第64話
「リリスさん? お仕置きと言いましたよね? 何を言ってるんですか? いや……リュートさんも含めて……貴方達は何を言っているんですか? まさか、覚醒した今の状態の私を打倒できると?」
この言いぐさには俺もイラっときた。
「おい、リズ? 貴方達って……そんな言い方はねーだろ?」
「と、おっしゃられても、貴方達は所詮は駆け出し冒険者でしょう?」
まあ、リズは10歳だ。
で、他の人間たちも一部を除いて俺達にはその扱いだし。
――ただ、再度言うが俺も……少しイラっときた。
リリスに至っては絶賛ブチ切れ中だ。
先ほどまではアレほどかわいがっていたと言うのに……今は能面のような表情でクスクスと笑っている。
正直、怖い。
多分だが、こいつは子供ができたら溺愛と折檻で忙しい事になるだろう。
「駆け出し冒険者……ね。まあ、世間的(・・・)にはそういう事になってるな」
「私は遺伝で身に付けた覚醒スキルだけでベテラン冒険者を屠る事ができます」
「それで?」
「……で、私以外にも……そういう才能を持った者はいます。私はそんな連中に命を狙われているんです。私よりも……強力な力を持つ連中に……ね」
「だろうな」
「だから……私に構わないでください……リュートさん達が良い人なのは分かりました。命を助けてくれた事にも感謝しています。でも……だからこそ貴方達は私から離れてください」
リズは涙目でそう俺達に訴えかけ、俺はノータイムでリズに尋ねた。
「どうして?」
「え? どうしてって……このままではリュートさん達も巻き込まれて……」
あっけらかんと俺は答える。
「構わないぜ?」
そこでリズは一瞬呆けた表情を作り、すぐに首を左右に振った。
「言っても分からないみたいですね。このまま私に関わると……どんな目に遭うか……身をもって知ってください」
言葉と同時にリズはリリスと向き合った。
「私が使用するのは汎用魔法ではありません。固有魔法です。リリスさん? 加減はしますが……並の魔術師では上手く防いでも軽い怪我をします……気を抜かずに……全力で防いでくださいっ!」
リズは眉間に皺を寄せて掌をリリスに向けた。
「ごめんなさい。でも……私にこのまま関わると……もっと大きい怪我をしますから……」
「……」
何やら考え込んで、無言のリリスにリズが叫んだ。
「スカーレット・フレア!」
紅蓮の炎球がリリスを襲う。
そしてリリスはパチリと指を鳴らした。
と、同時に瞬時に火の球は大気中に四散し溶けていく。
「……無駄」
「え?」
一瞬で飛散した自らの最強術式に、リズはただただ驚愕の表情しか浮かべる事ができない。
「……私は魔術師。そして私の実力は覚醒スキルだけに頼っている貴方とは次元が違う」
偉そうな言い草だな。
まあ、リリスが乗り越えて来た、強くなるためのに並大抵ではない道のりは認める。
が、2年前のリリスなら今のスカーレット・フレアで消し炭になっているだろうな。
「リュート?」
リリスが険しい表情で問いかけてきた。
「ああ、構わない。好きにしろ」
俺の言葉に頷き、リリスはリズに語り掛けた。
「……ねえ、リズ?」
「なんでしょうか? リリスさん?」
「……次からがリリスお姉ちゃんと呼んでもらう」
「…………その件についてはノーコメントです」
しばし不機嫌そうな表情を作り、リリスは口を開いた。
「……さっきも言ったけれど私は魔術師」
「知っていますが?」
ならば……とリリスは杖を構えた。
「……才能だけを頼りにする……井の中のカワズの……愚かな魔術師気取りの小娘に……本当の魔法というものを見せてあげる」
頭上に高々とリリスは杖を掲げ、そして気だるそうないつもの口調でこう言った。
「……金色咆哮(ドラグズジェノサイド)」
全てを包み込む一面の金色が天空に向かって射出される。
光の筋が雲を貫き、青色の空に雲が飛散し溶けていく。
そして轟く爆発音。
大気の叫びとも言えるような轟音と衝撃波を全面に受けて、リズはリリスにこう問いかけた。
「馬鹿げて……います。魔法で……こんな事ができるなんて……ありえない……」
「……馬鹿げてはいない。これは私の発動させた魔法」
「そういう問題じゃなく……これは確かに純然たる魔法です。でも……ハイ・エルフの集団による大規模術式でも……この規模は……馬鹿げて……」
リズは大口を開き、驚愕の表情で小刻みに震えながらそう言った。
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