第56話
「お前等が俺らの運搬人(ポーター)のEランク冒険者か?」
ギルドの中に入ると、開口一番に大男が訝し気な視線を送ってきた。
「ああ」
俺はリリスを指さしながら言葉を続けた。
「依頼通りに、こいつはアイテムボックスのスキル持ちで、そのレベルはマックスだ。依頼はあくまでも運搬だけって話だな。だから報酬は一人分で良い。俺は依頼とは関係の無い所でこいつを勝手に護衛する……ただそれだけの付き添いとしての存在だ」
俺達の眼前のテーブルに腰掛けるのは男が3人に女が一人。
戦士、剣士、魔術師、僧侶。非常にオーソドックスなパーティーで実力の程は総合でCランク中位というところだろう。
個々人であればDランク級の冴えないベテラン……といった所だ。
と、リーダーと思われる戦士の大男は、ふむ……とアゴ髭に手をやる。
「数日間かけての長丁場の討伐依頼を俺達はこなす。そして、お前等は俺らサポートが役割だ。つまり……当然の事だが雑用もお前さんにやってもらう事になる」
そこでリリスが会話に割り込んできた。
「……それは依頼募集の内容とは異なる。私のやることは運搬人(ポーター)。そしてリュートはただの付き添い」
大男はリズを指さして肩をすくめた。
「俺達はEランク級冒険者を募集していた訳だ。で……これはなんだ? 一緒に連れて行く気なのか? ガキの使いじゃねーんだぜ?」
男はリズを指さしてこちらを小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
その瞬間にリリスのコメカミに青筋が走った。
「……リズはモノではない。コレという言い方をするな」
俺はリリスを手で制し、大男に語り掛ける。
「この子も含めて俺が警護する。迷惑はかけねーから」
「アイテムボックスのスキルを扱う術者が死んだ場合、その場に荷物が散乱する。到底持ち帰る事ができねーぐらいの獲物をこっちは狩るつもりなんだよ。どうしてこちらが大切な運搬人(ポーター)に危険が及びかねないような……足手まといを連れて行くような、無駄なリスクを背負わなければならねーんだ?」
「どうせ俺らは戦闘には加わらない。お前らが勝手に戦うのを遠くで眺めているだけだ。危なくなったら俺らも素人じゃねーし、安全域までちゃんとトンズラするから安心しろ」
「なあお前さんよ? そんな事はこっちも分かって言っている。しかし、お荷物を背負い込むことも事実だ。だったら雑用程度は料金外でこなして欲しいってのは……そんなに無茶な言い分かい?」
まあ……そりゃあそうか。
確かに、そもそもの運搬人(ポ-ター)募集依頼には『ただしEランク級冒険者以上』という限定もついていた。
「ああ、分かったよ」
「こりゃあ助かった。Fランク級冒険者辺りに雑用の依頼を出そうと思ってたんだよ。討伐依頼の同行は高くつくからな。炊事洗濯から野営、汚物の廃棄処理まで……何でもやってもらうからな?」
その時、リリスは半笑い――ただし目の奥は笑っていない。
「……リュートに雑用などはさせられない」
「良いから黙ってろリリス」
「……しかし」
「黙ってろって言ってんだろ」
シュンとした表情をリリスが作った所で、話がまとまったとばかりに大男はパンと掌を叩いた。
まあ、せいぜいベテランCランク級パーティーの肩書を利用させてもらおうか。
時刻は遡り数日間の夕暮れ。
4人の冒険者パーティーは酒場で高級ワインを煽っていた。
「しかし、やはり兄貴は天才ですぜ! 低ランクでのアイテムボックススキル持ちを募集する事が……こんなに金になるなんてアッシは思いもよりませんでした」
剣士の男は、リーダーと思わしき戦士の大男のグラスに酒を注いだ。
「ガハハハッ! そりゃあそうさ。アイテムボックスのスキルはレアスキルだからな。依頼の報酬も高いし、そりゃあ小金を貯め込んでいるってのもんよ!」
