第3話
――さて、そろそろ本題に入ろうか。村人が強くなる為にはどうすれば良いか……その第一段階目にな。
と、その前にまず、叡智と言うスキルを説明しなければならないだろう。
スキル:叡智
この世界では書物にS~Eのランクがつけられている。
このスキルはBランク以下の全ての書物を脳内で検索及び閲覧する事が可能であり、2回目の人生の際に俺が持っていたチートスキルだ。
ランク分けの基準は概ね二つ。
純粋に、情報そのものの秘蔵性が高い場合もあれば、その情報そのものが危険である場合もある。
秘蔵性の高さについては何となく想像がつくとは思うが、情報の危険性については補足説明が必要だろう。
スパイ映画なんかで良くあるように、知らなくても良い事を知ったから消されるとか……そういった意味での危険じゃなくて、この場合は知る事自体が本当に危険なのだ。
例えば魔術書そのものに魔法がかけられていて、読んだ者に精神汚染が与えられるであるだとか、そう言った意味で……だ。
そして、スキル:叡智はBランク級の本についてまで、頭の中で閲覧することができて、なおかつ危険性も完全に排除される。
前回のチュートリアルの時は、幼児の時代はとにかく頭の中で本を読みまくって色んな知識の習得に努めたもんだ。
――そして今回、俺が使用する知識の種本は……道徳的な意味で禁書に指定された類のものであり、ランクはBとなっている。書いている内容も過激だし、この本が書かれた背景もちょいっとヘヴィに過ぎる。まあ、ちょっとした魔術学院の図書館のその奥……特別な許可が下りなければ閲覧が許されるようなモノじゃあないだろう。
まず、その本の背景について説明しよう。
単刀直入に言うのであれば、とある魔術師団体が行っていた――人体実験を克明に記録したモノだ。
で、その魔術師団体ってのはカルト宗教の色彩の濃い物で、それはそれは素敵な連中だったらしい。
本の中身とは言えば……お上品なPTA会長の叔母さまだったりすると読み始めて数行で眉をひそめるような素敵な構成となっている。
まあ、頭がブっとんだ魔術師連中が、人体実験を何の制約もなしにやりまくってるってなもんで……道徳的な意味合いは置いといて、当然の事ながら学術的な価値は高い。
そもそも、どうしてその宗教団体が人体実験なんて行っていたかと言うとだな……どうにも、その新興宗教団体はマジメに世界征服を研究していたらしい。
世界征服だぜ世界征服……ちょっと笑っちゃうよな。
で、最強兵士を育成する為に人体改造の実験を諸々に試しまくった成果が、その本と言う寸法だ。
それはそうとして、本に記載されている方法論は人間と魔物の融合実験だとか副作用有りなドーピングばかりでゲンナリだった。
強くなれるにしても、そっち系で強くなったとしてもあまり意味はねーからな。
一時的なドーピングについては……まあ、今後、他に遥かに効率的で真っ当な方法でやる予定だから、この本に描かれてるような内臓がボロボロになったりするようなのはパスだ。
と、まあ、そんな感じの読み飛ばしても良いような系統の記載ばかりだったが……とある項目が俺の眼に止まった。
・幼少期におけるМP(魔力)拡張について
この項目をきちんと説明するには魂の概念と宇宙意志にかかる原初生命エネルギー……まあ、説明しなければならない事は色々ある。
けれど、きちんと説明すると物凄く長くなるので、相当な部分をはしょって説明しようと思う。
単刀直入に言うと、赤ちゃんの才能は凄いんだ。
それはもう、とんでもないんだ。
以上だ。
…………と、ここで終わると暴動が起きそうなので少し掘り下げて説明をしよう。
現代の日本でも子供は霊感が強いだとか、子供には大人の見えないモノが見えるだとか、そういう話は良くあるのでイメージがしやすいと思う。
更に言うと、何かを教えた時の子供の吸収率は本当にとんでもない。
そしてここは異世界で、魔力と言う概念がガチで存在する世界なワケだ。
で、魔力を枯渇するまで使っちゃうとどうなるか……原住民風にカタコトで言おう。
――アカチャン、マリョク、カクチョウリツ、マジハンパナイ。
つまりはそういう事だ。
で、そこについて、俺には絶大なアドバンテージがある訳だ。
なんせ、普通の赤ちゃんは魔力の使用法を知らないんだからな。
まあ、スキルで産まれながらの天才だったりする場合は感覚で魔法を使えるのだが……その場合でもMPが枯渇するまで赤ちゃんが魔法を使用する事は無い。
