第20話 束の間の喜び
「えーっと、改めまして。
明石
明石さんが落ち着いたところで、今更ながらの自己紹介が始まる。
さすがに同じクラスだけあって顔と名前くらいは知っていたんだが、まあ様式美というやつだろうか。
「本条
こちらこそ、よろしくお願いします」
「田中
よろしく」
最後にそう言ってから、2人のことを改めて観察する。
2人とも服装は制服のままなので、見た目的には学校にいたころと変わりはない。
場所が教室ではないというところに違和感を感じるが、この部屋はそこまで異世界という雰囲気ではないので、場違いだとか浮いているとかいうレベルにまではなっていない。
外見としては、本条さんがストレートの黒髪を背中まで伸ばした和風美人といった感じ。
身長も俺より少し小さいくらいなので、160cmくらいはありそうな気がする。
明石さんの方は、黒髪のショートカットで身長は本条さんよりもけっこう低い。
150cmくらいだろうか。
正直、本条さんはともかく明石さんの顔は今まではっきり見たことはなかったんだが、こちらもかわいい感じの顔だ。
クラスで見たときは前髪で目が隠れていたのでよくわからなかったんだが、今ははっきりと目が見える状態になっている。
というか、2人ともクラスでは特に目立っていなかったが、美少女と言っていい外見だったんだな。
そういう意味では、美少女2人と付きっきりで行動できる俺は運がいいのだろうか?
……いや、それはないな。
どう考えても、美少女2人と行動できることによるプラスが“邪神の呪い”によるマイナスを打ち消しているとは考えられない。
まあ、むさくるしい男たちと行動するよりはよほどいいのだけれど。
ただ、女子と行動するということで気を使う必要があるのは少し気がかりかもしれない。
「で、どうしよっか。
ひとまず、呪い耐性ポーションでお互いの姿を確認できるようにはなったけど」
「うーん、どうする?
本条さんにもポーションを試してもらう?
向こうの様子を見る限り、俺と明石さんがポーションを飲んだだけだとクラスメイトのみんなには気づいてもらえないみたいだけど」
明石さんの問いかけに、まだ部屋に残っていた女子グループの方を見ながら答える。
さっきまで明石さんが結構な声の大きさで騒いでいたのに反応がないということは、こちらに気づいていないということだろう。
なので、そこについて本条さんにポーションを試してもらって確認するかどうかだ。
「そうですね。
正直、2人の結果的に私がポーションを飲んでも変わらない気がしますが、確認としては必要な気はしますね。
明石さんも構いませんか?」
「いいよ。
確かに必要なことだと思うしね」
明石さんの返事を聞いて、机の上に残っていた最後の1本を本条さんが手に取る。
「そんなにまじまじと見つめられると何だか恥ずかしいですね」
明石さんと2人して凝視していたせいか、恥ずかし気にそうこぼしてからポーションをあおる。
一瞬顔をゆがめたのはポーションの味が微妙だったせいだろう。
それ以外は特に反応を見せずに飲み干す。
「何か変わったところはありますか?」
聖水を試したときのように本条さんがそう聞いてくるが、残念ながら変化は見られない。
まあ、見えるようになったとはいえ、クラスメイトたちと本条さんたちとで見え方に違いがあるわけではないので、変化がないように見えるのは当たり前なのかもしれないが。
「うーん、わかんない。
吉田さんたちの前で踊ってきたらわかるんじゃない?」
「おっ、踊る!?」
何故か明石さんが本条さんに無茶ぶりをしているが、実際、変化があったかどうかはそういう確認をするしかないのだろう。
決して踊る必要があるとは思えないが。
「まあ、踊るは冗談にしても吉田さんたちのところに行って話しかけてきてよ。
今話しているのに反応がないから期待薄かもしれないけど」
とりあえず、そう告げて本条さんに確認してきてもらったが、やはり吉田さんたちクラスメイトには認識してもらえなかったようだ。
吉田さんたちのもとへと向かった本条さんが残念そうに首を振りながら戻ってくる。
「ダメみたいです」
その言葉に明石さんと2人して肩を落とした。
「なんだか同じ事ばかり聞いてる気がするけど、これからどうしよっか」
しばらく無言の時間が流れた後、再び明石さんが切り出す。
これからどうするか。
もちろん、やりたいこととしてはクラスメイトのみんなに合流したいということになる。
けれど、そのためにはみんなに認識されない原因となっているであろう“邪神の呪い”をどうにかしないといけないわけで。
「やはり、“邪神の呪い”を解く方法を調べるしかないんじゃないでしょうか」
「まあ、そうなるよねぇ。
じゃあ、やっぱり明日からは城の書庫で調べ物をする感じ?」
「そんなところかなあ。
あとは、呪い耐性ポーションや聖水の作り方を調べてみるとか?
