第66話

 キャンプ地にはグルグル巻きにされた悪党が3人。

 お爺ちゃんはリズの魔法によって昇天してしまったので合掌……というところだ。

 殺すまでいっちゃうのはどうかと思うが、まあ、それは致し方ない部分もあるだろう。


 昔の偉い人が言ってたのだが、イエスロリータ……ノータッチ。


 ロリコン趣味については性癖の問題なのでどうこう言うつもりはない。

 っていうか、それは男の好みで言うと美人系が好きか、あるいは可愛い系が好きか。

 あくまでその延長線上の問題なのだ。

 ロリコンまで行くと少し行きすぎた感はあるけれども……まあ、間違いなくそういった系統の問題だと思う。

 あくまで、好みの問題で内心の自由だとも思う。

 だから、その性癖的な意味での好き嫌いについてまで……どうこう言うのはそもそもおかしいだろう。


 が……さすがにガチでロリをレイプしちゃうようなのは、どこの世界でもノーサンキューだ。

 だからこその、イエスロリータ・ノータッチなのだ。


 と、まあ、それはさておき。


「とりあえずこいつらは明日にでもギルドマスターに引き継ぐとしようか」


「……その前に……休憩しよう」


 億劫そうにリリスはテントを指差した。


「こいつらはどうする? ここは野獣ひしめく森の真ん中だぞ? 襲われたとしても縄で固められて反撃も逃亡もできねーし……」


「……喰われれば運がない。ただそれだけ」


「そりゃあ酷くねーか?」


 泣きそうな表情で、悪党3人が俺にすがるような視線を向けてくる。


「……どうせ街に連れ帰っても良いとこがギロチンからの晒し首。悪ければ生きたままに広場で衆人からの投石の的にされる。魔物に一思いに殺された方がむしろ幸せだろう」


「確かにそりゃあそうだな」


 悪党3人が俺の言葉にあからさまに消沈した。

 まあ、多少は気の毒なような気もするが、それはお前等が悪いんだから仕方ねーわな。








 そんなこんなで晩飯である。

 焚火でフライパンを熱している俺にリリスが問いかけて来た。


「リュート? 今日のご飯は何?」


 んー……。

 正直迷うな。



 リリスのアイテムボックスのそもそもの積載量はトン単位だ。

 だが、腐食なんかの対策――アイテムボックス内の時が止まるという、そんなチートスキルの圏内に入る範囲はせまい。

 いや、まあ……そうは言っても……劣化しない希少肉が数十キロ単位で収納されているという……そういうチートスキルな訳なんだけどさ。


「エンシェント・オークでいくか? 後、ニンニクを出してくれ」


 そこでリズが呆けた表情でつぶやいた。


「え、え、エンシェント・オークですか? それは伝説のSランク級の食材で……闇オークションでも値段がつかないような希少食材……」


 狼狽するリズを無視してリリスはアイテムボックスから小分けされたエンシェント・オークの霜降り肉を取り出した。


 ぶっちゃけた話、グラム500円の鹿児島の黒豚レベルだ。


 滅茶苦茶に美味いのは間違いないが、伝説とか幻とか言われるレベルの食材ってのは俺的には疑問が残る。


「おいリリス?」


「……何?」


 ボチボチ、熱したフライパンも良い具合だ。


 3枚のオーク肉をフライパンに勢い良く投入し、同時にニンニクのスライスを投入する。

 ジュっと油が弾ける音が鳴る。

 瞬時に芳醇な豚とニンニクのあわさった香ばしく、そして濃厚な匂いが拡がっていく。


「アレを出してくれよ」


 肉に塩を振り駆けながら俺はリリスにそう言った。


「……アレ? アレって何?」


「肉っつったらコショウだろ?」


「……分かった」


 リリスは無言でアイテムボックスからコショウの容器を取り出した。


「リュートお兄ちゃん……それって……香辛料ですか?」


「ああ、そういう事だな」


 フライパン内の肉に、豪快に俺はコショウを振りかけていく。

 そこで見る間にリズが表情を凍り付かせた。


「香辛料……コショウと言えば……等量の黄金と同じ価値だと言います」


「ああ、そうだな」


 あっけらかんと応じる俺にリズは呆れ笑いで応じた。


「おい、リリス、アレもだしてくれよ」


「……だからアレって何?」


「唐辛子だよ」


 リリスはアイテムボックスから一味唐辛子の粉末の入った容器を取り出した。

 そして俺は唐辛子の粉末を肉に振りかけていく。


 リズの表情が見る間に蒼くなっていく。


「レ、レ、レ……レッドパウダー? 黄金どころか……等量のオリハルコンと同じ価値と言う……」


「香辛料は確かに貴族しか手が出ないような高価なシロモノだが……お前は良い所のお嬢さんじゃねーのかよ? そこまで驚くほどのものでもねーだろ?」


「……いや、リュート。貴方のようにコショウやレッドパウダーを……尋常ではないような加減で振りかけるのは……貴族でも驚くと思う」


 やれやれと俺は肩をすくめた。



 ってか、仕方ねーだろ。

 中世ヨーロッパでもコショウを使う時は貴族でもチビチビチビチビって話なのは俺も知っている。



 でも、俺は日本人だ。

 テーブルコショーなんて一瓶98円みたいな感覚だからな。

 勿論、一味唐辛子だってそうだ。

 下手すれば特売で78円とかで売ってるもんをケチケチ使ってられるか。



 ――そもそも俺は七味唐辛子派だ。



 あの、唐辛子以外の謎の成分は一体何が入っていたのだろうか。

 忘れてしまった以上は異世界では絶対に再現できない……確か、ケシの実は入ってたはずだが。



 と、まあ、そんな感じで、昔に金を稼いだ俺がまず最初にやった事と言えば調味料の充実だった。

 前にギルドで金を稼ぐまでは酷い食生活で、そして日本にいた頃の食生活の記憶は舌は覚えている訳で。


 金があるならやはり美味い物は喰いたいってのは仕方のない事だろう。


「そろそろだな」



 ボチボチ良い感じに焼きあがって来た。

 ニンニクと香辛料を炒めた臭いで、腹の虫が踊り始めたようだ。 

 さあ、ラストは見た目も派手にアルコールファイヤー……赤ワインでフランベして仕上げって所だな。



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