第35話

「名前は?」

「リュート=マクレーン」

「職業適性は?」

「村人だ」

「魔法はどこまで使える?」

「生活魔法しか使えねえ」

 うんと頷き、白のローブを纏ったヒゲモジャのオッサンは笑顔で言った。

「不合格だ」

 アルテナ魔法学院の運動用グラウンドには受験生がひしめいていた。

 聞いた話によると今年の倍率は35倍と、かなりの狭き門という事らしい。

 と、言うのも、魔法学院に入学し、卒業すれば一生喰いっぱぐれはない。日本で言うのであれば医者と弁護士の中間位の……まあ、相当なチート資格であるという。

 極端な話、冒険者として身を立てる場合も魔法学院卒業の魔術師であれば、最低でも日雇いの日当で銀貨5枚は固い。

 ちなみに、この世界での貨幣価値は概ね、金貨一枚で100万円、大銀貨一枚で10万円、銀貨一枚で1万円程度となっている。

 で……銀貨5枚と言えば5万円だ。

 日雇いでその金額というのだから、本当に驚きだ。

 日本にいたころは医者がバイトした場合、時給が1万超えると言う話も聞いた事もあるし、まあ……日本も異世界も、そこはやはり希少資格は強いのだろう。

 と、そんな感じで野望と希望と欲望に、瞳をランランと輝かせる生徒達にグラウンドは満たされている訳だが……。

 俺は試験を受けるまでもなく、受付のオッサンから不合格の宣言を受けた訳だ。

「おいちょっと待てよ」

「待たない。お前では絶対に受からない。試験料も銀貨5枚とそれなりに高額だ。お前みたいな冷やかしを避ける為に高く設定しているんだが……まあ、悪い事は言わないから帰れ」

 試験は3次試験まであるんだが、一次試験項目は至ってシンプル。

 グラウンドに設置された、防魔コーティングの施された特殊な的に向けて、自分の最も得意とする攻撃魔法を放って破壊する。

 ただそれだけだが、振るい落としと言う意味ではこれほど効率的なものはない。

「帰れと言われて帰れるかよ」

「職業適性:村人で過去に合格した例はない。生活魔法しか扱えない人間が試験に受かる訳がないだろう?」

「生活魔法しかって訳でもねーんだがな……」

「村人は生活魔法しか使えないだろうが?」

「いや、魔法じゃねーんだよな……魔法っぽいというか、何というか」

 仙術。

 この世界には本来存在してはいけない、世界のパワーバランスに干渉しかねないはずの、古代には最上位魔法に分類されていた――失われし禁断の力。

 というか、ぶっちゃけた話、威力が強すぎて、ここでぶっ放ししてしまうとエラい事になってしまう。

 最小規模に抑えても……破壊系の攻撃仙術だと……的の後ろの校舎にまで被害が及んでしまう。

 かといって、魔力の数値に一切依存しない生活魔法では的は破壊できない。

 ああ、クソ、どうしろっつーんだよ。

「という事で帰れ」

 と、言われても帰るわけにはいかない。

「何を黙って立っているんだ? 生活魔法しか使えないんだろうに。早く帰れ」

 と、その時、俺の横に立つリリスに男が声をかけてきた。

「おい、そこのカノジョ?」

 魔法剣士特有の上等なマジックアイテム……白銀の甲冑に身を包んだ男だ。

 年齢は俺達と同じくらいで16歳だろう。

 こいつも受験生なのだろうか……それにしては、護衛……屈強な騎士を5人も従えている事に違和感を感じる。

 大貴族の子弟は金銭を積んで特別枠で入学する事になっているはずだ。

 そうであればこいつは特待生? でも……そうであればどうしてこんな受験の場に?

 ……と、それはともかく、魔法剣士はリリスにズカズカと歩み寄る。

 そして彼女の肩を掴んだ。

「入学早々、こんなとんでもない美人に出会えるとは思って無かったぜ。しかもカノジョは受験生だよな?」

「……肩。気安く触らないでもらいたい」

 露骨に眉を顰めるリリスを無視して、魔法剣士はうんうんと一人頷いている。

 入学早々という発言から、やはりこいつは特別枠でこの学校に入学が認められているらしい。

「どうやら俺はツイているようだ」

 そうして、魔法剣士は掌をパンと叩いた。

「カノジョに提案がある。裏金で合格にさせてやるから……俺の女にならないか?」

 右掌をリリスの頬に這わせて、醜悪な笑みを浮かべる。

 ポカンとした表情をリリスは浮かべて……そこで何を勘違いしたのか魔法剣士はこう言った。

「おお、カノジョも突然の幸運に感謝の言葉も出ないか。ふふふ、そしてカノジョよ、君の思うより、君に振ってかかった幸運はでかいんだぜ? なんせ俺は――ファシリア王国の国王陛下の弟。その息子なのだからな!」

 そうして、魔法剣士はリリスの尻に掌を伸ばし、そしてむんずと鷲掴みにした。

「細身だからな……肉が少ない。まあ、触り心地はイマイチか。だが、これだけ美人であれば文句はねえな」

 あまりの出来事にフリーズしていたリリス。

 しばしの後、状況を把握した彼女はすぐに表情を強張らせて、そして魔法剣士を睨み付ける。

「……不愉快。ねえ、リュート?」

「ん?」

「……このゴミ……殺ってしまっても……良い?」

 ハァ……と俺は溜息をついた。

 確かに、この魔法剣士は俺も不愉快だ。

「それはいつでも……できるだろ? リリス? ここは耐えろ……無駄に目立っても良い事は無い」

 俺の言葉にリリスはコクリと頷いた。

「リュートがそういうのならばそれで良い。でも、私は不愉快。だから一つだけ提案がある」

「ん? 何だ?」


「後で……頑張って我慢した……私の頭を撫でてほしい」


「……おっ……おう……」

 するとリリスは花のような笑顔を咲かしてうんうんと頷いた。

「とりあえずさ……えーっと……ファシリア王国の国王陛下の弟……その息子さんだっけ? お前さ……俺の友人から離れてくれないか?」

『俺の友人』と言う言葉で露骨でリリスは顔をしかめた。

「……大事な人ではなく……友人?」

「ああ、そうだ」

 で……どうやら、俺の言葉にリリスはご不満だったらしく、すぐさまに不満げに頬を膨らませた。

 と、そこで……俺達のやりとりを見ていた魔法剣士は、挑発的な態度で俺に声をかけてきた。

「なるほど。どうやらお前たちはとても仲が良いらしい……同郷の幼馴染か何かか? だが、お前のようなヤカラ……村人にカノジョの友人はふさわしくない」

 はぁ……と軽いため息。

 軽く苛立ちが混じって、自然と俺の言葉が大きいものになる。

「友達にふさわしいとか、ふさわしいとか……そんなのはどんな立場であろうが関係ねーだろうが」

 フンっと鼻で魔法剣士は俺を笑った。

「美人の横にいる事が許されるのは……力ある者だけだ。金か、あるいは権力か、はたまた……純粋な力か。ともかく――決して……ここの一次試験で為す術なく落第するような――お前のような村人では無い」

