第5話

 どうも、俺です。


 称号スキルで聖者とかついてます。

 ぶっちゃけ……予想よりもかなり成長しております。




 ……魔力チートやばいなコレ。



 とは言っても俺の職業は村人だ。

 魔力やMPがどれだけ高くても高位魔法は扱えない。



 証拠に、どれだけ魔法を使っても初歩魔法レベル7で魔法の成長は止まっている。

 まあ、剰余した魔力やらMPやらはその辺りは龍の里に受け入れてもらえれば大分解消するんだけどな。

 っていうか、現段階で魔物は狩れるんだが……レベルアップもまだしない。




 それは理由があってやっている事だ。




 








 本日俺が出向いた先は……家の裏山を抜けた先にある渓谷地帯だ。

 で、大きな滝があって、そのほとりに小屋を建てて住み着いてる小汚いオッサンがいる。



 俺の住んでいる村では、そいつは浮浪者の変人という事になっている。

 実際、村に降りてきた時にも商店はボッタクリ価格で対応したり、普通の村人も遠巻きに陰口を叩いたりと無茶苦茶な対応をしていた。



 そして時系列からすると、今、この瞬間から数か月後にコーデリアは神託を受ける。

 王都からお偉いさんが我が村に色々と駆けつけるのだが――その時に、そのオッサンがとんでもない者だった言う事が判明するんだよな。


 

 ――バーナード=アラバスター



 かつて王都騎士団で最強と呼ばれた剣豪だ。

 近くに住んでいると言う事で、とりあえずのコーデリアの剣術指南役として村長が頭を下げにいったんだが、余裕で断られた。



 そりゃあそうだろう。



 散々、変人扱いしといて正体が判明した瞬間に掌返しだと流石に気分が悪いだろう。

 で……田舎の辺境の国の騎士団内で最強と言われたからって、そこはぶっちゃけ俺はどうでも良い。




 重要なのは彼の経歴なのだ。



 

