第65話
呆然自失と言う風にただただその場でリズは佇む。
「おい、リズ?」
「何……でしょ……うか?」
俺の言葉でようやくリズは正気を取り戻したかのように目を見開いた。
「俺にスカーレット・フレアを撃ってみろ」
「え……?」
「良いから撃ってみろ」
「……どうするつもりですか? リリスさんに再度……攻撃中の魔法を解除してもらうつもりですか?」
「リリスの手助けは愚か、自前の魔法障壁も張らねーよ」
リズは何かを考え、そして顎に手をやりこう言った。
「でも……死んじゃいますよ?」
ニヤリと笑って俺は肩をすくめた。
「できると思うならやってみろ」
「……」
「リリスが今やったことはお前にとっては奇跡のような所業なんだよな?」
「……はい」
「リリスは俺の連れだぜ? 本当にお前は俺が死んでしまうと思うのか?」
リズはしばらく何かを考える。
時がたつ事数十秒。
そしてリズは恐らく――現状をほぼ正確に理解したようだ。
証拠に、彼女は俺に掌を向けてこう言った。
「スカーレット……フレアっ!」
迫りくる紅蓮の炎。
俺は無造作に拳を振った。
「よいっしょっと」
エルフ族が誇る固有魔法。
だが、術者が未熟な事と、固有魔法の中では初歩ということで……俺をどうこうできる道理はない。
っていうか、まあ、単純に拳が作った風圧で物理的に魔法で発生させた炎そのものを吹っ飛ばしたわけだ。
「…………………はぁ?」
リズも薄々と俺とリリスについては正確に把握していたとは思うが、流石にこれは想定外すぎたようだ。
パクパクパクとリズは口を何度も開閉させる。
っていうか、本当に何度も何度も何度も開閉させている。
お前は餌待ちの池の中のコイかとツッコミを入れたくなるが、それはさておき。
「リュートさんは……そしてリリスさんは一体……?」
すかさずにリリスがアイスピックのような鋭さの冷たい声色で言った。
「……違う…………リュートお兄ちゃんとリリスお姉ちゃん」
少しだけ考えて、リズは頷いた。
「リュートお兄ちゃんとリリスお姉ちゃんは一体何者なんですか?」
あっさり言う事聞いちゃったか……。
どうにも、長い物には巻かれる性質の子らしい。
「俺が何者ってか?」
まあ、ここは素直に応えておこうか。
「――俺は世界最強の村人だ」
そしてリリスが俺に続いて口を開いた。
「……世界最強の村人の――付き人の魔術師ですが何か?」
俺はリズに近寄り、その頭を無造作に掴んでワシワシと撫でた。
「なあ、リズ? 子供は余計な事を気にすんな。しばらくは俺が責任をもってお前の面倒を見る」
「……」
「今は黙って俺らに甘えていればいい。確約してやる。俺達(ここ)はこの世のどこよりも安全な場所だ」
リズの体毛が薄くなり、消え入りそうな声で口を開く。
「はい」
そうして、張りつめていた緊張が切れたかのようにリズは――糸の切れたマリオネットのようにその場で崩れ落ち、そのまま気を失った。
寝息を立てるリズの寝顔は、先ほどまでの張りつめた表情とは打って変わって……当たり前の10歳の可愛らしい女の子のものに見えた。
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