 魔法剣士を無視して、俺は受付のオッサンに尋ねた。

「おい、オッサン? お前は試験監督なんだよな?」

「一次試験ではそういう事になっている」

 50メートル程先のグラウンド内に並んでいる、拳銃の的のような目標物を指差した。

「要は、あの的を魔法も交えた力で破壊すりゃあいいんだろう?」

 すると、コクリと試験官は頷いた。

的から20メートル前の定位置について、それから各々最も得意な攻撃魔法で的を破壊する……という段取りだ。

「定位置より遠方からの攻撃魔法による的の破壊……それが唯一にして絶対の一次試験合格条件だ」

 試験官の言質も得たので、俺は満足気に頷いた。

 そこで、魔法剣士が横から口を挟んできた。

「ただし、村人には絶対に破壊できないけどな。生活魔法で突破できるような試験ではない」

 魔法剣士の言葉は無視する事にして……。

 つい先刻、俺は見たのだ。

 定位置から拳大程度の石を投げて、そして投げた後に風魔法によるブーストをかけて……高速度で石をぶつけて的を破壊し、合格になっていた受験生を。

 で、あれば……と、俺はその場で右手を掲げた。

 ――それがアリならならば……こういうのはどうだ?

 身体能力強化関係の術式を発動させる。

 ヒュッと風切り音と共に、音速を超えた速度で手刀を振り落す。

 そして、申し訳程度に生活魔法も同時に発動させて、風を起こす。

「これで文句はねーだろう?」

 50メートル先の的は真っ二つに割れて、そして地面に落ちた。

 同時に、周囲にどよめきが走る。


――真空斬。


 格闘術で、遠当ての技術に類される中距離攻撃の術だ。

 そして、それとほぼ同様の現象は、魔法でも発現は可能だ。

 いや、この場合は風の中距離攻撃魔法を肉体言語で真似て発動させた……つまりはそういう事だ。

 呆けた表情を浮かべる魔法剣士は、しばしフリーズし、そして口を開いた。

「あの滑らかな断面と、この遠距離からの威力――中級魔法:疾風の刃だとっ!? 特待生でもない……ただの一般の受験生のレベルではありえない魔法……それを、村人如きが扱う事を出来る訳が……」

 同じくフリーズしていた試験官は口をパクパクさせて言葉がでないようだ。

 分かっていた事だが、二人とも俺を舐めきっていたらしい。

 ってか、普通にただの遠当てなんだけどな。疾風の刃なんて魔法は俺は知らない。

「で、どうなんだ? 試験官さんよ?」

 そして……振り絞るような声で試験官はこう言った。

「…………全ての条件をクリアーしている。文句なしで………………一次試験合格だ」





 2次試験の内容はMPと魔力の測定だ。

 一次試験がむしろそっちだろうと思ったが、MPや魔力がそれなりにあっても……魔法をロクに使えない連中は存在する。

 と、言うのも近接戦闘系の職業でも身体能力強化にはMPは必須なワケだ。

 で、それ系の脳筋系をまかり間違って一次試験に通してしまってはいけないということで、スキル的な意味での魔法適正を一次では試験すると言う形になっているらしい。

 そうして、2次試験の内容なんだがそれは至ってシンプルだ。

 2次試験用にグラウンド内にズラっと並べられた水晶玉に手を触れて、簡単なステータス測定を行うと言う事らしい。

 ちなみに、魔法学院の卒業生は冒険者ギルドや、あるいは軍閥、はたまた研究機関へと就職の道は多い。

 そして、血生臭い世界では――ステータスの情報は直結で死につながるような重大な情報となる。

 必然、この世界では個人のステータスは高度機密扱いとなっており、ステータス測定試験は……相当に回りくどいやり方をする事になっている。

「ほら……カノジョ……いや、リリスちゃん? この炎を見ろよ?」

 ドヤ顔の魔法剣士が水晶玉に手を触れている。

 水晶玉の直径は10センチ程度。

 そんでもって、その中では日本の仏壇……そこの蝋燭に灯される程度の、縦に2センチ横に1センチ程度の小さな炎が揺れている。

「リリスちゃん? この水晶玉は魔法の力に反応して……水晶内で炎を宿すんだ。そして普通の人間の微弱な魔力やMPであれば……炎はそもそも出現しない。俺のこの炎は……かなり立派なものなんだぜ?」

 魔法剣士の言葉通り、他の受験生を見る限り、水晶玉の中に火が発生したことが確認されれば即時に合格となるようだ。

「俺は確かに大貴族が故に特待生となった。でも、血筋が良いと言う事は魔力の才能がある可能性が高いと言う事で……俺は実力でもキッチリと特待生になる資格はあるんだ」

「……で……だから、お前は一体何なんだよ?」

 こいつは、先ほどから俺……いや、リリスの尻を追いかけまわして来ているのだ。

 不愉快と言うか、うっとしいことこの上無い。

「俺はカノジョ……リリスちゃんに惚れてるんだぜ? 口説いて何が悪いんだ?」

「……ねえリュート? やはり殺ってしまっても良い?」

 笑顔を浮かべるリリスだが、目の奥は一切笑っていない。

 ってか、俺がゴーサインだしたらマジで殺る気じゃねえのかコイツ。

「だからそれはダメだって……」

 溜息交じりに応える俺を魔法剣士は睨み付けて来た。

「それに、俺は先ほどのお前の中級魔法は認めないからな。お前みたいな村人が……俺がギリギリで使えるような魔法を使えるはずがない。きっとお前は汚い手段を使って……何か、トリックを仕掛けたんだ! そうだっ! そうに決まっている!」

 そもそもアレが魔法でも何でもなく、近接戦闘職のスキルと気づかない時点でお里が知れる。

 そこで魔法剣士をガン無視したリリスは俺にこう問いかけてきた。

「……リュート? 私から試験を受けても良い?」

「ああ、構わないぜ?」

 リリスは魔法剣士を睨み付け、そしてこう言った。

「……邪魔。水晶玉から……手を離して」

 その言葉を受け、魔法剣士はニヤリと笑ってこう言った。

「2次試験の突破倍率は4倍だ。まあ……水晶内に火が灯らなければ、俺が金の力で合格にしてやるよ。ただし、その時は俺の女になれよ?」

 冷たい目で魔法剣士を一瞥し、リリスは水晶玉に手を触れた。

 と、同時に大貴族のボンボン――魔法剣士がすっとんきょうな声を挙げる。

「ハ、ハ……ハァっ!? どーいうことだよ? あ、あ……ありえねえだろっ!?」

 その言葉で、2次試験の試験官が何事か……と、こちらに走り寄って来た。

 そして、リリスが触れている水晶玉を覗き込み――その中の様子を見て絶句した。

「これは……!? 水晶玉の内部全体を……炎が覆っている? 今にも外に溢れ出てきそうな程の炎。有りえない……これほどの炎を水晶内に出現させるには……今年の新入生総代:コーデリア=オールストンと並ぶほどの魔力とMPが必要なはず……」

