第40話

 勲功授与式から数日後、アルテナ魔法学院において、俺と三枝は底辺クラスの合宿から通常クラスへの編入が特別措置で許された。

 国王から表彰を受けるレベルの手柄を立てた学生を相手に、クビにするか否かの最底辺待遇というのは体裁が悪い。

 


 ……と、言うよりもこの場合は俺と言うか、三枝に対する配慮が非常に大きい。



 ちなみに、オーガの討伐におけるコーデリア達の待遇は次の通りとなっている。








 ・コーデリア:白銀騎士 (騎士階級では第2位の階級。下手な貴族よりも偉い)





 ・リリス:プレ・アデプト (魔術師階級では第4位の階級。宮廷魔術師の下位クラスは大体コレ。学生としては最上位)





 ・三枝:準国賓 (留学生として王族に準じた待遇)






 











 で、俺は……ただの騎士待遇 (騎士階級では第8位)だ。


 ――うん。完全に村人だからって舐められてる。


 コーデリアは既に勇者として数々の実績を挙げて、元々が第4位の騎士階級に属していたし、リリスにしても魔法学院の特待生だ。

 そして三枝は落ちぶれたと言え、元々は名家の出の留学生だ。

 それぞれの落としどころとしては非常に妥当と言える。






 多少の苛立ちを覚えたが、それをきっかけに俺は……これは不味いと思い始めた。

 つまりは、魔法学院を留年しない程度に、しばらく休学する事にした訳なのだ。






「って事で、俺はとりあえずサクっとAランク級程度になってくる予定だ」






 アルテナ魔法学院の正門には旅支度の俺とリリス。そしてそれを見送るコーデリアと三枝と言った形。


「……サクっとAランク……ね」


 ジト目でそう言うコーデリアの言葉を三枝が呆れたように続けた。


「サラっと……本当にとんでもないこと言っちゃうんですね」


「ん?」


「いや、サラっととんでもない事を言ってんだけど……まあ、本当にサクっとできちゃうだろうからね」


 俺は既に十分に強くなった。

 多少は目立っても力で大体の事はなんとかなるから……ある程度は目立っても……もう良いだろう。

 村人ってだけで舐められるのは別に構わないが……それで将来的にコーデリアのサポートができなくなるのは非常に不味い。


 例えば、高位の魔物の討伐隊に俺が入れないような事態は本当に避けたい。

 そうであればどうするか?


 サクっとAランク級程度の冒険者になって、肩書で周囲の人間を黙らせるしかない。


「いつ頃戻るかは確約できんが、留年しない程度の授業日数は確保するつもりだ。それじゃあまたな」


「そっか」


 少しだけ哀しそうな表情を作って、けれどコーデリアは健気に微笑を浮かべた。


「できるだけ早く帰ってきなさいよ!」


「ああ、善処する!」


 リリスに視線を向ける。

 彼女はコーデリアと三枝に面倒臭そうに一言呟いた。


「……それじゃ」


 相変わらず不愛想だな……と苦笑しながら、俺は後ろ手を振りながら歩きはじめた。


















 二人の姿が見えなくなると同時に、三枝はコーデリアに疑問を投げかけた。


「しかし、良いんですか? コーデリアさん?」


「ん? 何が?」


 しばし押し黙り、三枝は言いづらそうにしながらも、更に疑問を投げかける。


「好きなんでしょ……? リュート君の事」


 しばしの静寂が二人を包む。

 そしてコーデリアは眉間にしわを寄せて、ピクピクとコメカミを痙攣させる。

 極め付けに顔を真っ赤にして、震える声でこう言った。


「さあ、どうだかね?」


 吹き出しそうに三枝はなるが、掌で口元押さえる。


「ふふっ……コーデリアさんは嘘をつくの……下手なんですね」


「……」


 肩をすくめて応じるコーデリアに更に三枝は追撃をしかける。


「で、リリスさんと二人で行っちゃいましたけど……本当に行かせても良いんですか? 男女の二人旅ですよ?」


 しばし考えて、コーデリアは空を見上げる。


「んー……アイツについては私はもう、色々諦めてるのよ」


「諦めている?」


 溜息と共に、コーデリアは、もうどうしようもないとばかりに両手を挙げて降参のポーズを取った。


「うん。何を言ったって聞かないし、自分の思ったとおりにやっちゃうし、そしてとんでもない次元で思った事の全てをキッチリ完遂させるし……だから、これで良いの。だってさ?」


「だってと言いますと??」


「アイツさ『これからお前と同じ道を行く』って私に言ったんだよ? そしてアイツはキッチリと思った事を思った通りにやっちゃうの。だから……」


「だから?」


 凛々しい位に眩しい笑顔で、コーデリアは屈託なく笑う。




「これで良い。私はアイツを信じてる」




 そうしてコーデリアと三枝はいつまでもいつまでも二人の背中に手を振り続けるのであった。


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