第22話 基礎訓練のはじまり

 兵舎に併設された訓練場にクラスメイトのみんなが勢ぞろいしている。

 その後ろにひっそりと俺たち3人も加わり、基礎訓練を担当する教官を待つ。



「私はビルフォード・ユースバッハ。

 普段は王国第一騎士団の中隊長をしているが、このたび勇者である貴君らの基礎訓練の指導教官を担当することとなった。

 貴君らには1人1人に担当の指導教官が付く予定だが、私はその教官の取りまとめ役となる。

 2週間という短い期間ではあるが、よろしくお願いする」


 訓練場で待つこと数分。

 鎧姿の兵士やローブをまとった魔術師がぞろぞろとやってきたかと思うと、その中の1人が代表してそう自己紹介してきた。

 ビルフォード・ユースバッハ。

 そういえばメリッサさんも似たような家名だったなと思ったところで、そのメリッサさんが前に出てきた。


「彼は私の兄です。

 パッと見では目つきの鋭い悪人面に見えるかもしれませんが、そこそこ面倒見は良いので安心してください」


「おいおい、ひどいじゃないかメリッサ。

 私はごくごく一般的な、善良な騎士に見えると思うんだが」


「だとすれば、この国の騎士は皆、愛想のない悪人面だということになりますね。

 お兄様もきちんと現実を受け入れてください」


 どうやら俺の記憶違いということもなく、やはり彼はメリッサさんの身内だったらしい。

 みんなに対して打ち解けやすそうにするためか、目の前で気安い会話が交わされている。


「メリッサもそれくらいにする。

 勇者様たちを前にあまりくだらない話を続けるのは良くない」


 そんな戯れのようなやり取りを見ていると、今度はローブをまとった魔術師風の女性が出てきた。

 そして、メリッサさんたちのやり取りが止まったのを確認して、自己紹介をしてくる。


「私は、ララーシャ・ルーデンフェルト。

 普段は宮廷魔術師として働いている。

 基本的に魔法関連の訓練についての取りまとめ役になる。

 よろしく」


「リリーシャ・ルーデンフェルトです。

 隣のララーシャ・ルーデンフェルトは双子の姉になります。

 私も姉と同じように魔法関連の訓練についての取りまとめ役になります。

 よろしくお願いします」


 続けざまにもう1人前に出てきて自己紹介を続ける。

 うん、言葉通り双子みたいだ。

 正直言ってどっちがどっちかわからない。

 というか、名前すら紛らわしいとか全力でこちらを混乱させにきているのかと思いたくなるな。

 ちなみに、双子の魔術師はストレートの銀髪でやや幼い顔つきで2人して眠そうな目つきをしている。

 加えて身長もそんなに大きくないので、年下のように見える。

 まあ、宮廷魔術師を名乗っているあたり、実際はこちらよりも年上なんだろうけれど。

 ついでに言うと、メリッサさんの兄であるビルフォードさんはかなりガタイの良いお兄さんだ。

 なんというか、外見的にはハリウッドのアクションスターがファンタジー物の撮影でもしているのかという絵面になっている。

 メリッサさんも身長が高かったが、彼はさらにその上をいって2m近いのではないだろうか。

 身長が高いところと金髪であるところが、メリッサさんとの外見的な共通点だろうか。


「まだ名乗っていない者もたくさんいるが、ひとまず貴君ら全員に名を覚えてもらいたいものは私を含めたこの3人になる。

 後ろに控えている者たちは貴君らの個別の指導教官になる予定だ。

 自己紹介はその際に行うものとする。

 では早速だが、貴君らの適性を確認させてもらう」


「適性?

 以前ステータスチェックで調べた“ジョブ”とは違うのですか?」


 再び口を開いたビルフォードさんがそう宣言したところで、様子見していたクラスメイトたちの中から学級委員長の清水が質問を返す。


「うむ、これから確認する適性は“ジョブ”に示される適性とは違い、単純にどのような戦闘方法が適しているかを確認するものだ。

 簡単に言えば、どの武器が適しているのかを確認することになるな。

 まあ、特に難しいこともない。

 実際に用意した武器を扱ってみてしっくりくるかどうかを確認するだけだ。

 口で説明するようなことでもないし、実際にやってみた方が良いだろう。

 向こうに用意してあるから移動してくれ」


 清水の疑問に答えたビルフォードさんが訓練場の奥を指し示す。

 そこにはいくつもの武器が並べられた場所が2ヵ所用意されていた。


 それにしても武器の適性か。

 異世界といえば剣と魔法というイメージだが、普通にそれ以外の武器も用意されているように見える。

 まあ、剣はともかく魔法の武器ってなんだよって感じではあるが。


「どうしたの?

 向こうに行かないの?」


 ぼんやりと異世界の武器に思いを馳せていると、見かねた明石さんから声をかけられた。

 見れば、みんなは既に移動を開始している。


「ごめん、すぐに行くよ」


 そう答えて、駆け足でみんなのもとへと向かった。

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