 そして放心状態のまま、試験官はリリスに合格を言い渡した。

「合格だ……いや、君なら……3次試験の結果次第では……特待生コースの入学も有りえる…………」

「……リュート?」

「ん?」

「……この水晶玉は物差しの単位が小さすぎる。恐らく、この規模の炎がステータス測定の限界に見える。私は魔法職。近接での殴り合いならともかくMPや魔力で……コーデリア=オールストンと同じ程度などありえない」

「まあそうだろうな。100キログラムしか測れない体重計だと、110キロも300キロも同じく100キロしか示さないだろうよ」

「……初めて知った。安く見られるって……かなり不愉快だと」

 そこで俺は呆れて肩をすくめた。

「賞賛の言葉のつもりで……試験官は言ってるんだと思うぜ?」

 不思議そうに小首を傾げるリリス。

 そこで俺は苦笑した。

 いや、普通は勇者に並ぶってのは最大級の賛辞なんだけどな。でも、俺達は特殊な環境で育ち過ぎた。

 それをリリスに説明するのも面倒だ。

「俺も2次試験受けても良いか?」

 リリスが手を離すと、水晶玉の中で燃え盛っていた火炎は急に消失した。

 そうして俺は水晶玉の表面に手を触れた。

 ――水晶玉の内部を炎が埋め尽くすと言う事。

 それがこの水晶玉に可能な最大限の魔力反応である。

 それはつまり、それ以上の魔力反応を本来起こすことが出来るステータスの……そういう規格外の人間は測る事ができないと言う意味である。

 そうであれば、俺の2次試験結果はリリスと同じはずだ。

 と、そこで意外な事が起きた。



 ――シュボっ。



「熱っ!」

 思わず水晶玉から手を離した。

 そして俺の大きな声で周囲の連中がこちらを見て、水晶玉の様子を確認すると同時、大きな大きなざわめきが起きた。

 何しろ、俺のMPと魔力に反応した水晶玉には今現在、その表面には無数のひび割れが刻まれている。

 そして、水晶玉はガソリンをぶっかけて火をつけたかのように――


 ――ガチで燃えていたのだ。


 周囲の一同が大きくざわめいている。

 水晶玉からは灼熱の炎がごうごうと沸き上がっている。

「……」

 正面を見る。

 2次試験官が口をパクパクとさせている。

「……」

 右方を見る。

 魔法剣士――大貴族のボンボンもまた、試験官と同様に口をパクパクとさせている。

「……」

 左方を見る。

 リリスは無言で、何故か誇らしげに薄い胸を張って大きく頷いている。

「……」

 やっちまった……と表情を蒼くしながら俺は無言で頭を抱えた。

 極力目立ちたくないのに……と深く溜息をついた所で、魔法剣士――大貴族のボンボンが大声で叫んだ。

「何だこりゃあ!? 何なんですかよ、これはよォ!? ありえねえだろ? 火動式ステータス測定器が燃え上がるなんて聞いたことねえぞっ!? ええ、オイ!? どういう事なんだよ?」

 そこでリリスはボソリと呟いた。

「……聞いたことがなくて当然。表の世界に出てこない……紛れも無い真の人類最強の一角が……魔法学院の入学試験で使うような測定器にかけられるという前提が……おかしいのだから」

 魔法剣士は俺の胸倉を乱暴に掴んできた。

「オイ、コラっ! ありえねえっつってんだろうがよっ!? 大貴族の俺が言ってんだから答えろよ……このド平民がっ! 大体な? お前な? 一次試験からしてお前は怪しいんだよ! 挙句の果てには2次試験は測定器を燃え上がらせる……っ! どんな手品を使いやがった!?」

「手品って言われてもなァ……」

 肩をすくめる俺に、更に魔法剣士は食ってかかってきた。

「すっとぼけやがって……おい、試験官? こいつの2次試験の結果はどうなるんだっ!?」

「……」

 2次試験官はしばし押し黙り、そして何かを考えてからこう言った。

「合格基準は水晶に触れて……その結果発生した炎が目視できるレベルであるか否かだ。恐らくは測定器の故障の可能性が高いが、例えそうであったとしても、それは試験を開催した側の不手際だ……この結果は合格だと判断せざるを得ない」

「何だよそりゃあっ! ふざけてんじゃねえぞ!? どう考えてもこいつは平民の村人の詐欺師野郎じゃねーか! こんなゴミクズみたいな奴と俺は同じ学舎で机を並べたくねーんだよっ!」

 納得いかないらしく、更に魔法剣士は今度は試験官に喰いかかっていった。

 全く、ピラニアみたいな奴だなと、俺はドン引きしながら二人のやりとりを眺めていた。

「彼はまだ最終試験……3次試験を突破してはいないし、そもそも……試験結果は君が口を出す事では無い。そう……例え君が王族であっても……学籍を置いているからには君は一人の学生に過ぎないのだ」

 ごもっとも。

 ボンボンと違って試験官の方は話が分かるオッサンのようだ。

 そこで『ぐぬぬ……』と魔法剣士は地団駄を踏みはじめた。

 想像してほしい。16歳にもなった男が、マジで人前で地団駄を踏んでいるのだ。

 おいおい……と俺が呆れた所で、更に斜め上の発言をボンボンは発した。

「おい、お前……? 一人の学生に過ぎない……だと!? 魔法学院の教育官か職員かは知らないが……さっきのお前の発言は不敬罪だぞ? 大貴族たる俺の親父の兄……ファシリア国王陛下に……お前が俺を不快にさせたって……言いつけてやろうか!? いや……」

 そこでニヤリと笑ってボンボンは掌を叩いた。

「良い事思いついた。お前が学院側の職員の権限を盾にして、善良な学生である俺にイジメを……意図的に不利益な取り扱いをしたと……そう、それはもう無茶苦茶な扱いや嫌がらせをしたって……ある事ない事を……ファシリア国王陛下に言いつけてやろう。ちなみに俺はこの方法で今まで何十人も左遷……酷い場合には刑務所に送り込んでいる。ふふふ、楽しみだなあ……」

 えっ?

 この発言には俺もリリスも、そして試験官ですらも目を丸く見開いた。

 ――馬鹿じゃねえのかこいつ!?

