第19話 呪い耐性ポーションの確認

≪ま、まあ、本命はポーションの方でしょ。

 本条さんと同じ状態を目指すんだったら、いきなり“邪神の呪い”を解呪するんじゃなくて耐性を付ける必要があるわけなんだし≫


 聖水の確認を終え、しばらくしてから明石さんが励ますようにそう書き込む。

 確かにその通りではあるんだが、同時にただの聖水では“邪神の呪い”を解呪することができないという証明にもなってしまったわけで。

 そういう意味では、本命ではなかったとはいえ結構なダメージを受けてはいる。

 まあ、“邪神の呪い”なんていう大層なものがそこらにある聖水で解呪できるとは思っていなかったが、改めて現実を突きつけられたというか。


「そうですね。

 まだ、呪い耐性のポーションもありますし、聖水がダメだということを確認できたということで納得しておきましょう」


≪そうそう、別に状況が悪化したわけじゃないからね。

 気持ちを切り替えてポーションの確認をしようよ≫


 うーん、女子の方が切り替えが早いのか、それとも俺が後ろ向きなだけか。

 状況が悪化したわけじゃないと言っているけど、考えようによっては聖水という解決策が1つ潰れたというわけなんだけど。

 でもまあ、本条さんが言うように聖水がダメだということを確認できたと納得しておくべきなんだろうな。


≪じゃあ、今度は俺が確認してみるよ≫


 後ろ向きな考えを振り払う意味も込めてそう宣言する。

 そのまま返事を待たずに机の上のポーションを手に取って飲もうとするが、瓶の口から覗く緑色の液体にためらいを覚える。

 改めて思うが、明石さんはよくもまあこんな訳の分からないものを飲もうと思ったものだ。

 いや、聖水の方は無色透明だったからそこまでの拒否感はなかったのか。


「あっ、ちょっと待ってください。

 明石さんも一緒に確認したいそうです」


 覚悟を決めたものの、ポーションの色にためらっていたら本条さんからそんな声がかかった。

 でも、一緒に確認したいってそれに意味があるのか?


≪なんとなく1人だけ取り残される気がしたから≫


 俺の疑問を察したかのように明石さんからそんな言葉が返ってくるが、やはりよくわからない。

 1人ずつの方がさっきみたいに条件を変えられたりするし、そっちの方が良いんじゃないかとも思うんだけど。

 ……まあ、無理に止めることもないか。

 そう思ってポーションに目を向けたところで、再び本条さんから声がかかる。


「それで、ポーションはどちらの方法で確認するつもりだったんですか?」


≪ポーションは飲んだ方が効果が高いという話だから、飲むつもりだったけど≫


「そうですか。

 明石さんはどうするんですか?

 聖水みたいにやり方を変えるんですか?」


≪ポーションはもともと飲むイメージだし、そっちの方が効果も高いって話だから私も飲むつもり≫


「わかりました。

 飲まずに振りかけた場合にどうなるかというのも気になりますが、そちらは残りの1本かもう一度ポーションを入手したときということにしましょう。

 では、お願いします」


 明石さんと同じ確認方法というところに若干引っかかったが、本条さんの言う通り、残りの1本か次に手に入れたときでいいだろう。

 ポーションに限らず、色々な物資を確保するために出歩く必要も出てくるだろうから、次に入手する機会もそれほど先になるとも思えないし。

 そう納得したところで、胸元で構えていたポーションに口をつける。

 口に含んだ瞬間、苦いような甘いような何とも言えない微妙な味を感じるが、覚悟を決めて一気に飲み干す。


「ふー」


 ゆっくりと息を吐き出し、閉じていた目を開く。

 そのまま視線を本条さんの声が聞こえていたあたりへと向けるが、視界に映るのは先ほどまでと変わらぬ光景。


「ポーションでもダメなのか……」


 思わず落胆の声を漏らし、首を振る。

 切り替えないと。

 確かに本命の呪い耐性ポーションでもダメだったのはかなり厳しいが、さっき本条さんが言っていたように呪い耐性ポーションがダメだと確認できたわけでもある。

 今はそう考えて次の方法を検討する方向に頭を切り替えるしかない。


「!?」


 そんなことを考えていたら、視界の中にうっすらとぼやけた影が映った。

 その影は次第にはっきりとした輪郭を持ち、数秒経つとはっきりとした女子2人の姿に変わる。

 驚きと期待に呆然と見つめていたが、願望が見せた幻ではないかと頭を振って再度見直す。

 そこには変わらず女子2人の――本条さんと明石さんの姿があった。


「!?

 ほっ、本条さんの姿が見える!!

 田中君のことも!!」


 2人の姿をはっきりと認識したのとほぼ同じタイミングで明石さんからもそんな声が聞こえてくる。

 どうやら、俺だけでなく明石さんも見えるようになったようだ。

 そのことを理解し、ようやく本当に2人の姿が見えるようになったのだと確信を持てた。


「良かった。

 明石さんも見えるようになったんだね」


「うわっ、田中君の声も聞こえるようになってる!?

 えっ、これってポーションの実験が成功したってこと?」


「たぶんそうだと思うよ」


 若干混乱気味の明石さんに苦笑しながら返す。


「ヤッター!!」


 次の瞬間、そう叫びながら明石さんが本条さんへと飛びかかるように抱きつく。

 本条さんは突然のことに驚いたようだが、次の瞬間にはその顔がうれしそうな笑顔に変わっている。


「よ゛がっだ~。

 もう、一生このまま、かと思って、……ぐすっ。

 って、本条さんにも触れてる~。

 本条さんが柔らかい~」


「ちょっ、柔らかいって何ですか!?」


 本条さんに抱き着き、泣きながらそんなことをこぼす明石さんの姿を離れた位置から見守る。

 まあ、最後の言葉はアレだが、単に他の人に触れることができるようになってうれしいということだろう。

 決して本条さんが抱き心地のいい柔らかな体型だということではないはずだ。

 実際、どちらかというと痩せているように見えるし、胸のほうもそれほど揉み心地が良いようには見えない。


「ちょっ、ちょっと、田中君も見てるだけじゃなくて助けて下さい!」


 そんなふうに若干失礼なことを考えていると、本条さんからヘルプの声がかかる。

 ただ、助けろと言われても、女子相手に手を出しにくいから結局は声をかけるくらいで見守ることになると思うんだけどな。


「ちょっ、明石さん落ち着いてください!!」


 あーあー、とうとう明石さんが本条さんを押し倒してしまった。

 まあ、いい加減本条さんが限界っぽいので止めに入れる位置には移動しておくか。


 なんにしても、呪い耐性ポーションの実験が成功してよかった。

 本条さんと同じ状態だと考えると未だに解決には程遠いというか、スタート地点にも立てていない感じだとは思うが、一歩前進したことは確かだ。

 ここからさらに進めて、他のクラスメイトたちに認識してもらえるようにならなくてはいけないので、まだまだやらないといけないことや調べないといけないことは山積みだとは思う。

 それでも、今後は3人で一緒に行動できるようになるのだ。

 これまでも一緒に行動していたが、筆談や本条さんを介した会話という形だった。

 それが、お互いの姿を認識して直接会話できるようになるのだから色々とやりやすくなるはずだ。


 何よりお互いの姿が見えるというのがいい。

 これまでは本条さんに見つけてもらわないといけないという受け身の状態でしかなかったからな。

 そういう意味では精神的にもかなり楽になった気がする。

 この調子でどんどん状況が良くなっていってくれればいいのだけれど。

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