第36話

「人類最強……? ふむ、それはまた興味深い話だね?」


 龍王の部屋――真紅の絨毯には玉座に座る龍王と、そして跪く人間が一人。


「帝都の冒険者ギルド主催の調査でして……各界の有識者からご意見を賜ると、そういう事でございます」


「それは戦略級生命個体……と言う意味での人類最強候補と言う事で良いのかな?」


「無論……戦術級ではなく戦略級。ただの一個体の存在で大国の戦争の結果に大きく関与する……そういうレベルでございます」


 ゆったりとした感で、リラックスしながら龍王は玉座でワイングラスをくゆらせている。

 黒スーツに薔薇柄のカッターシャツ。そうして、玉座には日本刀が立てかけられている。



 リュート曰く「ホスト侍」との事だが……割とマジでそのまんまな感じでホスト侍だったりする。



 それはともかく。

 金髪と銀髪のアシンメトリーと言う、ホストスタイルの龍王は笑いながらこう言った。


「ふむ……とりあえず……君ね?」


「はっ……どうかなされましたか? 龍王様?」


 そうして、龍王はパチリと指を鳴らした。

 すると、ゴシック系のメイド姿の若い女が一礼と共に入室。

 そのまま、栓の開いたワインボトルを人間の男の目の前に置いた。


「チョットイイトコミテミタイんだよ……僕はね」


 しばし考え、人間の男はワインのボトルと龍王を交互に見た。


「ふむ……チョットイイトコミテミタイ……ですか??」


「これは異世界の話なのだが……美の箱庭たる……ホストクラブというところがあるらしい」


 怪訝に人間の男は眉をひそめる。


「ホストクラブ……ですか?」


「そこで行われる様式美。それこそが――チョットイイトコミテミタイ」


「……ですから……その……チョットイイトコミテミタイとは一体……?」


「とにかく、君は……一気飲みをすればいいんだよ」


「一気飲み……ですか?」


 コクリと龍王は頷いた。


「ああ、そういうことだ」


「それをすればどうなるんですか?」


 ふむ……と龍王は顎に手をやり、そしてしばし考え込んだ。


「……」


「……」


「……」

 

「……」


 時間にして30秒程度。

 龍王はニヤリと頷きこう言った。


「そこは君……チョットイイトコを見せてくれたら……」


「見せてくれたら?」


「その後は――」


 ウインクをして、そして龍王は続けた。






「――レッツ・パーティ―ナイトだよ」







「……?」


「ドンペリとか空けちゃったりとか、まあ、そういうノリだよね」


 困った様子の人間の男を無視して、龍王はパシンと掌を叩いた。

 茶番はここまでで本題に入ろうと言う事らしい。



「で……人類最強だったかな?」


「はい、その通りでございます」


 しばし宙を見つめて龍王は頷いた。


「まず、人類の定義に何処に置くかによるよね」


「獣人……あるいはエルフ。亜人の扱いをどうするかということでしょうか?」


「その辺りを入れるのは当然として……人化の法を用い……普段は人間と変わらぬ容姿の僕達……龍族も入れるのか」


「龍族は……違うのではないでしょうか?」


「何故? 人語を理解し、基本的には僕たちは人間と同じ姿を取っているよ?」


 そこで人間の男は諦めたかのように首を左右に振った。

 と、いうよりも龍王の意図を理解したのだろう。


「最強決定戦に龍族も入れても良いですよ」


 うんと頷き龍王は言った。


「まず、龍族最強の最右翼として……僕は候補として欠かせないだろうね」


「…………と、いいますかむしろ今……無理矢理に龍族を入れましたよね?」


「そりゃあまあ……最強争いでは……自分は入れたいだろう?」


「……ハァ」


 悪戯っぽく龍王は笑う。


「で……本題に入ろうか。僕の次に、人でありながら生きたままに神を目指す……極地の仙道の求道者:劉海」


「有名な仙人ですね。500年前から生きているだとか……」


「いや、正確にはアレはまだ仙人では無い。後、アレの実年齢は800と少しだ。ほぼ、僕と同年齢……」


「と、いいますと……?」


「昔に色々とあってね。まあ、アレは仙人では無いよ。仙人とはつまり肉の実体を自ら捨て、魂の存在として大自然と同化した……非常に精神的な概念生命体……」


「……?」


「簡単に言うと、アレは自らの肉体が自らの意志で神化と同時に朽ちるのを待っている……そういう存在だ」


「……分かったような分からないような……」


 そこで龍王は再度掌を叩いた。


「次に、これが外せないのが――魔界の禁呪使い……ダークエルフ:マーリン=オニキス。人でありながら……魔界に常在とし、半ば魔人と化している……いや、魔神というほうが適切か」


 次に……と龍王は口を開いた。


「東方不敗……2000戦全勝の侍:伊藤烈人。次に、死と再生の混沌……回復と破壊を極めたエルフの大賢者:リムル=キッス」


 その言葉を聞いて、少し残念そうに人間の男は言った。


「……有名どころばかりですね」


「今期の勇者は未だ全員が成人をしていないからね……まあ、これは期待値枠だけれど……西の勇者:オルステッド=ヨーグステン……現時点ではトップ層にはかなり劣るだろうけれど、まだ18歳……伸び盛りだ」


 そこで、今度は不満げに人間の男は言った。


「…………やはり、有名どころばかりですね」


 そこで龍王は笑みを浮かべる。

 ただし、その目の奥は一切笑っておらず、コメカミには若干の青筋が浮かんでいる。


 ――どうにも、龍王は器の小さい男らしい。


「なら、無名どころを出そうか?」


「無名どころ……ですか?」


 ああと頷き、大きく龍王は頷きこう言った。





「リュート=マクレーン」




 しばし考え、人間の男は龍王にこう尋ねた。



「……誰ですかそれは?」



「――世界最強の村人だよ」




「…………村人……ですか?」


 何を言われているのか全く分からず、人間の男はただただ困惑の表情を浮かべる。


「いずれ分かる。彼は勇者と共に…………道を行く事を選んだんだ」


「……………………?」



「そうであれば――嫌でも世界の表舞台に立ち、そして歴史に名を刻まざるを得ないだろう」



「……歴史に名を……ですか?」


 何とも言えない表情でそう尋ねる人間の男に、満面のドヤ顔で龍王はこう言った。



「いずれ、分かる。それに――先ほどに名前が挙がった連中は……僕も含めて……結構な確率で……彼に付き合わされているしね」


「……」



 そして――と龍王は人間の男の前に差し出されたワインボトルを指さした。


「とりあえず……チョットイイトコミテミタイんだけど」


「…………一気飲み……ですか?」


 ニコリと笑って、龍王は頷いた。









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