 陰湿と言うか何というか……ハッキリ言えばキモい。一体全体、どんな育て方をされればこんな風に育つのだろう。

 こいつが王族と言うだけで……ファシリア王国という国家自体が心配になってくるレベルだ。

「いや、ちょっと……君…………」

 流石にこの態度には試験官も呆れたらしい。

 参ったな面倒な奴に絡まれたもんだ……と眉をヘの字に曲げて何やら考え込んでいる。

 そして「……ハァ」とため息をついた。

 どうやら如何に穏便にボンボンの怒りを治めるかを考えているらしい。

 そこで俺は試験官に助け舟を出した。

「おい、そこの魔法剣士?」

「あ? なんだよ?」

「要は、お前は俺を意地でも入学させたくねーんだよな?」

「ああ。村人と一緒の学舎で机を並べるなんて考えただけでも身の毛がよだつぜ!」

「じゃあ……こういうのはどうだ?」

 ん? とそこで魔法剣士は小首を傾げた。

「……?」

「3次試験は受験戦同士の模擬戦闘……一対一のガチンコでの実技試験だろ?」

「ああ、そういうことになっているはずだが……?」

 パンっと俺は掌を叩いた。

「特待生のお前に、受験生である俺が胸を借りる形での……エキシヴィジョンマッチってのはどうだ? どっちがボコボコにされても恨みっこなしの特別試合だ」

「乗ったっ!」

 その言葉と同時に、俺はとボンボンはアルテナ魔法学院グラウンドのに移動する。

 受験生と特待生の特別試合と言う事で、観衆の人数は多い。

 目立ちたくねえんだがな……とは思うが、まあ、イラっときてしまった以上は仕方ない。

「時に……村人よ?」

「リュートだ」

「ん?」

 眉を顰める大貴族様に俺は、少しだけ怒気を強めてこう言った。

「俺の名はリュート=マクレーンだ」

「……で?」

「村人では無く、リュートと呼べ」

 ニヤリと笑い、そして了解だとばかりにボンボンは頷いた。

 へえ、意外に素直だな。生ゴミのレベルからプラスチックゴミのレベルに、ボンボンの評価は俺の中で上がった。

「それで……だ、そこの村人」

 なるほど。

 これが大貴族か……最初から、俺の言う事なんて聞く気は欠片もないらしい。

「なんだよ?」

「俺は魔法剣士だ」

「見れば分かるよ。戦場向けの重装備じゃねえけど……軽装の今の段階ですら、肩当てや胴鎧、そして剣――全部一級品の魔法装備で揃えてやがるな。それに、供給している魔力の質……術者も装備の要求するラインを越えている。まあ、炎も氷も自由自在ってところだろうよ」