 彼は村人として産まれ、村人として成長し、そして村人として結婚した。

 農作業を営む傍らで3人の女の子宝に恵まれて、貧しいながらにも幸せな家庭を築いていた。

 事件が起きたのは末の子供が生まれてから3年目の出来事だった。


 ――彼の村がオークの集団に襲われた。


 戦力差は歴然で、男たちは抵抗する事も諦めて、村はただなされるがままに蹂躙された。

 女は犯され、そして苗床とされる為に攫われて、穀物庫から全ての貯蔵も奪われた。

 当然、彼の妻と娘たちもオークに攫われてしまった。



 ――そして全てを失った彼は村から姿を消した。



 それから。

 10年の歳月が経ち、王都の剣術大会に忽然と彼は現れた。


 そうして、なみいる強豪を押しのけて見事優勝を果たし、騎士団に入団することになる。

 更に数年の歳月の後、彼は騎士団長に襲名し、オークの集落を壊滅する事に全ての心血を注いだ。

 実際、彼の本名よりもオーク=キラーとの異名の方が遥かに有名だ。



 で、そんなこんなで、この国から全てのオークを駆逐すると同時、彼は騎士団から退団して世捨て人のように渓谷地帯に一人で住むようになった。

 まあ、彼からしたら今の人生はオマケのようなモノなのだろう。

 それで俺にとって重要なのはただ一つだ。



 彼はただの村人だった――しかし……田舎とは言え、村人のままで剣術大会で優勝する事ができた。



 だから、俺は彼のところに今現在……足を運んでいるという訳だ。










「帰れ」


 それがバーナードさんが蒸留酒をラッパ飲みしながら俺に対して口を開いた第一声だった。


 50歳手前の総白髪。

 筋骨隆々で無精ヒゲの男は10畳一間程度の広さの部屋に住んでいた。

 室内を見渡すと、至る所に酒瓶やゴミが転がっている。


 非常に室内は不衛生で、なおかつ酒臭い。


「こっちも帰る訳にはいかないんですよね」


 中身の入っている転がっている酒瓶を拾う。

 これまた転がっているコップに蒸留酒を注ぎ、俺は一息で飲みほした。


 不味い酒だ。

 日本でボトルで700円程度で売られている安ウイスキーの方が遥かに美味い。


「坊主……イケる口なのか?」


「もう少し上等な酒はないですか? これは幾ら何でもひどすぎます」


 そこでバーナードさんはニヤリと笑った。


「変わったガキだな。で……弟子入りだったかな?」


「ええ、そういう事ですね」


 しばしバーナードさんは考えて首を左右に振った。


「帰れって言ったのは実際にそのままの意味だ。今の俺は誰かに教える事はできない。と言うのも……」


 俺はバーナードさんの言葉を掌で制した。


「病気……の事ですよね?」


 そこでバーナードさんの顔色が露骨に変わった。


「誰にも……言った事はねーんだけどな?」


「そりゃあまあそうでしょうね」


 俺は不敵な笑みでそう返した。

 今から1年後にバーナードさんは肝臓を壊して死亡する運命となっている。

 それを俺が知っているのは、敢えて言うなら反則みたいなものなのだから……と、そこで間髪入れずに俺は懐から小瓶を取り出した。


「おい……小僧……これは……?」


「エリクサーです」


 肝硬変……内臓疾患に効果テキメンの魔法の妙薬だ。


 現代日本にこんなものがあって、数に限りがあれば、それこそ億単位でも値がつかないような薬だろう。


 そして貴重な材料が湯水のように使われるので、生産量は少ない。

 必然的に、この世界でもとんでもない値段で取引されているものだ。


 呆けた表情でバーナードさんは青色の液体が詰まった小瓶を眺め、そして笑い始めた。


「フハハっ……! フハハハっ!」


「小僧……どうやって金を作った?」


「……回復魔法でちょこちょこ稼ぎましたよ」


「回復魔法を使えるのか……それにしたって、エリクサーを買えるような大金を稼ぐなんて……」


 しばし俺は押し黙る。

 言おうか言うまいかしばし悩み、そして正直に打ち明ける事にした。


「俺のMPは1万をこえています」


 そう言って、俺はステータスカードを差し出した。

 MPと魔力の項目以外は指で隠して俺は口を開いた。


「ステータスオープン。他者の閲覧を許可する」


 そしてバーナードさんの瞳が大きく見開かれた。



 後――長い、長い沈黙だった。

 誰にも明かした事の無い病気を言い当て、更にエリクサーを持参した謎の少年。


 しかも、人外のMPと魔力を持つのだ。

 ――逆の立場だったら薄気味悪い事この上無い。


「……お前は妖怪……あるいは天魔の類か? MP1万超えなんざ……どこの世界にAランク級魔術師のガキがいるんだよ……」


「いいえ、俺は普通の人間ですよ」


 この返答が妙にウケたらしく、バーナードさんはクスリと笑った。


「で、MP1万を超えるような化け物がどうして俺に師事を乞う? 魔法の扱い方なら王都……いや、帝都に赴いて魔術学院にでも入ればいいだろうに」


「俺は――村人です。どれだけ努力しても初歩魔法しか使えません」


 しばし考え、バーナードさんはコクリと頷いた。


「色々と……訳アリのようだな。で……なるほど、だからこそ俺の所に来たのか?」


「ええ。だからこそお金を貯めました。貴方に死なれては困ります」


「ハハっ……本当に薄気味悪いガキだな? 事情を詳しく聞かせてはくれねえか?」


「俺は強くならなければならないんです。それ以上の事は……ごめんなさい」


「まあそうだろうな……で……お前の目的は鋼体術だな?」


 コクリと俺は頷いた。

 鋼体術――それは肉体を強化するスキルである。


 今、俺の持っている身体能力強化とは大きく違うものだ。

 潜在能力をベースとしてそれ以上の力を引き出すのが身体能力強化の法であり、元々が村人の貧弱な肉体が強化されてもそれはタカが知れている。



 そこで登場するのが鋼体術だ。

 それは肉体のべースそのものを強化し、底上げするスキルである。


 ただし、MPを非常に喰うスキルであるため、普通はそれを習得しようとするモノ好きはいない。


 バーナードさんもまた、オークに対抗する為……その初期段階でMP強化でかなりの無茶をしたはずだ。


 しかも彼は村人だ。



 

