第18話

 螺旋階段を抜ける。

 同時、ムワっと猛烈な熱風が体を包み込んでくる。




 そこは巨大な地下空間だった。

 半径で500メートルはありそうな面積、そして上下で200メートル程度はあるだろうか。



 壁等は一切なく、螺旋階段からはこの階層の全てが一望できる。



 ――地底は見渡す限りの朱色に満たされている。そして所々に通路のように黒色の筋が伸びていた。



「……ここは?」


「マグマ地域って奴だな。黒い地肌の部分を歩いて……次の階層に向かう訳だ」


 コクリとリリスは頷いた。


「……それは見れば分かる」


「まあ、マグマの中には相当な危険生物が潜んでいるって話だ。知恵を持たない……龍では無く竜。火竜の類がわんさかいるって話だな」


 ゴクリとリリスは息を呑みこんだ。


「……総合力では龍に及ばぬとはいえ、力だけで言えば……」


「そう、竜は龍に匹敵する。まあ、龍のほうが基本性能がある程度高いのと、知恵と知識が段違いなので一対一なら圧倒できるが……でも、それでも……複数相手だと……」


「……だからこその危険生物」


 リリスの言葉に俺は首肯した。


「だからこそ……」


 と、俺は天井を見上げた。

 そしてリリスを先導する俺は立ち止まる。


「……どうした? 何故止まる?」


「何故かって? 上のアンデッドも、下の火竜も……まとめてケリつける為だよ」


「……?」


「前提としてな……」


「前提?」


「この螺旋階段はオリハルコンで出来てるんだよ。非常に――ひっじよおおおに、頑丈なんだ」


「……?」


「上の階層のアンデッド? あるいは、この階層の火竜? ああ、確かにまともにやっちゃあ一対一でもしんどいわな」


「……なら、どうするつもり? さっきからそう聞いているのだけれども」


 その疑問に俺は大きく頷いた。


「放火だよ」


「……放火?」


 俺はそのまま掌を天井へと向ける。

 いや、正確には通って来た螺旋階段を包んでいた壁の表面へと。



 そして生活魔法で発火の魔法を発動させる。



 向ける先は壁――そう、木製の壁だ。



 連打、連打、ひたすら連打。

 生活魔法だから、威力は雀の涙程度だ。実戦ではロクに使えたもんじゃない。


 けれど、薪に火をつけたりはお手の物で――だからこそ連打、連打、ひたすら連打。




「オラオラオラオラオラオラーーーー!」




 更に連打。

 連打、連打、なおも連打、ひたすら連打。



 ブスブスと壁の所々に黒い染みが広がっていく。

 そして、遂に発火。



 1時間以上そうやっていただろうか。

 やがて、通って来た螺旋階段の中は完全に炎に包まれていた。


「アンデッドってのは火に弱いよな?」


「……うん」


「で……火事ってのは厄介でな。一回……火がついちまうと、どこまでも燃え広がる。そんで、全部とは言はないまでも、天井はかなりの部分が崩落するはずだ」


「……そうかもしれない」


「アンデッドは火災で全滅。で、上手い事すれば下のマグマだまりに潜む火竜も崩落に巻き込まれて死亡……一石二丁って奴だな」


「――つまりは上と下の階層……階層そのものに……範囲攻撃を?」


「そのとおりだ」


 そこで露骨にリリスは顔をしかめる。


「しかし……この地下迷宮は龍族の神聖な聖域……若龍が成龍になるための試しの……試練の場所」


 ああ、そのとおり。

 だからこそ、こんな手段を決行する奴は普通はいない。

 あくまでも、龍の世界では正々堂々と攻略すると言う事に意味があるのだ。



 普通のダンジョンなら火災対策やら、あるいは別階層からの攻撃やらに対応できるようになってるんだろう。



 でも、ここは普通のダンジョンではない。



 だから、そういった対策は必要ないのだ。

 初っ端のミノタウロスにしても、部屋から出てこれないという制約をつけているのは、全てはこれが龍の儀式であるから……だ。

 力が足りずに儀式に挑んだ命知らずの若龍が、自らのその時点での非力を悟り、逃げ出す。

 その背中を追いかけまわしてミノタウロスの斧を振り落す訳にもいかないだろう。

 だから、室内から出れば生還という風にルール付けがされている。


 で、そういう意味で、この迷宮の攻略は、システム的に付け込める穴は幾らでもある。

 けれど、例え気づいていても、敢えてそれを龍達はしない。


 