「ほう、俺の身に付けている装備が分かると? 村人にしては博識だな」

 まあ、お前は俺が装備している物品について何も分かんねーだろうけどな。

 一見ボロに見えるこの服が、値段をつけるのであれば大国の国家予算の数年分は位するんだけど……まあそれは良い。

「で、何なんだ?」

「俺は帝都の剣術大会でも、16歳以下の部でベスト3に入賞している。それは魔法剣士としてではなく……純粋な剣技としてだ」

 何だかんだで、ここは名門校だ。

 そりゃあまあ、北の勇者であるコーデリアの教育機関に選ばれるのだから、それは当たり前の話だ。

 だから、特待生コースに合格しているのであれば、このボンボンは……実際に、それなりに実力はあるのは当然の話なのだ。

「……回りくどい奴だな。だから何なんだよ?」

「ハンデをやる」

「……ハンデ?」

「俺は魔法を使わない。剣技しか使わない。そして村人よ……お前は好きにすればいい――そして無様に俺にやられるが良い」

 俺では無く、リリスの方を向いて魔法剣士はウインクをした。

「で……リリスちゃんは村人の事なんて忘れて、俺に惚れれば良い」

 リリスの血の気が引いていく。

「……鳥肌が立ってきた」

 心の底からの嫌悪感を隠さずにリリスはその場でうなだれた。

 と、それはともかく……。

「なるほど。ハンデ……か、じゃあ……俺もお前に温情をやるよ」

「温情?」

 キョトンとした表情を浮かべる魔法剣士に対して俺はゆっくりと頷いた。

 そして右手の中指を1本立たせる。

「ああ。温情だ。俺は武器を使わないし……これで終わらせてやるよ」

「……どういう意味だ?」

「すぐに分かるさ」

 と、そこで――円の外に立っている試験官が大きく息を吸い込んだ。

 俺と魔法剣士の距離差は3メートル程度。

 魔法剣士は木製の模擬剣を構える。

 そして放たれる試験官の大声。

「はじめっ!」

 そうして、俺とボンボンのエキシヴィジョンマッチが始まった。

言葉と同時、貴族のボンボンが大上段に模擬剣を構える。

 模擬剣。それはつまり、スポンジのような衝撃吸収材を纏わせた木製の剣だ。

 安全装置が施されているとはいえ、互いにある程度加減した剣術試合でも骨折なんかは珍しい話では無い。

 そして――ボンボンは俺の脳天目がけて、一切の加減なく無慈悲に剣を撃ちおろしてきた。

 一応、こいつの剣の技量は世間一般的には相当な手練れのラインにある。

 ぶっちゃけて言ってしまうと、12歳の時の俺よりも剣の扱いは上手いだろう。

 それで、模擬剣は木製でそれなりに硬い。

 想像してみてほしい。日本で言えば木製バットにスポンジを巻いたようなものを、思いっきりに猛烈な速度で脳天に叩き落とそうとしているのだ。

 しかも、相手は手練れで、全てを分かった上で――全力で打ち込みをかけてきている。

 下手すれば、普通の人ならマジで死ぬような攻撃だ。

 まあ、俺にはあくびの出るようなものではあるんだが。

「ほいっと」

 半身になってサクっとかわす。と、同時、驚愕の表情にボンボンが包まれる。

 対照的に、俺はニコリと笑って、右手の中指と親指を重ねあわせた。

 ――照準の先はボンボンの顎あご。

 一切の身体能力強化術を使用せずに、素のままのステータスのまま、右手を突き出した。

 そうして、パチュンっと……気の抜けた音と共に、ボンボンに顎に俺のデコピンが放たれた。

 俺の速度に全く反応できていない様子だ。

 恐らく、デコピンの影すらも視認できていないだろう。

 今回は身体能力強化の術を使っておらず、音速も超えていない。恐らくはコーデリアであれば余裕をもって避ける事はできているはず。

「100点満点で…………15点ってところだな。龍の里では金糸が一本……あるいはギリギリ2本。俺と口を聞く事すら許されないレベルだ」

「えっ?」

 呆けた表情を浮かべる魔法剣士。

 何が起きたのかも分からないまま、そのままボンボンは――立ったまま白目を剥いた。

 脳震盪。

 良い感じに俺のデコピンで顎が揺らされて、頭蓋骨内で脳みそはシェイクされたようだ。

 必然、ボンボンは糸の切れたマリオネットのようにその場に倒れる。


 と、そこで――ざわめきが起きた。


 まあ、特待生を受験生が倒してしまったのだから無理もない……と、周囲を見渡した。

 そして、すぐにざわめきの原因が俺では無い事に気付く。

 先刻まで、まんべんなく俺を取り囲んでいた観衆のその一角に――モーゼの海を割る伝承のように――道ができていた。

「やっと見つけたあああああああああああっ!!!!!!」

 その道を、物凄い勢いで、絶叫と共に――息を切らせながら……赤髪の少女が俺に一直線に向けて走ってくる。

 相変わらずの綺麗な髪だ。久しぶりの再会に思わず俺の頬は緩んでしまう。

 そして、腰までの赤髪を振り乱して、全力のダッシュに急ブレーキをかけながら――俺の幼馴染であるところのコーデリア=オールストンは鬼の形相で開口一番にこう言った。

「何年も何年も……どこをほっつき歩いていたのよ! この……馬鹿リュートっ!」

 真っ白な絹肌。

 陽光に煌めく真紅の髪。

 ディ―プブルーの瞳は深海よりも深く、そしてどんな快晴よりも遥かに蒼い。

 美術館の絵画に飾られる絵画よりも、よほど美術として完成されてしまっている一個人。

 ――死に戻る前に見た彼女は15歳で、そして今の彼女は16歳。

 未完成の青い果実ではあるけれど、確実にあの時よりも彼女は1年間……完成された大人へと熟成を進めている。

 あまりの美しさに、思わず俺は感嘆の溜息をついた。

「――何年ぶりになるかな? 綺麗になったな……コーデリア」

「……えっ?」

 俺とコーデリアの距離差は1メートル。

 しばし見つめ合い、見る間に般若の形相は消えて……コーデリアは白雪の肌で覆われた頬を朱色に染めた。

「……えっ? 今……アンタ……綺麗って……?」

 そう尋ねるコーデリアに、俺はうんと頷いた。

「ああ、綺麗になった。本当に……」

 と、コーデリアは頬を上気させ、リンゴのように顔を真っ赤にさせる。

 頬を緩めて、目をトロンとさせた所で……彼女は首を左右に振った。

「…………だから」

「ん?」

「……そんなに……簡単に…………騙されない……ん……だからっ!」

 そしてズカズカとコーデリアは俺に向かって歩みを進める。

 俺の眼前に仁王立ちを決め、そして――

 ――パシィーンと乾いた音が鳴り響いた。

 綺麗に俺に決まった平手打ち。何事か……と呆ける俺に、コーデリアは涙を目尻に貯めてこう言った。

「何年になると思ってるの? 邪龍の時からよ!? 勝手に里を飛び出して……私がどんだけ心配したと思ってるの? 寂しかったと思ってるの!?」

 痛ぇ……と、俺は頬を擦る。身体能力強化スキルを全て使用した全力全開……。

 ってか、マジで痛え……ちっとは加減しろよな。

 常人だったら首がもげてるレベルだぞ。まあ、コーデリアも……相手が俺だからそうやったんだろうけどさ。

「……分かってるよ。まあ、なんていうか……久しぶりだよな」

 コーデリアのコメカミに青筋が走った。そして、再度の平手打ち。

「分かってない! アンタは絶対に何も分かってないっ!」

 いや、分かってないって言われても……。

 半泣きになりながらコーデリアは言葉を続けた。

「私がどんだけアンタに……会いたかったって……寂しかったって――」

 そこでリリスが俺とコーデリアの間に割って入った。

 突然の事態に、困惑の表情を浮かべるコーデリアに、リリスは尋ねた。

「……貴方とリュートは幼馴染……それで間違いない?」

 やはり、困惑の色を隠せないコーデリア。

「うん、そうだけど? っていうかアンタ、邪龍アマンタの事件の時にリュートと一緒に現れた女?」

「……いかにも。そして私が今から貴方にする質問に……真摯に答えてほしい」

「何?」

 ニッコリと笑ってリリスはこう言った。

「ただの幼馴染の分際でリュートの恋人気取り? 貴方は何様のつもり? 何故に貴方にリュートが……ただ、長期間会っていないというだけで責められなけばならないの? 貴方とリュートはただの同郷、そしてただの幼馴染。ただ、それだけの存在……」

えっ?」

「…………ただの勇者ごときが……幼馴染如きが……頭に乗るなと言っている」

 しばし押し黙るコーデリア、そして彼女のコメカミに幾本もの青筋が走った。

 ――あっちゃあ……と俺は思う。

 コーデリアはぶっちゃけた話、とんでもなく喧嘩ッ早い。

 戦闘民族も真っ青なレベルで……まあ、コイツが勇者ってのも、初めて聞いた時に妙に納得したのも覚えている。

 コーデリアは先ほど貴族のボンボンが地面に落とした模擬剣を拾った。

「私はコーデリア=オールストン――北の勇者との神託を受けているわ。貴方、名前は?」

「私はリリス、姓は無い……魔術師」

「貴方は受験生なのよね? どうにも、勇者を馬鹿にしているみたいだけど……さっきのリュートと魔法剣士みたいにエキシヴィジョンマッチ――やってみる?」

「……ひょっとして私をただの受験生と舐めている? そうであれば訂正を要求する。私はリュートの従者――必然、並みではない」

「あれ? リリスはやっぱり私を舐めてる? これでも私――北の勇者なんだけどな? まあ、模擬剣でなら勝負の形になるかな? ああ、私は模擬剣の上に加減してあげるけど、アンタは本気出して良いよ」

