第12話 改めてのステータスチェック

 軍のお偉いさんが立ち去った後、付き添いの兵士たちも鑑定用のプレートを戸棚へと片付けてから退出していった。

 今部屋の中にいるのは平井先生たちと元からいた見張りの兵士、そして気づかれない俺たちだけだ。


「どうしますか?」


 本条さんの提案で先ほどまでの席に戻った後、改めて本条さんが質問してきた。


≪せっかくだし、ステータスを確認したい≫


 これは明石さんの返答だ。

 まあ、せっかく鑑定用のプレートが届けられたのだから、できることなら俺も改めてステータスを確認してみたい。

 なので俺も明石さんの答えに乗っかる。


≪ステータスチェックに一票≫


「では、部屋に向かうのは一旦中止して、スタータスの確認をするということでいいですか?」


 本条さんの言葉にうなずく。

 それを確認したのか、本条さんが続ける。


「すぐにステータスチェックを行いますか?

 それとも、平井先生たちがいなくなってから行いますか?」


 どちらでもいいような気もするが、どうしたものか。

 居るときに確認してもどうせ気づかれないだろうし。

 とりあえず、戸棚が勝手に開く怪奇現象が発生すると思うが今さらだ。

 人が少なくなったことで、戸棚の開閉に気づかれるかもしれないが、どうせ違和感を覚えることはないのだろう。

 なんとなく、そんな確信がある。

 ついでにいえば、ステータスチェック中のステータスウィンドウにも気づかれないはずだ。

 儀式場でチェックしたときに、あの距離で気づかれなかったのだから。


 対して、居なくなってから確認する場合は、明かりが問題になるのだろうか。

 平井先生たちがこの部屋を出たら、さすがに見張りの兵士も立ち去る気がする。

 見張りに立つなら、イメージ的に部屋の中ではなく廊下の扉の前だろう。

 であれば、この部屋の明かりは消される気がする。

 そうなると問題は、俺たちがこの部屋の明かりをつけることができるかということだ。

 正確に言えば、明かりの魔法道具が使えるかということなんだが。

 扉などに触れられることはわかっているんだが、まだ魔法道具については確認できていない。

 操作自体はスイッチに触れて“点け”とか“消えろ”という風に念じるだけでいいらしいんだが。


≪先生がいなくなってからでいいんじゃない?≫


 俺が考えていると明石さんがそう書き込んでいた。

 “居なくなってから”か、なんでそっちを選んだんだろうか?

 俺の顔に疑問が浮かんでいたのか、単に本条さんも気になっただけなのかはわからないが、本条さんが質問した。


「どうしてですか?」


 俺にも声が聞こえたということは、俺が疑問に思ったことを読み取ったからこその質問なのかもしれない。


≪そのほうがゆっくり確認できるでしょ≫


 うん、あまり考えてなかったみたいだ。

 ……いや、考えたからこそなのか。

 確かに考えてみれば、すぐに確認しようとしても途中で平井先生たちが居なくなれば、同じ問題にぶつかる。

 であれば最初から居なくなってからチェックしたほうが面倒が少ないのか。


 だが、俺たちの話し合いは結局無駄になったようだ。

 そうこうしているうちに、平井先生たちも自分たちの部屋へ向かうことにしたらしい。

 見張りの兵士たちに声をかけ、扉へと向かっている。

 予想通り兵士たちもこの部屋から出ていくようで、平井先生たちの後に続く。


 “パタン”という扉の閉まる音とともに、俺たちは真っ暗になった部屋の中に取り残されることとなった。




「結局、居なくなってからということになってしまいましたね」


 苦笑しているような気配をさせつつ、本条さんが言う。


「とりあえず、明かりがつけられるかどうかを確認してみようか」


 暗闇に目が慣れてきたのを見計らって提案してみる。

 さすがに暗闇の中で筆談はできないので、本条さんを通しての口頭での提案だ。


「そうですね。

 では、私が行って明かりが点けられるかを確認してみます」


 おそらく明石さんへの説明を兼ねてだろう、本条さんはそう答えた。

 まあそれはいいんだが、やはり姿が見えないというのは本当に不便だ。

 今も本条さんは動き出しているんだろうが、その姿が見えないので状況がわからない。

 今回くらいのことであればすぐに結果が分かるので問題ないが、長時間別行動になるような場合はかなり問題になるかもしれない。

 できる限り一緒に行動するとは言っていたが、四六時中一緒というのは不可能だろう。

 やはり、後で何らかの対策を考えないといけないな。


 そんなことを考えながら待っていると、部屋の明かりが点いた。

 どうやら、俺達でも魔法道具の操作は可能なようだ。

 とりあえず、懸念すべき点が一つ潰れたな。


「では、さっそくステータスチェックをしてみましょう。

 戸棚の近くの机に来てください」


 扉の近くから本条さんが声をかけてくる。

 その声にうなずき、移動する。

 おそらく、本条さんや明石さんも同じように移動し始めているだろう。



 戸棚近くの机に着くと問題が発生していた。

 どうやら本条さんでは鑑定用のプレートを移動させられなかったらしい。

 開かれた戸棚の中にプレートが残されたままだった。


「えっと、ごめんなさい。

 プレートが思ったよりも重くて……。

 落としたりしたら大変ですから、田中君お願いできますか?」


 そういえば、兵士たちも2人でプレートを持っていたな。

 1人で持つにはバランスが悪いからだと思っていたが、重量の問題でもあったのか。

 いや、バランスの問題にしろ、重量の問題にしろ、俺一人で持てるのか?

