第15話
「まあ良いからお前も手伝ってくれよ」
体が疲れてきたのでリリスにスコップを手渡した。
怪訝な表情を浮かべるも、渋々と言う風にリリスは首肯した。
「……穴?」
「ああ、半径は1メートル程度……。3メートル程度の深さで良い。とりあえず交代で掘ろう」
リリスは首をフルフルと振った。
「……ミノタウロス戦で既に時間を消費している。そして3メートルの穴を今から掘る……とてもタイムリミットに間に合わない」
「ああ、そういえばリリスが里に滞在を許されているのは明日の正午までだっけ?」
「……この迷宮は広大。ここを抜けたとしても……残り半日やそこらで最下層まで辿り着ける訳が無い」
「いや、なんで……あと半日で最下層まで辿り着かなきゃいけねーの?」
「ん?」
二人そろって小首を傾げた。
どうにも話が噛み合っていない。
「しかし、私の滞在が許されているのは明日の正午まで」
「うん、その話は聞いたよ?」
そこでひょっとして……と俺は息を呑んだ。
「お前さ……俺が最下層まで辿り着けば、その場で俺が見受けする訳だよな?」
「……そう」
「で、そりゃあ、まあ里の中だったら話は別だろうけど、この迷宮の中にまでワザワザ押しかけて……出ていけなんていう奴がいると思うか?」
「……そんな者はいないと思う」
「だったら……明日の正午にこだわる必要があるか?」
「それでも、龍王様との約束では明日の正午までに私は荷物をまとめて里を抜ける事になっている」
どんだけマジメなんだよっ!
と、思わず俺は苦笑した。
「少なくともこの迷宮に潜って出るまでのタイムオーバーについては気にしないで良い。っていうか気にするな」
「……いや、だがしかし」
ふゥ……と俺は深く溜息をついた。
本気でこいつを一人で外の世界に出すわけにはいかない。ましてや性奴隷待遇なんてもっての他だ。
育ての親の躾が良かったのは分かるが、この性格では一人では生きていけないだろう。
綺麗すぎる川には魚が住みつかない。
真面目は美徳でもあり悪癖でもある……多少の嘘や狡賢さってのは生きていくうえでどうしても必要だ。
このまま一人で外に出したら――骨までしゃぶられて、すぐさまにゴミ箱行きなのは目に見えている。
「……しかし、何の為に穴を?」
「落とし穴だよ」
「……落とし穴?」
「ああ、落とし穴だ」
「……呆れた。そんな古典的な方法で武装ゴーレムを突破するつもりだった?」
「ああ、突破するつもりだ。まず、俺がオトリになってゴーレムの意識を引く。そしてこの場所まで誘導する。で、奴からこの位置は死角になっている」
そうして俺はリュックサックから鉄製のワイヤーを取り出した。
「……ワイヤー?」
「ああ、トラップってのは……2重に張るもんだぜ? 曲がると同時に足をつまずかせて、穴の中に真っ逆さまって寸法だ。で、奴の肉体は金属で重い……落とし穴から抜け出るには一苦労だろうよ。穴の表面にはこれでもかってレベルで油も敷くしな」
「……でもこれじゃあ倒せない。せいぜいが時間を稼ぐだけ……時間を稼いだとしても、金属製の肉体にダメージを与えると言う根本問題が解決しない限り……倒す事は出来ない。経験値は得られない。貴方の目的である強くなると言う目標は達成できない」
ハハっと笑って俺は言った。
「ああ、倒すことはできないだろうな。でも、それで良いんだよ。この手だけで決めようとは俺も最初から思ってはいねーよ」
「……?」
そうして、俺はリリスに耳打ちを行い、これからの計画の全貌を語った。
全てを聞き終えた彼女は大きく目を見開き「……なるほど」と頷いた。
――15時間後。
5時間程度で作業を終えた俺たちは食事を摂った後に交代で仮眠を取った。
若干の疲れは残っているが、それでも睡眠の効果は実感できる。
「それじゃあ行きますか」
ワイヤートラップを確認する。
良し、大丈夫。
落とし穴を確認する。
良し、大丈夫。
俺とリリスは互いに顔を見合わせて頷き合った。
クラウチングスタートの姿勢を取る。
「……スタート」
打合せの通りに俺は一気にトップスピードに加速。
そのまま猛速度で曲がり角を曲がる。
「うおおおおおおおおっ!」
そして絶叫と共に全開の速度で武装ゴーレムに向けて駆けていく。
――ヴィンっと言う効果音。
武装ゴーレムの瞳に朱色の光が灯る。
