第98話
――遥か昔の太古の時代
宙船が他恒星系に探査へと繰り出し、遺伝工学が神話の生物を創造した時代。
文明による多大な恩恵を享受した人類だったが、それと同時に文明による多大な害を大地に与えることになる。
環境汚染は限界に達しかけ、それが故に他恒星系に活路を見出したが……それも叶わず。
科学技術で騙し騙しに大地を疲弊させながら生き永らえた人類だったが、ある時期に人類自身を滅ぼすべきだと言う考えの宗教組織が現れる。
当初は過激な暴力組織とされた彼らだったが退廃した超科学都市において、徐々に宗教組織は勢力を伸ばすことになった。
最終的に彼らは遺伝子工学の超常の技によって自ら――人類に鉄槌を落とす究極の生物兵器を作り出すことになる。
「――そうして滅んだ後に再生されたのがこの世界だ」
三枝達にでも理解しやすいように実際に伝えた言葉には多少の脚色は加えているが、大体の事の顛末はこんな感じだ。
「過去のこの星で……そんなことがあったんです?」
「ああ、事情は色々と込み入っているみたいでな」
「それで転生者って言うのは?」
「さっきも説明しただろ?」
俺自身はネット小説なんかでお馴染みだったからすんなりと受け入れることができたが、三枝達にとってはそういう訳にもいかないのは分かる。
「とりあえず、アホみたいな強さでこの世界で生まれ変わった連中だ。まさか俺も未来へのタイムトリップだとは思わなかったがな」
「うーむ……アホみたいに強いとか言われてもですね……具体例がないと分からないです」
「もう、ハッキリ言うと――俺だ。で、俺みたいな連中が10人くらい他にもいるんだよ」
なるほど……とポンと三枝は手を打った。
「それ、凄い分かりやすいです」
そこでエルフの爺さんが難しい顔をして茶をすすった。
「ふむ……にわかには信じられんが、古代エルフ族の神話とも合致する部分が……多いの」
「しかし本当なんですか? 一度この星が滅んでいる……なんて」
「最果ての土地の地下で……俺が知っている名前の滅びた古代都市を確認したよ。渋谷っつってもわかんねーだろうがな」
まあ、ハチ公以外は原型留めてなかったしな。
日本語で書かれた色んなモノが残ってなかったら、俺も信じちゃなかっただろう。
「いでんこうがくってのが良く分からないんですけど、要は生命創造の究極の技のことですよね? 神話生物を自ら作り出すってどういうことなんです?」
「家畜の研究の応用だったんだろうけどな。最初は安価に美味しい肉が大量に取れる家畜の研究から始まって、その技は軍事利用も転用された。最終的には旧文明を崩壊させた外なる神の出現に至る訳だが……」
「外なる神?」
「そこを今の段階で話するとややこしい。順を追って説明させてくれよな」
「ふむ……」
「まあ、生物兵器の最終到達点を作る過程で作られたのが神話生物で……つまり――俺たちが相手にしている魔物とか言われる連中だ」
「あまりにも話が突飛過ぎて……本当に信じがたいです。いや、リュート君が嘘ついてるとは思わないですけどね?」
エルフの爺さんが三枝の頭にポンと掌を置いた、
「エルフ族の伝承にも同様の話があるぞい。まず間違いあるまい」
「でも、魔物って言うのは生物兵器としての側面もあるわけなんですよね?」
「弱い魔物は初期の、強い魔物は後期の作品ってことなんだろうな」
「それだけ技術の進んだ時代で兵器として通用するんだったら……私達が剣や槍で戦えるのはおかしくないですか?」
へえ、三枝にしては鋭い指摘だな。
「ああ、おかしいぞ」
「だったら――」
「だが、それを言うなら……そもそも俺たちが魔法を使えることからして……おかしいんだ」
そうして三枝は呆けた表情でこう言った。
「はぁ? どうして魔法を使えることがおかしいんですか?」
まあ、魔法の存在しない世界ってこと自体が三枝には理解不能なんだろうからこれは仕方ないな。
「そもそも人間は魔法なんていう訳の分からん力を扱えるようにはできちゃねえんだよ」
「……?」
何言ってんだコイツ的に三枝はポカンとして小首を傾げた。
「いや、これは本当にそうなんだ。信用してくれよな」
「じゃあ、どうして私達は魔法を使うことができているんです?」
「ああ、それはな――」
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