「……模擬剣は収めた方が良い」

 そこでコーデリアは勝ち誇った風に笑みを浮かべた。

「あれ? 剣を収めろって……やっぱり私と戦いたくないって事? 敵前逃亡って事かな? まあ、そりゃあただの魔術師が勇者相手に戦闘なんてできないわよね?」

 リリスもまた勝ち誇った風に笑みを浮かべた。

「……模擬剣では勝負の形にすらならない。弱い者イジメは私は嫌いだ」

「ごめん、アンタが何言ってるのか分からないんだけど?」

 そして、リリスは目の奥が一切笑っていない半笑いを浮かべる。

「……とっとと、模擬剣を捨てて――神託の聖剣を持って来いと言っている。この……三下が」

 ビキビキビキビキ。効果音が聞こえる程に、コーデリアの顔全体に青筋が走った。

「売ってるよね? やっぱりアンタ……私に喧嘩売ってるよね?」

「……最初に模擬戦とか言い出したのはお前だろうが、このメスゴリラ」

「この……っ!」

 お互いに睨み合い、そしてファックサインを決めた。

「やってやろうじゃないのっ!」

「……魔術の深淵の前にひれ伏すが良い」

 そうして、二人はグラウンド上の戦闘空間――サークルに向けて小走りで駆け出して行った。

グラウンド上空20メートル。

 宙に浮いたリリスは交互に手を突き出し、炎弾の中級魔法を連打する。

 空中から放たれる数十、数百の炎弾。

 炎弾が降り注ぐ地面――それは例えるなら、太平洋戦争の際に行われた空襲のような……。

 そして、グラウンドの至る所が焼け焦げ、ブスブスと黒い煙をあげていた。

 模擬戦の開幕早々、リリスは飛翔の魔法を使って空中へと逃げた。そうして無数の中級魔法の連打がコーデリアに叩き込まれているというのが現状だ。

「降りて来いっ! 卑怯者っ!」

 拳大の石を拾ってコーデリアが投げるも、ヒラリと宙を舞うリリスに躱される。

「……近接戦闘職と殴り合うなど正気の沙汰とは思えない」

 更にリリスの掌から真下に向けて炎弾が放たれた。

 が、コーデリアは炎弾に向けて剣を振るう。


 ――神託の聖剣


 魔法力そのものを断ち切り、打ち払う事ができるというチート武器だ。

 そしてそのおかげで、リリスの怒涛の魔法連打も全て難なくコーデリアは捌いている。

 互いが互いに決定打に欠けるってのが現在の状況だ。

 コーデリアの剣は上空のリリスには届かず、リリスの魔法もまたコーデリアに斬り捨てられる。

 さて、これから二人はどうするつもりなのか……と考えていた時、俺の耳にこんな言葉が届いてきた。

「なんだこれ……中級魔法を湯水のように連打……学生のレベルじゃねーぞ」

「……次元が違う」

「帝都の武術大会でもみているような……これは夢か?」

 生徒達の言はまあ良いとして、教官までもが驚愕の表情を浮かべていた。

「勇者:コーデリアは……まだ分かる。けれど、あの魔法使い……あれだけの魔法の連打とそして何より……飛翔の魔法の継続時間――何故にMPが枯渇しない?」

 飛翔の魔法は、通常は緊急避難や緊急回避的に使われるような魔法だ。

 MPの消費量が尋常では無く、並の魔術師なら20秒も空を飛べばすぐさまに魔力枯渇に陥るだろう。

 その為、今現在リリスが行っているような上空からの一方的な魔法ラッシュ……という戦法を取る事は普通はできない

 いや、そういった戦法もあるにはあるが、一瞬で仕留めきる自信がある時限定の、非常にリスキーな手法と一般的にはされる。

 が、まあ俺とリリスには色々あった。

 結果、彼女のMPは近くに俺がいる場合、実質的に俺から供給されるので……コーデリアを含めても、常人には想像に及ぶ範囲ではないのだ。

 まあ、おかげさまで俺も仙術の起動式や禁術の発動の際に、魔術師としてのリリスの脳味噌のサポートを受ける事ができるのだが……まあ、それは別の話だ。

「……たく。ラチがあかないわね」

 右手に剣。

 左手で髪をかきあげて、コーデリアはキッとリリスを睨み付けた。

「――それじゃあ、本気を出させてもらうわよ?」

 コーデリアの碧眼が朱色へと変わる。

 周囲は張りつめた空気に満たされ、少しだけ温度が上がったようにも感じる。 そして朱色のオーラが彼女を包んだ。

「こうなったからには……手加減きかないから、やりすぎちゃったら――ゴメンね?」

 コーデリアが魔力暴走を制御下に置けるのは既に知っている。

 それはともかくとして俺はコーデリアに問いかけた。

「ステータスは恐らく、相当にブーストかかってるだろうけれど……相手は20メートル上空だぜ? 先ほどと状況は変わらない。どうするつもりだ?」

 コーデリアは屈伸の要領で膝を曲げてしゃがみこんだ。

そして気合いの咆哮をあげた。

「よいしょっとおおお!」

 驚いたのはリリスだ。

 絶対的安全圏から一方的にコーデリアを攻撃していたはずなのに――瞬時にコーデリアが剣の届くところまで詰め寄って来た。

 そう。

 リリスの浮かんでいる上空20メートルまで……コーデリアは足の力だけで跳んだのだ。

 振り落される剣――煌めく聖剣の一閃。

 リリスのローブの一部が裂け、その素肌の一部があらわになった。 

 剣はリリスの肌を少し傷つけた程度で、血が飛んだりはしていない。どうやら、重篤な怪我の心配はしなくても良さそうだ。

 そして、重力に従ってコーデリアが落下してきた。

 地面に着地し、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 と、再度、コーデリアは屈伸の要領で膝を曲げる。

