第55話
「それでお前は一体何者で……そして何をやらかしたんだ?」
「……え? 何の事……でしょうか?」
リズは目を泳がせながらそう言った。
どうやらトボけるつもりらしいが、そうは問屋が卸さない。
「見た目がエルフで獣耳が生えてたら、そりゃあ誰だって訳アリだって思うだろうよ」
しばしリズは押し黙る。
そして長いまつ毛を伏せた。
「すいません。教える事が……できません」
「そりゃあまた……何でだ?」
「秘密を知ってしまえば間違いなく危険な目に合わせるから……です。私を取り巻く環境は……恐らくリュートさんが思う以上に面倒くさい事になっていますので……」
「良し分かった。とは言えこのままお前を放置する訳にもいかない。って事で……今日からしばらくは一緒に行動だ」
俺の言葉にリズはキョトンとした表情を作った。
「え……? それ以上何も聞かないんですか……?」
「ああ、聞かない。言いたくねーんだろ? だったら言いたくなったらで良いよ」
そこで俺はクスリと笑いながらリリスを指さした。
「どうにもお前はこちらのお姉さまのお気に入りらしい。で……お前を見捨てたら、こいつに後で噛みつかれるからな」
「……むしろ噛みちぎる」
よく考えたら下ネタとも受け取れる会話だが、お子様である所のリズはそんな事は思いもよらないのだろう。
まあ、とりあえず1週間も経てはリズは教えてくれるはずだ。
なんせ、リズの取り巻く環境は恐らくは俺達にとって……面倒ではあっても決して危険や脅威にはなりえないのだから。
「どういう事……でしょうか?」
「まあ、1週間程度はリズの護衛を買って出てやるって事さ」
とはいえ、リズが事情を説明してくれるまで……俺達の実力に気付くまでに1週間ってのは盛り過ぎたか?
最低限は目立たないように心がけて行動するので……まあ、どうでも良いか。
その際は2週間でも一緒にいれば良い。
どの道、ここいらの冒険者ギルドで受ける仕事で、多少のお荷物を抱えた程度で俺とリリスがヘマをするなんてありえない。
「……本当に一緒にいても良いんですか? ご迷惑をかけるのは勿論のことで、秘密を知らなくても危険な目にあるかもしれないんですよ?」
「どうせ乗りかかった船だしな」
そこでリリスが割り込んできた。
「……ただし条件が3つある」
「条件……ですか?」
うんとリリスは頷いた。
「……私の事はリリスお姉ちゃんと呼ぶこと。それと夜は絶対に一緒に寝る事」
うわぁ……と俺はドン引きする。
そしてリズは何を言われているか分からないと言う風にただただ目をパチクリさせている。
「……そして最後の条件一つ」
「最後の条件……ですか?」
「……リュートの事はお兄ちゃんと言う事」
「おい待てお前」
パコンとリリスの頭に掌でツッコミを入れる。
「何故にそこで俺が出てくる?」
「……私がお姉ちゃんならリュートは必然的にお兄ちゃんになる」
「すまんサッパリ分からん」
「……具体的に説明すると、リズが私の妹であればリュートは必然的にリズの義理の兄になるということ」
「やかましいわっ!」
再度、パコンとリリスの頭に掌でツッコミを入れる。
「…………」
黙りこくるリリスの頬が微妙に赤らめ、艶めかしい吐息で溜息をついた。
フー。
フー。
フー。
鼻息が徐々に荒くなり、吐息に熱が帯びていく。
そういやこいつ、俺を相手にすると生粋のドМになるんだったか。
これ以上のツッコミはご褒美にしかならないので辞めておこう。
「ええと……こんな感じで言えば良いんですか?」
と、そこで、おっかなびっくり……と言う風にリズが俺を見上げてこういった。
「えと……あの……その……うぅ……恥ずかしいなぁ……えぇっと――リュート……お兄ちゃん?」
西洋美術の絵画から飛び出してきたような金髪碧眼の幼女の上目遣い。
いや……これは中々の破壊力だ。
正直、悪くねえなと思ってしまった。
いや、そう思ってしまうのもまた……生き物のサガか……。
可愛いものは可愛いしな。
と、そんなこんなで俺達はしばらくの間、リズと同行して冒険者ギルドの仕事をこなす事になったのであった。
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