 このメンバーだと誰かが持とうとした瞬間に存在を認識できなくなるから、協力できないしなぁ。


「あー、試してみるよ」


 そう答えて、戸棚の前に立つ。

 儀式場でも見ていたが、改めて近くで見ると結構な大きさがある。

 とりあえず、見ているだけではしょうがないので、プレートの両端に手をかけて持ち上げてみる。


「ふんっ」


 覚悟を決めて持ち上げてみるが、やはりサイズ相応の重さがある。

 だが、戸棚から机までの距離であれば十分に移動させられるレベルだ。

 そのまま、力を込めてプレートを机の上へと持っていく。



「ふー」


 無事に机の上に運び終えたプレートからカバーを外し、俺は息を吐き出す。

 とりあえず、これでステータスチェックの準備は完了のはずだ。


「誰から確認する?」


 顔を見ることはできないが、というか明石さんには声すら聞こえないはずだが、2人に確認してみる。

 すると、少しの間をおいて本条さんから返答が返ってきた。


「“邪神の呪い”のことを確認したいので、田中君からお願いします」


「わかった」


 正直、誰から確認しても大差ないとは思うんだが、ご指名なので俺から確認させてもらおう。

 俺は改めてプレートの正面に立つ。


「じゃあ、始めるね」


 そう宣言して、俺はプレートに両手を乗せる。

 数十秒の間を置いて、プレートからはステータスウィンドウが問題なく表示された。



 名前 田中 影太(タナカ エイタ)

 種族 ヒト

 性別 男性

 年齢 15


 体力 D

 魔力 E

 筋力 D

 知力 E

 肉体 D

 精神 E

 敏捷 D

 器用 E

 運  C


 適性 影使い

 加護 邪神の呪い



「……」


 無言で表示されたステータスを確認する。

 一番最後の項目である“加護”には儀式場で確認した通り、やはり“邪神の呪い”の文字があった。

 というか、“加護”となっているのに呪いというのは詐欺なんじゃないだろうか。

 そんなくだらないことを考えつつ、他の項目を確認していく。


 最初の4項目、名前、種族、性別、年齢は問題ない。

 まあ、この項目で引っかかるようなことがあるととてもじゃないがやってられない。

 次の各種ステータスについても、特に見るべき点はなさそうだ。

 運を除いて、ステータスの値がDかE。

 クラスメイト達のステータスを見た限りでも、大体のステータス値がDかEだったので特に問題はないだろう。

 運についても、クラスメイトの大半がCだったので問題ないはずだ。

 まあ、勇者である西野は運がAだった気がするが……。


 で、加護の“邪神の呪い”が問題なのは言うまでもないが、適性についても何とも言えない感じのものが来てしまった。


“影使い”


 ……うん、よくわからん。

 いや、影を使ってどうにかするんだろうとは思うんだが、いまいちイメージができない。

 マンガやアニメ的なものを想像するのであれば、自分の影を物質化するとかだろうか。

 とりあえず、クラスメイト達の適性では見ていないのでおそらく特殊な適性だろうとは思われる。



「……確かに“邪神の呪い”とありますね」


 一通りステータスの内容を確認し終えたところで、本条さんがそうつぶやく。

 というか、本条さんにはプレートから出現したステータスウィンドウが見えているのか。

 最初の説明だと他人のステータスは無闇に見ないのがマナーみたいなことを言っていた気がするが。

 まあ、半ば一蓮托生的な関係になっているので別に構わないといえば構わないんだが。


「本条さんはステータスウィンドウが見えるんだ。

 明石さんにも見えてるの?」


「いえ、見えているのは私だけです」


 なんとなく気になったので確認してみるが、明石さんは見えないらしい。

 ということは、おそらく俺も本条さん、明石さんのステータスウィンドウを見ることはできないだろう。


「そっか。

 じゃあ、俺のステータスは確認できたし、交代するね」


 そう言って、プレートの前から移動し、ステータスチェックのための場所を譲る。


「あっ、はい、それじゃ、私たちもステータスの確認をしますね」


 本条さんがそう答えた後、プレートが2度ほど机の上から消え、2人も無事にステータスチェックを終えることができた。

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