第63話

「推測通りに高位貴族か王族同士の禁断の愛の結晶って奴だな……ああ、本当に面倒くせーな」




 しかし……と俺は頷いた。


「まあ……相当な戦力だな。いや、楽をさせてもらえそーだ。覚醒スキルって事は、ベースのレベルが低くてあの力って事なんだろう?」


「……どういう事? 妙に嬉しそう」


 ニヤリと笑って俺は言った。


「自分の身は最低限自分で守れるようになってもらわないといけないだろう?」


「……最低限自分の身は自分で?」


 ああ、と俺は頷いた。


「パワーレベリングだよ。昔、お前もやっただろ?」


「……本気で言っているの? リズは見た所10歳で……」


「お前はあの時15歳だったが、固有魔法は愚か、汎用魔法の中での上位魔法すら使えなかっただろ?」


「……否定はしない」


 そこでリリスは遠い目で空を見上げた。


「……あの時の事は忘れてほしい」


「忘れてほしいっつーと?」


「……私があそこまでの無能だったことなんて……正直、黒歴史」


 まあ、今でこそ本人はAランク最上位級か、下手すればSランク級。

 で……人類最強の一角であるところの俺の右腕を自認してるリリスだが、あの時は確かに酷かった。

 低ランク冒険者にボコボコにされたり、自分の才能に絶望して涙を流したり。


 正直、リリスをここまで叩き上げられたのは、色んな意味で運の要素が大きいんだが、まあそれは良いか。


「……で、どういう事? リュート?」


 ともかく……と俺は頷いた。


「まあ、リリスの時よりは大分と楽をさせてもらいそうだって話だ」










「おう、リズ。自力で何とかしたみたいだな?」


 獣耳を生やし、全身を薄い体毛で覆ったリズがそこにいた。

 リズは怯えた表情でその場に蹲り、獣耳と体毛を隠すように丸まり、こちらに背中を向けた。


 そんなリズに構わず、彼女に向かって歩いていく。

 もうすぐ手に届きそうな距離になったところで、リズは叫んだ。


「来ないで……来ないでくださいっ!」


「……どうして?」


 リズは肩を震わせ、半ば叫ぶように言った。


「私……こんなんなんですよ? 獣人で……全身けむくじゃらで……でも、エルフとしての特性も持ってて……化け物みたいな力も持ってて……」


「だからどうした?」


 俺の言葉にリズは振り返った。


「どうしたって……ハイ・エルフと人狼のハーフなんですよ? これがどんなことか分かるんですか?」


「ああ、そりゃあもうめんどくさい血筋だよな? で、だからお前は命も狙われてるんだよな?」


「え……?」


 そこでリリスが口を開いた。


「……そんな事は知っている。そしてその上で私達は貴方を受け入れた」


 一瞬だけキョトンとした表情をリズは作るが、すぐに彼女は首を左右に振った。


「口で言っても分からないみたいですね……」


「何をするつもりなんだ?」


「リュートさんやリリスさん達が只者では無いのは分かります。でも……所詮は駆け出し冒険者でしょう? 私の取り巻く環境を……どうにかできる訳がない。覚醒時の私の力を見せる事でそこを骨身に感じてもらいたいんです」


 プルプルとリリスが震えている。

 この震えは、怯えではなく怒りだ。

 リリスはコメカミに幾本も青筋を浮かべながらリリスは言った。



「……今、私の事をリリスさんって言った? …………私は……リリスお姉ちゃんと呼べと……少し前に言ったはず。これは……お仕置きが必要なようだ」







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