「なんせ、自分の資産の全てを自らのアイテムボックスに入れて持ち歩いてるんですからね」
そこで今まで黙っていた魔術師の女が口元をゆがめた。
「討伐依頼に運搬人(ポーター)として同行中に……魔物に殺された風を装って、私たちが同行冒険者を殺してしまう。そしてお宝だけをいただくって……物凄い発想よね」
「そうですぜ姉さん! 馬鹿正直に命の危険を晒して魔物を狩るなんざ、馬鹿のする事ですぜ!」
とは言え……と老年の僧侶はアゴ髭をさすり始めた。
「この方法を採用してから既に1年じゃ。一回一回色々なギルドを廻って、アイテムボックスのスキル持ちを事故死に見せかけているが……そろそろ潮時じゃの」
ああと頷き、戦士の大男は再度ガハハと笑った。
「どうせ俺らはパーティー戦力でBランクには上がれない。年齢的にもそろそろ全員キツイものはあるし……最後に老後の分まで一気に荒稼ぎにしようって訳だ! 今回の獲物はアイテムボックスのスキルレベルがマックスって話だからな……期待できるぞ!」
そうして彼らはそれぞれのグラスを手に取る。
「それじゃあ最後の仕事に……乾杯っ!」
カチンと音が鳴ると同時に、全員が下卑た笑みを浮かべた。
冒険者達4人の乾杯から1日前。
冒険者ギルドのギルドマスター室。
「ふーん……アイテムボックススキル持ちの連続殺害事件……ね」
ギルドマスターのオッサンが神妙な顔つきで頷いた。
「ええ、各地のギルドを渡り歩いていて、中々に尻尾を掴ませませんが……恐らく間違いないでしょう。動機は金です。確かにアイテムボックスのスキル持ちは冒険者ランクの割りに報酬が高いですし、全財産を持ち歩いている事が多いです」
「まあ、強盗稼業からすると垂涎モンだろうな」
「ええ、その通りです。そして強盗稼業では、狙ってアイテムボックスのスキル持ちを狩ることは難しいですが、同行依頼と言う形で、同じ冒険者を条件をつけて募集できる場合は……話は別です」
「しかし分からねーな」
「分からない? 何がですが?」
「ベテラン以上の冒険者ってのは、基本的にはかなり金を持ってんじゃねーのか?」
「確かに報酬は高いですが、それは危険を前提とした報酬ですからね……そして金遣いの荒い連中も多いですし、ロートルに差し掛かった半端者は老後の設計に絶望する者も少なくないです」
まあ、そんなもんなのか。
オッサンの秘書の淹れてくれた紅茶のカップに口をつける。
むさくるしい顔に似合わず、良い紅茶飲んでやがるなこいつ。外見からはとても味の違いが分かるとは思えねえが……。
「で、俺らが……そんな悪質な冒険者パーティーと同行する事に何のメリットが?」
「相手がリュートさんやリリスさんを殺しにかかってきた場合、その場で返り討ちにするか、あるいは無力化してください」
「それで?」
「リュートさん達はCランク級冒険者パーティーに同行したわけです」
「だからメリットは何なんだよ?」
「ベテランの冒険者パーティーは想定外の数の……討伐難度Bランク級の格上の魔物に囲まれて……獅子奮迅の働きをしましたが、魔物と相討ちで全滅してしまいました」
そこで俺は掌をパンと叩いた。
「なるほど……手柄だけを横取りしちまったっていう形にすれば良いって訳だな?」
「そういう事です。そしてそういった場合は慣例上……生き残った同行者にBランク級の依頼を達成したという実績が与えられます。問題なくリュートさん達はDランク級冒険者に昇格するでしょう」
なるほど。
ある意味では目立つかもしれねーが、特に不自然な点の無いランクアップの方法だ。
そして一回の仕事で迅速にランクアップできるというところも気に入った。
「良し、その話……乗った!」
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