何故なら、マジックポイントがゼロになるまで魔法を使うってのは、それはもう、相当にヤバい状態なわけだ。
地球でも低栄養状態で過激な運動をするとハングリーノックと呼ばれる現象が起きて、栄養不足で体が一時的に全く動かなくなる事がある。
それと似たようなレベルで、結構ヤバい状態なのがMPゼロと言う状態だ。
人間の構造と言うのは良くできているもので、大人でも普段使わない筋肉を使ったりすると筋肉痛が起きたりする。
そんで、魔力枯渇状態の場合は筋肉痛の比じゃないレベルの頭痛が生じる訳だ。
実際、今、俺はとんでもない頭痛に襲われている。
数十秒に一発ずつ、金属バットのフルスイングを脳天に打ち付けられているような……と形容すればいくらかこの痛みが分かってもらえると思う。
スキル:不屈が発動しているので何とか耐える事ができるが、それでもかなりキツい。
だから、チュートリアルの時はこの方法を知ってはいても使う事ができなかった。
いや、正確には何回か試した事はあるが、スキルなしではとても耐えられるようなモノではなかった。
例え強くなれるとしても、どこの世界に毎日自ら進んで切腹をするようなマゾがいるのだと言うのだろう。
まあ、そういうレベルでこれは……かなり無茶な特訓方法だ。
でも……と俺はほくそ笑んだ。
だからこそ、この方法を使用できるのは世界広しと言えども俺だけだ。
大人の記憶を持った俺ですら耐えられない痛みに幼児が痛みに耐えて黙々と修行することができるはずもない。
そんな事はありえない。
頭痛に支配されるボヤけた視界の中……やはり俺の表情から笑みは崩れない。
頭を支配する痛み、それは際限なき魔力拡張を意味している。
大人になればなるほどMP枯渇の痛みは小さい物になる。
けれどその代わり、MPの拡張率は下がっていく。
――確かに、俺は村人だ。
でも、MPの幼少期の拡張率に限っては――通常人の数百倍という領域に達している。
勇者も、賢者も、聖者も、魔王も――今の俺のマジックポイントの成長率には誰もかなわない。
ダントツのぶっちぎりだ。
今現在、俺は間違いなく、世界最強の2歳児だ。
けれど……と思う。
勇者、賢者、剣聖、怪盗、聖騎士。
この世界の法理により定められたとおりに、奴らはすぐに差を詰めて来る。
そこにはやはり、生まれながらの絶望的な差がある。
凡人はいくら努力しようが、やはりすぐに天才には追い付かれるのだ。
それは才能限界という言葉で片付けられたり、あるいはそのままの意味の理不尽と片づけられる事も多い。
どれだけ努力しようが、決して届かない頂はある。
それは俺も理解している。
でも……と俺は思う。
――それならば追いつかれる前に……更に俺はぶっちぎる。村人では決して届かない頂なら……普通じゃない方法で……必ず登って見せる……と。
――そして2年の時が流れた。
4歳の誕生日。
俺はステータスプレートを街の神官から授かった。
日本に住んでた頃に良く読んでたネット小説の異世界転生モノなんかではギルドでステータスプレートをもらってたりしてたもんだが……この世界では4歳の誕生日に全員が教会でもらえる。
そのステータスプレートの数字は本人にしか見えないが、俺は両親に嘘をついた。
そりゃあそうだろう。
これを知られてしまうと、流石にちょっと……引かれてしまう。
そう……これが世間に知れればとんでもない事になるレベルだ。
何しろ、俺のステータスは次のような形だったからだ。
種族:ヒューマン
職業:村人
年齢:4歳
状態:通常
レベル:1
HP :3/3
MP :6852/6852
攻撃力:1
防御力:1
魔力 :1250
回避 :1
強化スキル
【????:レベル4】
防御スキル
【胃強:レベル2】
【精神耐性:レベル2】
【不屈:レベル10(MAX)】
通常スキル:
【農作業:レベル15(限界突破:女神からのギフト)】
魔法スキル
【魔力操作:レベル10(MAX)】
【生活魔法:レベル10(MAX)】
【初歩攻撃魔法:レベル7】
【初歩回復魔法:レベル7】
称号
【地上最強の幼児:レベル10(MAX)】
【最年少賢者 :レベル10(MAX)】
うん。
当初の予想よりも……俺は育ち過ぎたみたいだ。
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