「もう一丁っ!」

互いに決定打に欠けていたと言う状態は崩された。

 今現在、コーデリアのみが一方的に有効打を加える得ることができる状況だ。

 と、そこで飛び上がる直前――上空を睨み付けるコーデリアの表情が引き攣った。

 同時に心労から俺の頭に頭痛が走る。

「目立つから中級以下の魔法しか使うなって言ったのに……あの馬鹿」

 絶句したコーデリアが、半ば悲鳴のように声を震わせてこう言った。

「……何……この魔力? 尋常じゃない……何これ? ありえない……こんな……こんなの……ありえない……」

 上空ですまし顔を浮かべるリリスは微笑と共にこう言った。

「これは龍族にのみ伝わりし――その中でも秘術と呼ばれる呪文:神殺槍ロンギヌス」

 懐から金属製の杭を取り出した彼女は念を込めて、それを空に放り投げた。

 物凄い勢いで宙を切裂き、杭は上空へと昇っていく。

「……私は今、上空1000メートルに打ちあげた」

 コーデリアは剣を構えながらリリスに尋ねる。

「打ちあげた……? 何を?」

「……直径3センチ、長さ30センチの鉄の杭――神の槍を打ち上げた」

「それで? だから……どうだって言うのよ?」

「……打ちあげたものは……落ちてくるのは必然」

「……?」

「重力加速度と魔力でブーストされた金属の杭。音速を遥かに超えて落下してくるのは……必中の神の槍――貴方では到底防げない」

 言葉を聞いて、不安げにコーデリアは表情を歪ませる。

 無理も無い。

 今現在、リリスの発している魔力の波動は、俺から見ても尋常では無いのだから。

 が、そこでコーデリアは自らの左頬を左掌でパシィンと叩いた。

 そうして、コーデリアの表情から怯えや恐怖……負の感情は消え失せた。

 それどころか、勝気な笑みを浮かべてコーデリアは上空に剣を構えて叫んだ。

「……上等っ! やってやろうじゃないのっ!」

 剣を上空に構えるコーデリア。

 対するは勝ち誇った笑みを浮かべるリリス。

「……あと数十秒もすれば――槍は貴方を貫くだろう。殺す事は本意では無い。降参するならば今の内」

「降参? やりもしない内から……? ふんっ……笑えない冗談ね」

 睨み合う勇者と、龍の秘術を扱う魔術師。

 遥か上方――コーデリアに迫りくるは、魔術で加速度のブーストを受け、ホーミング機能のついた必中の――ロンギヌス。

 対して、ロンギヌスを迎撃せんと神託の聖剣が空に向けられた。



 ――そして……その場で……頭を抱える村人(オレ)。



 とりあえず、俺は小石を拾う。

 そうして全力でリリスに向かって投げる。

 ゴッと鈍い音。

 リリスは空中で頭を両手で抱えて涙目になった。

 よしよし、上手い具合に命中したようだ。すぐにリリスは俺が投げた石だと気づいたようで、こちらに視線を向ける。

 俺の浮かべる般若の形相に気付いたようで、ギョッとした表情を作る。

 そうして、飛翔の魔術を解いた彼女は地上に降りて、俺の側まで歩み寄って来た。

「目立ち過ぎだ。上位魔法を通り越して龍族の秘術を見せてどうするんだよ。この馬鹿」

 ゴツリとゲンコツを落とすと、再度リリスは目尻に涙をためた。

「……本気を出さないと……この女に勝てないと判断したから。この前に会った時よりも更に強くなってる」

 プクリと頬を膨らますリリスを俺は呆れ顔で諭した。

「別に勝たなくていいだろうよ……」

 そこでコーデリアが俺達の間に入って来た。 

「なんだか良く分からないんだけどさ……これで模擬戦は終了って事で良いの?」

「ああ、それで構わないぜ。ってか、これ以上やってると殺し合いになるだろう」

 しばし考えて、コーデリアは頷き、ニコリと屈託のない笑みを作ってリリスに向けて右掌を差し出した。

「リリス? アンタ強いね? 強い奴は私……嫌いじゃないよ」

「……どういう事?」

「強い奴はみんな努力しているからね。それこそ、ここにいる村人みたいに、本当に呆れるくらいに……尊敬するしかないほどに頑張っている奴もいる」

「……?」

「リリスは勇者ではない……賢者ですら無い、ただの魔術師だよね?」

「……そう」

「けど……私とタイマン張れるくらいに強い。別に私も努力してないって訳じゃないけどさ……でも、才能の違いはある」

「……何が言いたい?」

「アンタは私よりも努力しているのは間違いない。だったら――」

「だったら?」

「その一点には敬意を表さなくちゃいけないでしょ? 例え、アンタがどんなにいけすかない奴でもさ」

 そうして、再度コーデリアは向日葵のような満面の笑みを咲かせた。

 そのまま右掌をリリスに差し出した。

どうやら握手を求めている様だ。

「って事で一旦休戦ってコトね。それでオッケーだよね?」

「……」

 無言のリリス。

 彼女はキマリが悪そうな、何とも言えない表情を作る。

 けれど、コーデリアの花のような笑顔に負けたのか、少しだけ微笑を浮かべる。

 そうしてコーデリアの掌を握り返すべく、リリスは自らの右掌を差し出した。

 と、その時、強い風がふいた。

 リリスの外套が風になびき、その下の肌着があらわになった。

 それは先ほどコーデリアの斬撃で切れ目が入っていたので、つまりはリリスの首から胸元の素肌がコーデリアに見える形で晒された訳だ。

 そして、その場所はつまりリリスの奴隷紋が刻まれている場所だ。

 あっちゃあ……と俺は頭を抱えた。

 結局、時間が無かったのもあって、奴隷としてのリリスの所有者を俺に変えただけで奴隷紋は消してないんだよな。

「……それって……性奴隷の紋章……だよね?」

 コクリとリリスは頷いた。

 コーデリアは見る間に顔面を蒼白にしていく。

 そうして、恐る恐る……と言う風にコーデリアはリリスに尋ねた。

「それで……性奴隷としての貴方の主人って……ひょっとして……リュート?」

 無言でリリスは再度頷いた。

「……それって……性奴隷の……紋章……だよね?」

 コクリとリリスは頷いた。

 コーデリアは見る間に顔面を蒼白にしていく。

 そうして、恐る恐る……と言う風にコーデリアはリリスに尋ねた

「それで……性奴隷としての貴方の主人って……ひょっとして……リュート?」

 無言でリリスは再度頷いた。

 その言葉を受けて、コーデリアはワナワナと肩を震わせ始めた。

 その表情は……どう例えれば良いのだろうか。 

 半泣きになりつつ、そして顔を青色にさせて、そしてコメカミに幾本も血管を浮き出させていて……悲しいのか怒っているのか……どっちなのかをはっきりさせろよと、まあそんな表情だった。