彼我の距離差は10メートルって所だな……どうやらこの半径内に入ると、省エネモードから迎撃モードに移行するらしい。
ゴーレムもまた、俺に向けて走り始めた。
互いに互いが向き合う形となり、俺は即座に180度ターンを決める。
再度の加速。一気の加速。
来た道をそのまま戻り、曲がり角を曲がる。
と、同時に大きく跳躍。
その先にはワイヤートラップと1メートル半径程度の穴。
俺が穴を飛び越えると同時、後方から落下音が聞こえた。
「ビンゴっ! まあ、所詮は知恵無き鉄人形……当たり前っちゃあ当たり前か」
穴の中で手足をバタつかせているゴーレムを横目に、俺とリリスは小走りにその場から駆け出した。
向かう先は、先ほどまでゴーレムが守っていた次の階層に至る為のドアだ。
「……本当に素通りで良いの? 貴方の目的は経験値……で、あれば何だかんだで今は絶好のチャンスのはず……攻撃を叩き込む方法はいくらでもある」
「だから、さっきも説明しただろ?」
「……スキル:叡智。にわかには信じがたいが……この世の書物の大半を頭の中だけで読むことが出来る能力」
「で……俺の知っている通りなら、この次の階層はボーナスステージだ」
追従するリリスの表情は半信半疑と言った所。
「……本当に……にわかには信じがたい。地下迷宮がそういう構成になっているなどと……」
次階層のドアに辿り着いた。
俺はリリスには構わずにそのドアを開く。
と、そこには俺の予定通りの光景が広がっていた。
東京ドーム程の大きさの空間に、ゴブリンの集落。
「ギィっ!」
ゴブリンの内の一匹の叫びを皮切りに、蜂の巣をつついたような騒ぎとなっていく。
そう、今の俺達が目の当たりにした光景は――見渡す限りのゴブリン。
「ここから先は迷宮が続く。そしてここは……ゴブリンの養殖場だ。食物連鎖の最下層としてゴブリンはこの迷宮に飼われているんだ。ゴブリンってのは雑魚中の雑魚だよな……それこそ、1対1なら野犬相手でも殺されるような、そんな雑魚……小鬼だ」
「……うん」
「そしてここは森だ。だからこそ初っ端から2連続で中ボスが配置されている訳だ。森の中の魔物や、熊やら狼やらにゴブリンが喰われないように……な」
「……うん」
「で、普通の若龍ならゴブリンなんて歯牙にかけずに素通りする。ゴブリン程度ではレベル差が開きすぎていて、経験値にはならねーしな」
「……でも、貴方の場合は違う」
「ああ、俺の今のレベルは駆け出し以前の冒険者……で、今現在の光景は駆け出し冒険者の最もお得意のお客様――そのゴブリンが見渡す限りに満たされてるって寸法だな……その数は1000を超える感じか?」
――スキル:身体能力強化発動。
――スキル:鋼体術発動。
――スキル:鬼門法発動。
「――さあ、ボーナスステージの始まりだ」
名前:リュート=マクレーン
種族:ヒューマン
職業:村人
年齢:12歳
状態:通常
レベル:12→38
HP :650/650→1820/1820
MP :13400/13400→14512/14512
攻撃力:185→390
防御力:170→385
魔力 :2350→2625
回避 :225→480
強化スキル
【身体強化:レベル10(MAX)】
【鋼体術 :レベル10(MAX)】
【鬼門法 :レベル5→6】
防御スキル
【胃強:レベル2】
【精神耐性:レベル2】
【不屈:レベル10(MAX)】
通常スキル:
【農作業:レベル15(限界突破:ギフト)】
【剣術 :レベル4】
【体術 :レベル7→8】
魔法スキル
【魔力操作:レベル10(MAX)】
【生活魔法:レベル10(MAX)】
【初歩攻撃魔法:レベル7(成長限界)】
【初歩回復魔法:レベル7(成長限界)】
称号
【地上最強の少年 :レベル10(MAX)】
【最年少賢者 :レベル10(MAX)】
【庶民の癒し手 :レベル10(MAX)】
【聖者 :レベル3(成長限界)】
【鬼子 :レベル10(MAX)】
【ゴブリンスレイヤー:レベル10(MAX)】
【外道法師 :レベル3】
【牛殺し :レベル2】
・鋼体術使用時
攻撃力・防御力・回避に+150の補正
・鬼門法使用時
攻撃力・防御力・回避に+300の補正
・身体能力強化使用時
攻撃力・防御力・回避に×2の補正
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