第99話


「そもそも人間は魔法なんていう訳の分からん力を扱えるようにはできちゃねえんだよ」


「……?」


 何言ってんだコイツ的に三枝はポカンとして小首を傾げた。


「いや、これは本当にそうなんだ。信用してくれよな」


「じゃあ、どうして私達は魔法を使うことができているんです?」


「ああ、それはな――」


「はい、どういうことなんでしょうか?」


「元々、人間もまた遺伝子操作で強化された人種なんだよ」


「人間も……強化?」


 ここが異世界ではなく超未来の地球だった場合、そもそもステータス何て言うものがあること自体が意味分からん。


「大気中と体内に無数のナノマシンが撒かれていて、ステータスに応じて超常の技を使用する際に手助けをしてくれるっつー仕組みなんだ。異常な筋力もまた然りだな」


 チンプンカンプンな風に三枝は目を白黒させている。


 まあ、分からんだろうな。


「大気中に4大精霊や気が溶け込んでいて、それが魔法や仙術を使用する際に重要な手助けをしてくれるのは知っているな?」


「あ、それなら分かりますです」


「要は4大精霊や大気の気と呼ばれるもの自体が古代に作られた一つのシステムなんだよ。あるいはそれが生物兵器の力でもある」


「ふーむ……」


「そうして俺たち人間もまた、文明の後ろ盾なくして岩を拳で粉砕するようなモンスターが闊歩する世界では生きていくのは無理ゲーだ」


「……」


「だから、世界を滅ぼした際に、文明崩壊後の世界を生きる術として人類と言う種そのものに人工的な進化を施したんだ」


「でも、破滅思想の行きつく果てに、人類の全滅を旧人類は願ったんですよね?」


「ああ、そうだな」


「だったらどうしてわざわざ……そんな手助けをするようなことを?」


「結局――」と、俺は空を見上げた。


「残った良心……いや、偽善なんだろうな」


 文明を崩壊させつつも人類という種そのものまでは完全には刈り取らなかった。

 それはきっと罪悪感を紛らわせるための措置……というところなんだろう。

 

 あまりにも中途半端で、そしてあまりにも人間的な結果だとも言える。

 オマケに文明が進み過ぎないように、極悪な予防装置までキッチリとつけてやがるんだからな。


「ふーむ……大体の事情は分かりましたが、それで他の転生者さんたちは何をしようとしているんです?」


「人口が増えすぎたから連中は調整を自らの手で行おうとしている。かつて人類を滅ぼした粛清の神に自分たちがなろうとな」


「と、言いますと?」


「人口って言うのは文明の進捗度のバロメーターでもあるんだよ。食糧自給技術の関係が人口増加の主因なんだが……まあ、それは良しとしてばらまかれたナノマシンで人類の総人口は常に把握されていてな。500万という数を越えないように調整されているんだよ。例えばそれは大厄災といった形だったりでな」


「あ……」と三枝は大きく口を開いた。


 古の時代から続く人類の危機である大厄災。

 そりゃあそうだろう。

 突然に引き起こされる悪魔的理不尽な虐殺イベントで、その原因は誰も知らず、いや、知ろうともせずにただの自然災害的に受け止めていたんだからな。


「それじゃあ今まで鬼神が出たり、明らかに人為的に大厄災が模されていたのも?」


「一つの実験だったんだろうな」


「じゃあ、転生者の皆さんは人工的大厄災を各地で引き起こして大虐殺による人口調整を?」


「恐らくは……」


 それだけが狙いでは無いフシも色々とあるんだが、とりあえずそれが行われるのは確定だ。


「でも、リュート君は今までどうしてそんな人たちを放っておいたんです?」


「理由は二つある。一つ目は連中の目的がある意味では正当な理由だからだ。連中を止めて虐殺を止めたとして、結果として逆に人類はそこで詰む」


「え? どういうことなんです?」


「この世界ってのは実はこの星という規模では非常に狭い範囲内なんだ。いや、正確に言うのなら、俺たちは箱庭で生かされている」


「箱庭……ですか?」


「最果ての土地の更に外の世界では、未だに旧人類を滅ぼした究極の生物兵器の群れが闊歩してやがるんだよ。人という種族を見つけ次第に殺すようにプログラミングされたキリングマシーンだ」


「でも、私たち……生きてますよね?」


「だから、生かされている。俺たちの認められた生存範囲……箱庭の中には入り込まないようにプログラムされているんだ」


 そこで三枝は何かに気づいたように息を呑んだ。


「それじゃあ、500万と言う数字を超えると?」


「ご察しのとおりに外から連中がやってくる。今度は一部を残すとは言わずに……丸ごと刈り取られることになるって話だ」


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