もしかしたら、もっと効果の高いものがあったり、その作り方がわかるかもしれないし」
「なるほど。
それも良さそうですね」
そんなことを話していたときにそれは起こった。
「あれっ?」
気づいたら本条さんと明石さんの姿が見えなくなっていた。
「えっ?えっ?」
「?
どうしたんですか?」
そのことに気づいて混乱する俺に本条さんが声をかけてくる。
だが、どうしたと言われても自分でもどうなったのかよくわからない。
「……本条さんと明石さんの姿が見えなくなった」
「えっ!?」
俺の言葉に明石さんから驚きの声が返ってくる。
どうやら、明石さんにも俺の声は聞こえているようだ。
「えっ、なんで?
呪い耐性ポーションで“邪神の呪い”はどうにか――」
だが、続けられた言葉はその途中でプツンと途切れる。
そのことに驚き、助けを求めるように本条さんの姿を探すが当然のようにその姿は見えない。
そこへ本条さんの固い声が届いた。
「……明石さんも見えなくなったそうです」
突然のことにしばらく本条さんを介した会話でワタワタと慌てふためいていたが、落ち着いて考え始めるとその答えはすぐに見つかった。
単にポーションの効果が切れただけだ。
≪耐性ポーションだったら、そりゃ効果時間もあるよね~≫
明石さんが書き込んだように考えてみれば当たり前のことなのだ。
ポーション、それも耐性を付与する物であればその効果に時間制限が付いていることなんて。
仮に耐性ポーションを1本飲んだだけで永続的な効果が得られるのであれば、ポーションを作っている人たちは商売あがったりだろう。
1人につき1本しか売れないということになるのだから。
まあ、探せば永続的な効果を付与できるようなポーションもあるのかもしれないけど、ギルドやそこらの商会で簡単に手に入るようなことはないだろう。
「ひとまず何が原因かはわかりましたが、これからどうしますか?」
落ち着いたところで、今度は本条さんが問いかけてくる。
どうするか、か。
さっきはずっと本条さんと同じ状態なのだと考えていたから、クラスメイトたちと合流するためにその次のステップに進もうとしていたが、まずは足元を固めるべきなんだろうな。
≪とりあえず、呪い耐性ポーションを大量に確保する?≫
まあ、これが一番簡単な対処方法になると思う。
でも――。
≪これからのことを考えると、装備関連でどうにかしたいかな≫
「なるほど、装備品ですか」
≪あー、確かにそっちの方が一度で済むし、手間がなさそうだね。
でも、呪い耐性を付与する装備品に当てなんてあるの?≫
≪ない≫
俺のあっさりとした答えに沈黙が落ちる。
いや、でも俺が別行動した時間なんて迷子になっていたときくらいなんだから、そんな都合の良い情報なんて持ってないって。
「……まあ、そうですよね。
これも調べる対象に追加して、手掛かりが見つかったら行動に移すという形でしょうか」
≪うーん、結局どうなるの?≫
「とりあえずの呪い耐性ポーションを確保したら、後は地道に調べ物という形でしょうね」
結局、時間も遅くなってきたこともあり、そういう結論で終わることになった。
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