鳶と制服

霜月穂

鳶と制服

学校をサボって眺める青空が好物だ。今日は雲も少なく、一段と空が青い。

公園のベンチに座って、制服のまま空を眺める私は目立つ。午前11時、公園にいるのは、私と同じく日向ぼっこをしている爺さん婆さんか、乳幼児を連れたママさん集団だ。


まあ、私の制服姿を見ても、高校生だから「あら、まあ」くらいの反応でスルーしてくれる。だから目立っていても、そんなに居心地は悪くない。

それに、今日は風も弱く、プリーツスカートのひだが偶に揺れる程度だ。ますます私好みの天候である。


しばらく空を見てぼーっとしていると、やつが来た。「鳶(とんび)」だ。ぴーひょ〜ろろろろ〜、と暢気に鳴きながら頭上を旋回している。(ありゃ、目標定めたな)と思ったと同時に鳶は急降下し、ママ友軍団から「きゃああ!」という悲鳴が上がる。子供用の菓子を出したのだろう、それを鳶に取られたわけだ。

 この辺りに来たばかりの集団だろうな。地元に長く住んでいる人間は、鳶に食べ物を掠め取られることを知っている。転勤族に人気の地域のせいか、たまにこういう場面に出くわすのだ。

ママ友集団は怖かったねえ、びっくりしちゃったねえなどといいながら、空を睨みつけている。鳶はもう立ち去っていた。


動物はルールが単純明快でいいねえ。

強いか弱いか、食うか食われるか。法律も忖度も、暗黙の了解も何もない。「本能に従え」、だ。食べ物と判断したら人間の子供のお菓子も容赦なく取り上げる。強くて食う側だと判断したから襲ったのだ。


それに比べて人間ときたら。と考えると陰鬱な気分になる。空気を読め?空気は吸うか吐くかの二択だろ。

兎にも角にも、私は人間の癖に、人間の群れに入れない。複雑に張り巡らされた人間の掟に絡め取られて締め上げられる。空気を求めて水面に向かう魚のように、口は開けども言葉を発せない。


・・・鳶のショーも見たし、そろそろ弁当を食べに学校へ行きますか、とベンチから立ち上がる。黙ってお昼を食べて、またそっと帰っても一応「出席」だ。

1日に1度くらいは、群れに戻っておかないとね。これでも一応人間だから。

 山月記のように人外になったら、誰か来てくれるかな?道中そんなことを考えたら、くすりと笑えた。だって、誰かが来てくれたからあの話が成り立つわけでしょう、私よりも余程人間性があるじゃない。

 私の場合は誰も来ないな。来ないまま山の中で空を見つめて暮らすんだろう。なるなら鳶がいい。お腹が空いた時だけ山を降り、今日みたいに食べ物を掠め取るのだ。悪くないね。


さあ学校だ。1日1度の人間タイム、さっさと終わらせるぞ。

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鳶と制服 霜月穂 @infrareder

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