級で……大国各国からAランク級以上の連中をかき集めて総力戦でもしないと討伐は不可だろう。


 いや、だからこそ私達まで召喚されているんだけどね。


「ですが、アルティメットゴブリンが本当に発生していたら……戦力が圧倒的に足りませんよね?」


「ああ、確認されているだけで他に3件……似たようなことが起きている地域がある。Aランク級以上の強者が分散招集されていて……ここは勇者達だけで何とかしろって話だ」


「だから、戦力が足りませんよね?」


 そこでお手上げだとばかりにオルステッドは両手をあげた。


「そうだな。下手をせんでも全滅かもな。ともあれ、今から向かう王都で騎士団とギルドから少しばかりの戦力補充ができるということになっている。まあ……結論はそれを見てから……」


 と、そこで初めて南のプラカッシュが口を開いた――否、叫んだ。


「囲まれておるっ! 最低でも……ゴブリンエンペラーが10体っ!」


 少し遅れて二人の表情にも緊張が走った。

 言葉ではなく、自前の気配でソレ等にそこで気づいたようだ。


「いきなりの団体さんかよ……ってか、その数は本当に進化が起きてやがるな。尋常じゃねえぞ」


 そして私は既に火之迦具土神(ヒノカグツチ)を携えて立ち上がって馬車の入口へと歩を進めていた。


「おい、コーデリアっ!? お前……聖剣は?」


 サブウェポンとして荷物に入れておいた聖剣をオルステッドは指さした。


「……それは要らない。必要なら使って良いよ」


「いや、しかしお前っ!」


 そうして私はそのまま馬車の入り口から外へと飛び降りる。


「まあ、こっちの動きは世界連合を通じて筒抜けだろうね。連合の密使みたいなことをやりながら、中枢部まで根を張ってたってことらしいし」


 そうだよねモーゼズ。

 押さえつけていた蓋が無くなれば、アンタは真っ先に私を……力で自分のモノにしようと動いてくるよね。


 周囲の森の中にはゴブリンエンペラーが13体……そして、アルティメットゴブリンが一体。


 そこで私はフフっと笑った。


 手加減抜きでいきなり全力投球じゃない。


「でも、あいにくねモーゼズ。こちとらちょっと――ヴァージョンアップしてんのよっ!」


 そうして、私は鞘から神殺しの――炎剣を抜いた。

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