 そうして、コーデリアはまつ毛を伏せて、目尻に涙をためる。

 すぐに涙を小指で拭いて、クチャクシャに――無理矢理に笑みを作ってこう言った。

「そりゃあそうよね? もう何年も経っているもんね?」

「ん?」

「それにリュートも男だし……リリスは……女の私から見ても可愛いと思う。うん……それは仕方ない……事なんだろうね」

「どうしたんだコーデリア?」

「ん? いや……別に何もないよ?」

 明らかに無理をした声色に、俺は怪訝に眉を顰める。

「……?」

 そこで、コーデリアは再度まつ毛を伏せた。

「……何もないよ。納得はできるし、そこに私は何も言えない。別に私はリュートの……ただの幼馴染だし、恋人でも何でもないし……」

 しばしの無言。

 振り絞ったような小声で彼女は続けた。

「けど…………ただ……少しだけ…………寂しい……かな?」

 俺に目を合わせる事なく、コーデリアは踵を返した。

「……それじゃあね」

 それだけ言うと、彼女はそのまま校舎に向けて歩を進めだした。

「おい待てよ」

「待たない――それじゃあねっ!」

「おい! 待てって! 久しぶりに会えたってのに、いくらなんでもそりゃあないだろうがよ」

 そこでコーデリアは振り返り、クシャクシャにした顔でこう言った。

「……今、アンタ……そりゃあないだろって言った?」 

 目を見開いたコーデリアの頬に涙の一筋が流れる。

「ああ」

「ねえ、アンタ……これ以上、私をミジメな気持ちにさせるつもりっ!?」

「……?」

「こっちが声を大にして言いたいわよ! そりゃあないよって――言いたいわよっ!」

 涙を流す彼女に、俺はどうして良いか分からずにフリーズしてしまった。

「……?」

 拳を固く握りしめ、顔を真っ赤にさせて――憤怒の表情でコーデリアは俺を睨み付けた。

「……ホ」

 上手く聞き取れず、俺はコーデリアにこう問い返した。

「ホ?」

 ワナワナと震えて、コーデリアは絶叫した。

「――リュートのアホーーーーーっ!」

 そのままコーデリアは全力で一直線にダッシュを始め、そうして校舎の中に消え去っていった。

「……どうしたんだよアイツ」

 呆れ顔でリリスに俺は問いかける。

 すると、リリスもまた呆れ顔で俺にこう言った。

「……リュート?」

「ん?」

「…………ただ一つ言える事は……そりゃあ……普通は怒るということ」

 と、まあ――そんなこんなで俺とリリスはアルテナ魔法学院に入学する運びとなったのだった。




時刻は朝方。

 外はまだ一面の闇色に満たされていて、5日前から降り続く土砂降りの雨は止む気配がない。

 ――あれから1週間、水しか口にしていない。

 私……コーデリア=オールストンは日常を無気力と共に過ごしていた。

 空腹と言う意味ではまるで辛くない。

 ただただ、体がだるくて、そして何をするにも億劫なだけだ

 と、いうよりもそもそも何も食べる気がしないし、食べ物を見ても吐き気しかしない。

 寄宿舎の個室、魔術書と筋トレ用具しかない殺風景な部屋。

 ベッドの中で私は枕に顔を埋める。

 ――せっかく会えたのに。

 別に……リュートが性奴隷の主人になっていてもおかしいことじゃあない。

 リュートはもう16歳で……あんなことや、あるいはそんなことを他の女としていてもおかしくはないし、それを私に縛る権利なんてありはしない。

 分かってる。それは分かっている。

 私とリュートはただの幼馴染で、許嫁でもなければ恋人でも無い。

 子供心の戯れですら、将来を約束したこともない。

 だから、これは完全な私の逆恨みで、私にグダグダ言う権利もないのも分かる。

 けど……と私は溜息をついた。

 ――どうしてこんなに胸が痛むのだろう。アイツの事を思うだけで、子宮の奥がキュンと切なくなるのだろう。

「はぁ……」

 本日何度目かの溜息。

 あの女……リリスの横顔が脳裏にチラつき、その度に心にどんよりと霞がかかる。

「別にまだ取られたって……決まった訳じゃない……もん」

 貴族は妾を作るのは当たり前だし、正妻と愛人が違うわけで。

 性奴隷と主人という関係がどういう関係かはわからないけれど、それは決して恋人とは違うだろう。

 でも、二人は仲が良さげだし、いや……ひょっとすると主人と奴隷でありつつ、恋人と言う可能性も……。

「……痛っ」

 そこまで考えると、再度締め付けられるような胸の痛みが襲ってくる。

 と、室内に朝の陽光が差し込んできた。

「……」

 鏡の前に立ち、両掌で両頬をピシャリと叩く。

「…………私は勇者:コーデリア=オールストン。勇者がいつまでもしみったれた顔をしてちゃあいけない」

 今日は入学式で、私は新入生総代として挨拶をしなければならない。

 各国からお偉いさんが集まる訳で……来るべき大厄災に立ち向かう、頼もしい勇者をきっちりと演じなければならないのだ。

 毛の長い赤絨毯が敷き詰められた講堂。

 今年の魔法学院の新入生は500名で特待生はその内の50名。

 そして、講堂の収用人数は300名を満たない。

 来賓や教職員で100名を収容し、残る200名が学生枠となる。

 必然的に入学式に参列を許される学生は特待生及び一般入学の貴族の子弟。

 残りの人員は寄宿舎で自習と言う事になっている。

 社会の至る所に階級制度が染みついているこの世界だ。まあ、それにしても入学式にすら参加させないというのもどうかと思う。

 そして驚くことに、リュートもまた入学式に参列させてもらっていない。

 入学自体は認められたのだが、村人という事が最後までネックとなり一般入学枠と言う事になっている。

「……以上を持ちまして新入生代表の挨拶を終了します」

 舞台上の私に割れんばかりの拍手が送られる。

 一礼と共に舞台を降りて、席に戻る。

 続く学校長の言葉を聞いた後、校歌を斉唱して式は終了の運びとなった。

 シトシトと降り続く雨の中、私とモーゼズは学舎から寄宿舎へと続く屋根付きの渡り廊下を歩いていた。

 午後のスケジュールはフリーで、私はさっさと部屋に戻って筋トレと身体能力強化関連の術式の修練に務めなければならない。

「最近、顔色が良くありませんが大丈夫ですか、コーデリアさん?」

「……やっぱり分かる?」

「そりゃあ毎日顔を合わせていますからね。目の下にクマが……できてますよ?」

 まあ、一週間もロクに食べ物が喉を通らないんだからそれは仕方ないだろう。

「ところで……入学式やらでドタバタしてたけど、今日って4月1日だよね?」

「……そうですね。それが何か?」

「何だか寂しいと思わない?」

「寂しい? どうして?」

「春の花祭り」

「……?」

「ほら、ウチらの村じゃあ……春の訪れを祝って家族や大事な人に花を贈りあうじゃない? 広場なんかも花で盛大に飾り付けてさ……」

 そこでモーゼズは眉をひそめた。

「ああ、ありましたね。そんな田舎の風習も」

「田舎の風習か。まあ、それはそうなんだけど……私は好きだったんだよね」

「好き? 何が?」

「花が好きだからさ。4月1日にみんなで広場を飾ったりするの好きだったんだよね」

 そこでモーゼズは、クスリと鼻につく笑い方で口元を吊り上げた。

「貴方はこれから勇者としての道を進みます。栄光も名誉も金も……望めば手に入ります」

「何が言いたいの?」

「……故郷への郷愁なんてすぐに無くなりますよ」

 そこで男子寮と女子寮との分かれ道に差し掛かった。

「それじゃあね」

「ええ、また明日」

 モーゼズと別れて、私はそのまま真っ直ぐに進む。

 と、廊下に設置されているベンチにズブ濡れで座っている少年の姿が目に飛び込んできた。

「――リュート?」

 ニコリと笑ってリュートは右手をあげた。

「おう」

「……何か用?」

「この前からどうしたんだよお前……何か冷たいというか取り付く島もないと言うか……」

 そりゃあそうだ。

 意図的に冷たく、そしてツッケンドンな態度を取ってるんだから。

 そうしてリュートは懐に手をやり、私に濡れた花束を差し出してきた。

「……これは何?」

「鈴蘭の花」

「それは分かってる……だから、何?」

「今日は4月1日だろ? だから、今しがた……採ってきたんだ」

「……あんな田舎の風習を……未だに……? ズブ濡れになってまで?」

「ああ、ズブ濡れになってまでだ」

「風邪……引くよ?」

 そこでリュートは太陽のように眩しい笑みを浮かべる。

「知ってるか? 馬鹿は風邪をひかねーんだよ」

「………………」

 呆れた。

 まあ、確かにこいつは風邪を引かなさそうではある。

「4月1日に花を贈る意味って……分かってる?」

「家族や恋人。大切な人に笑顔の花を咲かせたい……とか、そういう意味だったよな」

「…………」

「…………」

 互いにしばしの無言。

 沈黙を破ったのは私からだった。

「リリス……あの娘には何かあげるの?」

「んー……」

「……」

「別になにも? あいつは俺達の村出身じゃあねーしな」

「そっか」

「…………」

「…………」

 再度の、しばしの無言。

 そして、再度、沈黙は私から破られた。

「……あのさ」

「ん?」

「リリス……あの女はアンタの性奴隷なんだよね?」

「と……いうことにはなってるな」

「あ……あのさ……えっと……さ……」

 頬が熱を帯びるのが自分でもわかる。

 しかし、これは聞いておかずにはいられない。

「あのさ……エッチな事とか……した事は……?」

「いや、無いよ? リリスはお前と同じで俺の幼馴染みたいなもんだ。ただそれだけの話」

 あっけらかんにそう言うリュート。

 私は肩透かしを食らったように素っ頓狂な表情を浮かべているのだろう。

「……」

「……」

「……」

「……」

 そうして、沈黙が再度二人を支配した。










 素っ頓狂な表情を浮かべるコーデリア。

 俺――リュート=マクレーンは困っていた。

 1週間前から機嫌が悪いし、今日も異常に沈黙が多い。

 昔は花を贈れば一日中ニコニコしてたもんだが……まあ、年頃の女ってのは面倒な生き物らしい。

 どうして良いか分からずに困っている俺に、コーデリアはまつ毛を伏せてこう言ってきた。

「……アリガト」

「ん?」

「……花」

「うん」

 次に俺の顔を覗き込むようにして凝視し、うっすらと微笑を浮かべた。

「ありがとう」

「おう」

 そこでコーデリアは腹をさすりながら、テヘヘと笑った。

「お昼ご飯……アンタは食べた?」

「いや、まだだが?」

 そうして彼女は学舎の方向を指差した。

「食堂に行って一緒に食べよう」

「ああ、そうしようか」

 頷いて賛同の意志を示すが、何故だかいつまで経ってもコーデリアは歩かない。

「ん? 行かないのか?」

「アンタが先に歩きなさいよ」

「どうして?」

「昔から、そうだったでしょう?」

 確かにこいつはどこに行くにも俺の後ろをチョコチョコチョコチョコ歩き回っていたっけ。

「そうだったな」

 そう言って俺はコーデリアの前を歩き始めた。

「待ちなさい」

 振り向くと、そこには頬を染めたコーデリアの姿があった。

 そうしてコーデリアは俺に右掌を差し出してきた。

 昔のように、手を引け……と言う事らしい。

 やれやれ――いつまで経っても……ガキのままだな。



 ――こうして、俺とコーデリアの学院生活が始まった。




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