第96話
それぞれの半年 ~リリスの場合 その1~
龍の祭壇。
かつてリュートがリリスの育ての父を送った場所。
ホスト姿の龍王が、リリスに向けて微笑んだ。
「リリス、良く今まで力を全力で使わずに我慢したね」
「……はい龍王様。正直、鬼神の時は死ぬかと思った。力を使おうかとも思った」
「まあ、気絶させられて結果オーライってところじゃないかな。そうじゃなければ……今日と言う日に間に合わなかっただろうから」
「……そのとおりだと思う」
「だが、これで君も龍神の力を完全に扱うことができるようになる訳だ」
そこでリリスはコクリと頷いた。
「……龍魔術スキルレベル10」
「そういうことだ。元々キミはかなり無理のある形で、龍魔術を扱っていた。人間と龍とでは根本の脳の構造が違うからね。龍の魔法の扱い方を人間がそのままやるには無理がある」
「……だから、龍神の祭壇での御霊の受け入れの儀式。魔力を多大に必要とする。父さんが英霊として昇神するまでの間……龍神の力の受け入れの為の魔力の温存の為……全力で戦うことは避けてきた」
龍を模した淡く優しい光のオーラがリリス達の頭上に浮かぶ。
そうしてリリスが瞼を閉じると、子供を抱く親のように――優しく優しく光が彼女を包んでいく。
「……これで父さんの力が本当の意味で私に宿った」
「まあ、普通は人間に力を貸す龍神なんていないんだが、いや、同じ龍族でも力を貸す龍神なんていない。君の親は……やはり親バカなんだろうね」
そこでリリスはムスリと頬を膨らませた。
「……馬鹿という言い方は良くない」
そこで龍王はクスリと笑った。
「こりゃあ失礼。まあ、魔術式の構築のサポートは君の父親がやってくれるだろう」
龍王は顎に手をやって何やら考え始める。
「今の君なら……龍化した龍族の間でも3指に入るほどの実力を持っているだろう」
「……光栄」
ニヤリと龍王は笑ってリリスに言った。
「一度僕と手合わせしてみるかい?」
その問いかけに、フルフルとリリスは首を振る。
「……それは無理ゲー」
「ハハッ、まあそれはそうだろうね」
と、その時――龍の祭壇に一人の少女が現れた。
「いや、そうとも言い切れんぞ?」
「何故にマーリンが……ここに?」
現れたのは魔界の禁術使い――マーリンだった。
「弟子のパワーアップイベントじゃぞ? 来んほうがおかしいじゃろう」
「弟子? そんなことは初耳だけど……」
「リュートから聞いておらんかったか? 一時期、ワシはリリスを預かっておっての。そしてこの半年……ミッチリと仕込ませてもらったおかげで、ある程度の禁術はマスターしておる。まあ、魔力を食い過ぎるので使用は禁止しておったのじゃがな」
「ああ、初耳だ。それに……なるほどね。確かにそれじゃあボクもウカウカはしてられないかもね」
「更に言うと禁術と龍魔を併せて……リリス特有のオリジナル極大魔法もいくつか使えるようになっておるわ」
そこで龍王は肩をすくめて苦笑した。
「麒麟児はリュートだけだと思っていたが……リリスもか。本当にあの村人は……龍の里に嬉しいプレゼントばかりを贈ってくれるね。しかし、短期間で禁術もマスターするとは……この子もまた天才というか何というか……」
「いや、別にコレは魔術の天賦の才があるというわけでもない」
「と、言うと?」
「ただ、リュートの為に……愚直ということじゃよ」
コクリとリリスは頷いた。
「……リュートは私の生きる理由。あの人の役に……立ちたい」
「ともかく……」と龍王は笑った。
「この時期に貴重な戦力が手に入るのは純粋に嬉しいよ」
「うむ。どこぞの阿呆が……破滅へのカウントダウンを始めよったからな」
「期待しているよリリス」
「……はい。龍王様」
「様付けは要らないよ。どうやら君は――僕たちと戦場で肩を並べるほどの存在となったようだからね。かつて君の父が僕を呼んだように――龍王と呼ぶが良いさ」
リリスは驚いた風に少し目を見開き――そして小さく頷いた。
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