 だから、俺は――龍では無い俺はやりたい放題できる。



「……こんな、こんな方法で……ありえない、いや……あってはならない。それに上の階層と……ここの階層の修繕費用……恐らくは天文学的数字に……」


「――別に俺は龍じゃない。そんなことは知らねーよ」


 いや、実際に知ったこっちゃない。

 俺からしたらこの迷宮はただの経験値以外の何物でもないからだ。



 龍にとってこの施設は神聖だろうが、俺にとってはそうじゃない。



 実際、この無茶で龍王の逆鱗に触れるかもしれねーが、そん時はその時だ。

 そういう意味では今回のコレは……俺も結構危ない橋を渡っているとも言える。


「……えっ?」


「ってか、龍王の城とかヤバい位に金かかってんだろアレ? そもそも龍ってのは財宝収集の習性があって……これくらいの修繕なんて奴等からすれば屁みたいなモンだ」



 

「……呆れた」




 心底呆れたと言う風な表情を浮かべて、リリスは俺に冷たい視線を送った。


「まあ、そりゃあ呆れるだろうな……多少自覚はしている」


 俺の言葉に、クスクスとリリスは笑い始めた。


「ククっ……クックック……ハハハ……」


「どうしたんだよ急に?」


 リリスの目尻から軽く涙がこぼれた。

 余程ウケたのだろう、彼女は腹を抱え始めた。


「ハハっ……いや、本当に呆れた――うん……なるほど」


 そうして呼吸を整えて、リリスはこう言った。


「……柔軟な思考と言うのもまた……必要。貴方は見ていて飽きない」



 

 それから。

 俺は風の生活魔法で、上階層に空気――燃焼の為の酸素を送り込み続けた。




 更に同時に火魔法も連打して12時間。




 オリハルコン製の螺旋階段と言う名の屋根。

 その鉄壁に守られた俺達は、この世のものとは思えない光景を見た。






 上階層のかなりの部分の床が崩れ去り、地底に向けて階層丸ごと落下していくと言う――地獄絵図を。




















 名前:リュート=マクレーン

 種族:ヒューマン

 職業:村人

 年齢:12歳

 状態:通常

 レベル:45→99

 HP :2150/2150→4321/4321

 MP :15730/15730→17850/17850

 攻撃力:470→1020

 防御力:465→985

 魔力 :2705→3400

 回避 :580→1150


 強化スキル

【身体強化:レベル10(MAX)】

【鋼体術 :レベル10(MAX)】

【鬼門法 :レベル6】


 防御スキル

【胃強:レベル2】

【精神耐性:レベル2】

【不屈:レベル10(MAX)】


 通常スキル:

【農作業:レベル15(限界突破:ギフト)】

【剣術 :レベル4】

【体術 :レベル8】



 魔法スキル

【魔力操作:レベル10(MAX)】

【生活魔法:レベル10(MAX)】

【初歩攻撃魔法:レベル7(成長限界)】

【初歩回復魔法:レベル7(成長限界)】





 称号

【地上最強の少年  :レベル10(MAX)】

【最年少賢者    :レベル10(MAX)】

【庶民の癒し手   :レベル10(MAX)】

【聖者       :レベル3(成長限界)】

【鬼子       :レベル10(MAX)】

【ゴブリンスレイヤー:レベル10(MAX)】

【エクソシスト   :レベル10(MAX)】

【外道法師     :レベル3】

【牛殺し      :レベル2】




 ・鋼体術使用時

 攻撃力・防御力・回避に+150の補正



 ・鬼門法使用時

 攻撃力・防御力・回避に+300の補正


 ・身体能力強化使用時

 攻撃力・防御力・回避に×2の補正

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