第34話
大貴族のオッサンを殴り倒してから2時間後。
俺とリリスは街道を歩いていた。
で……俺は今、困っている。
先ほどからリリスが俺の手に絡みついて離れないのだ。
恋人つなぎで手を握ってきたり、あるいは俺の腕にしがみついてきたり……うっとおしい事この上無い。
「リリス?」
「……リュートは言った。私を大切な人……だと」
「いや、まあ、大切な人の一人だとは言ったよ?」
「……クフッ……クフフっ……私は……リュートの大切な……クフフ……」
「リリス?」
「……リュートは言った。確かに言った。私を……大切な人だと……クフっ……クフフフフっ……クフフっ……」
真面目に、リリスの様子がおかしい。
むしろ、ちょっと怖い。
まあ、それは良しとして……。
「奴隷紋はどうする? 被対象者の実力がほぼ無視とされた状態での洗脳の呪術刻印だ……超人に分類されても良いリリスですら、雑魚の言葉を聞かなければならない……次の街で消すか?」
「……今の買主……私は移送中に龍の里に行ったから、顔も見た事もないのだけれど。その奴隷紋を消す事は大賛成。でも、奴隷紋そのものを外すのは反対」
「っつーと、どういう事だ?」
「……金貨10枚で身請けはできると言う話。それならばリュートが私の主人となれば良い。むしろ、金貨10枚であれば私が出しても良い」
大真面目な顔で頷くリリス。
俺はそこで小首を傾げた。
「何言ってんだお前? 意味分かんねーんだが……自分で金を出すなら尚更の事で……意味分かんねーだろ」
見る間に、リリスの頬がりンゴ色に染まっていく。
「……朴念仁」
顔全体を真っ赤に染める。
そして、一大決心をしたかのように、リリスはこう言った。
「…………奴隷紋……それをリュートとの絆にしたいから」
「いや、本当に意味わかんねーんだが」
「……理解されなくていい。けれど、私がそれを望んでいると、その事だけは理解してほしい」
やれやれ、と俺は肩をすくめる。
「……そうかよ。好きにしろ。ただし、制約関連についてはほとんど白紙にしておくぞ?」
制約関連。
それは奴隷としての使用条件みたいなもので、労働奴隷はまだマシな部類で、性奴隷になると最底辺の扱いとなる。
まあ、要は……どこまで無茶をして良いかという――そういう、基本的な約束事のようなものだ。
そこで、リリスは不機嫌に肩頬を膨らませた。
「…………私はリュートに……過度な制約を…………束縛を……されたい……そうすることで私は絆を感じる事ができる……」
「ん? 何か言ったか? 今、物凄く……地雷女みたいな台詞が聞こえた気が……」
「……いいや、何も言っていない。リュートがそうしたいなら。私はそれで良い」
そこで、あまりにも小声で俺には良く聞こえなかったのだが……リリスは何かを呟いていた。
「……しかし、まさに僥倖。ベストタイミング。幼馴染の勇者に……これで一歩リード」
この時、俺は気づいておくべきだった。
ドラゴンゾンビの一件から始まり、俺とリリスはずっと一緒だった。
でも、俺はそれには気づけなかった。
既にこの時、リリスの精神は完全に俺に依存してしまっていて……色々とアレになっていた事を。
というか、まあ、そうなるに……十分な理由は俺は彼女に与えてしまっていたのだけれど……その時の俺は気づくことができなかったんだ。
まあ、それは置いといて、それから俺達は近くの街の奴隷市場で金貨を10枚払った。
手数料を引かれた後で、元の買い主の所に相当額が後ほどに支払われると言う事らしい。
リリスの場合は逃亡奴隷とは言っても、奴隷商人の一行と共に死亡したと思われているはずだ。
だから、買い主としては寝耳に水の幸運だろう。
――こうして、奴隷としてのリリスの所有者は名実ともに俺になった訳だ。
更に4日歩き、俺達はアルテナ魔法学院の所在する都市に辿り着いた。
そして、俺はその日……コーデリアと再会する事になる。
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