第100話

「なるほどなんです……」


 三枝とエルフの爺さん、そしてギルド長が息を呑んだ。


「まあ、かなり……状況は切迫しているみたいでやすね」


「しかし、どうして今まで転生者達は計画を実行に移さなかったのじゃ?」


「連中も一枚岩じゃないってことだ」


「どういうことなんです?」


「モーゼズ……この世界の人口を調整しようとしてる連中と、あくまでも現地にはかかわらずに保留にしようとしていた勢力があったんだ」


「と、いうと?」


「つまりは、モーゼズ達を押さえつけていた勢力がいたんだ。そいつ等と龍王たちは相互不干渉の協定も結んでいてな。そうしてずっと世界のパワーバランスは保たれていたんだが……問題が起きたんだ」


「……?」


「転生者達は過去に戻る術を発見した。マーリンのロリババアがいうには理論上はありえないとの話なんだが――ともかく連中は見つけたらしいんだよ」


 どこで三枝はポンと手を打った。


「そうして、穏健派の勢力が消えて……モーゼズさん達というのが野放しになると?」


 ああ、と俺は頷いた。


「今までも陰でコソコソはやってたみたいだが、それが大手を振って……表の世界に干渉をしてくるだろう」


「なるほどです。それが半年と言う期間なんですね?」


「ああ、そういうことだ。半年後に連中は帰って……間違いなく……始まる」


 と、そこで話は終えて、みんなも休憩のお茶を飲み終えたようだ。


 俺はニヤリと笑ってゴキゴキと拳を鳴らし始めた。


「と、それが今の世界が置かれている状況だ。だから――お前らを半年で叩き上げる」


「本当に大変なことになってるみたいですね。でも……ハードトレーニングはちょっと……」


 怯える三枝に俺はニコリと笑った。


「大丈夫だ。ギリギリ死なない程度に調整する予定だ」


「……ワシの年齢をちいとばかり考えてもらえるとありがたいのじゃが」


「大丈夫だ。俺は1000年以上生きてる奴を何人も知っている」


「……あっしはギルド長の仕事が」


「実は退職届なら俺が代筆して既に受付嬢提出してある」


「リュートさんっ!?」


「まあ、それは冗談だが……休職はしてもらわんと困るな」


 オッサンはしばらく考えて、そして地面に置いてあった剣を手に取った。


 そうして、剣を天に掲げて諦めたように笑った。


「せっかくAランクまで上り詰めて田舎のギルド長の資格も得て……斬った張ったの世界は引退して……悠々自適のセカンドライフとシケこもうと思ったのに……とんだ人間と関わり合いになっちまったもんでやすね」


「俺はオッサンと出会えて嬉しいぜ?」


「まったく……リュートさんにはかないませんや」


 口では色々と言っているが、全員の瞳に小さな覚悟の炎が灯ったのが分かる。


「ってことで……半年間ミッチリ仕込むからな。まずは魔物を狩って最低限のレベルアップをしてもらう」



 そうして阿鼻叫喚の地獄の半年間の合宿が始まったのだった。


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