 ――肝臓の疾患は酒だけが原因では無い。




 ドーピング方法に聡い俺だからこそ分かる。

 外道の法理を駆使して――復讐の為に、彼は村人である自らを叩き上げた。


 実際、エリクサーを呑んで内臓疾患を治したとしても体の色々なところにガタがきている。


 だから、エリクサーを摂取したとしてもその場しのぎ的な意味合いが強く、天寿を全うできるほどには長くは生きられないだろう。


「しかしお前……鋼体術っていうのは身体能力強化スキルが前提となるスキルだぞ? まずはそこから覚えなくちゃあならん訳だ」


 ええと頷き俺は言った。


「それならもう使えます」


 そしてバーナードさんの両脇を両手で挟み込んでひょいっと軽々と持ち上げた。


「……なるほど。確かに使えるようだな」


「一応、スキルレベルはマックスです」


 深く溜息をついてバーナードさんは言った。


「一体……どんなガキなんだよ。しかし……そのMPは本当に尋常じゃねーな。一つだけ知りたい……どうやってこのステータスまで叩き上げた?」


「痛みに耐える事ができれば辿り着けます。そして……鬼門法もまたそれと同じです。違いますか?」


 そこでバーナードさんの表情が完全に強張った。


「鋼体術までは……まだ分かる。どこで……禁術……その言葉を知った?」


 しばし俺は言葉に詰まり、そして正直に打ち明けた。


「大体の事なら……俺は知っています」


 何の回答にもなっていない。

 けれどバーナードさんは妙に納得したような表情を作った。


「本当にモノノケの類か何かだな……とはいえ、俺も命を救ってもらった恩がある。で……禁術……鬼門法については知っているんだな?」


「人のままにして修羅となる――基礎ステータスを爆発的に上げる……鬼人と化す法理です」


「正にそれは鬼に至る門を開く方法だ……何故に禁術されているかも知っているのか?」


「MPの消費量が半端では無く……術者が気づかずに魔力枯渇が起きた場合、魂を消費して強化が続く術式……事故死が相次いだんですよね?」


「鋼体術や身体能力強化であれば、魔力枯渇で強制的に術式が解除される。けれど――鬼門法は術者が解除しない限りは魂までを喰らい尽くす」


 押し黙り、バーナードさんは俺に尋ねてきた。


「魔力枯渇が命取りになる……死と隣り合わせの禁断の技だぞ? それでも学びたいのか?」


 そこで俺はクスリと笑った。


「誰にモノを言ってるんですか?」


 そして微笑を作って言葉を続けた。




「俺のMPは1万を超えているんですよ?」




 そこで思い出したかのようにバーナードさんは笑った。


「ああ……そうだったな。あまりにも常識離れしてたもんで……普通の人間に対する説明をしちまった……そりゃあそうだ……お前であれば……鬼門法を完全に扱う事も……」


 そして俺の頭を鷲掴みにして、乱暴に頭をなでてきた。


「――お前……強くなれるぞ」


「だから言ってるじゃないですか」


 俺はバーナードさんに右掌を差し出した。

 バーナードさんは俺の掌を力強く握った。




「――俺は強くならなくちゃならないんです」


















 そうしてそこから6年の歳月が過ぎた。

 明日は、俺の村をゴブリンの群れが襲って来る日だ。

 

 ――同時に、龍がコーデリアを救いに来る日でもある。

















 名前:リュート=マクレーン

 種族:ヒューマン

 職業:村人

 年齢:12歳

 状態:通常

 レベル:1

 HP :12→50/50

 MP :10420→12050/12050

 攻撃力:15→35

 防御力:15→35

 魔力 :1923→2154

 回避 :35→55


 強化スキル

【身体強化:レベル10(MAX)】

【鋼体術 :レベル0→10(MAX)】

【鬼門法 :レベル0→5】


 防御スキル

【胃強:レベル2】

【精神耐性:レベル2】

【不屈:レベル10(MAX)】


 通常スキル:

【農作業:レベル15(限界突破:ギフト)】

【剣術 :レベル0→4】

【体術 :レベル0→6】



 魔法スキル

【魔力操作:レベル10(MAX)】

【生活魔法:レベル10(MAX)】

【初歩攻撃魔法:レベル7(成長限界)】

【初歩回復魔法:レベル7(成長限界)】


 称号

【地上最強の少年:レベル10(MAX)】

【最年少賢者  :レベル10(MAX)】

【庶民の癒し手 :レベル10(MAX)】

【聖者     :レベル3(成長限界)】

【鬼子     :レベル0→10(MAX)】

【外道法師   :レベル0→2】





 ・鋼体術使用時

 攻撃力・防御力・回避に+150の補正



 ・鬼門法使用時

 攻撃力・防御力・回避に+250の補正


 ・身体能力強化使用時

 攻撃力・防御力・回避に×2の補正


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