第11話 来訪者
廊下から聞こえる足音は次第に近くなり、部屋の前に来たところで止まった。
いつの間にか移動していた見張りの兵士が扉を開くと、そこにはガタイのいい厳ついおっさんが立っていた。
人相はマフィアとかそっち系に見えるが、着ているのがまわりの兵士よりも高級そうな軍服なので、おそらく軍関係のお偉いさんなんだろう。
「遅くなって申し訳ない。
本来であればもっと早く来れるはずだったんだが、少し手間取ってしまってな」
そんなことを口に出しながら、平井先生たちのもとへと近づく。
一方、平井先生たちも椅子から立ちあがって、お偉いさんを迎えている。
「いえ、普段であればまだまだ寝る時間には早いですので。
ただ、今日はいろいろとありましたので、生徒たちは早めに休ませてあげたいのですが」
ふむ、部屋に残っていた平井先生たちはこのお偉いさんを待っていたのか。
しかし、わざわさ何の用だ?
「ふむ、確かにその通りだな。
多分に俺のわがままというところも多いし、さっさと済ませるか。
おいっ、プレートを出せ」
お偉いさんの言葉で、後ろに待機していた兵士2人が前に出てきた。
2人の手には大きな板のようなものがある。
そしてカバーを外して机の上に置くと、そこには数時間前にも見たステータス鑑定用のプレートがあった。
「!?」
驚きに声をあげそうになる。
本条さんからも同じように驚いたような雰囲気を感じる。
少し前にこの部屋の中を探し、結局見つけることができず、俺に悲しさと恥ずかしさを感じさせた原因。
そのプレートが目の前にある。
「では、さっそく頼んでもいいか。
一応、報告は上がってきているんだが、対魔王軍の指揮を執る者として、<勇者>や<聖女>といった有望そうな適性を持つ者を一刻も早く確認しておきたくてな」
「では、<勇者>ではありませんがまずは私からやらせてもらいます」
お偉いさんの言葉にお互いの顔を見合わせた後、平井先生がそう言って前に出た。
平井先生の確認が終わると、残っていたメンバーが順番にプレートを使ってステータスを表示させていく。
他に残っていたのは、<勇者>の西野、<聖女>の香坂、<賢者>の清水、そして<聖騎士>の津嶋だ。
儀式場で行ったステータスチェックでは確認することができなかったが、平井先生も<聖騎士>の適性を持っていたようだ。
「ふむ、確かに<勇者>に<聖女>だな。
さらに<賢者>に<聖騎士>もか。
貴殿らには遅くまで付き合わせてしまって申し訳ないが、これを見て俺も久しぶりに希望を見た思いだ」
平井先生たちのステータスを確認し終えると、お偉いさんは満足気にうなづきながらそう口にする。
しかし、次の瞬間には真剣な顔になっていた。
「だが、近頃は獣人の国が落ちたことに始まり、帝国の南部が占領されるなど戦況は芳しくない。
そんな中での召喚勇者の登場だ。
一般の民をはじめ、兵士たちについてもそこに希望を見出すだろう。
その中でも<勇者>に<聖女>、<賢者>や<聖騎士>といった適性を持つ貴殿らには、特に大きな期待が寄せられるはずだ。
現に俺も貴殿らに希望を感じているからな」
そこで一度言葉を止め、お偉いさんは平井先生たち一人ひとりの顔を順番に見つめる。
「陛下からは、召喚勇者たちについては可能な限り本人の希望に沿うようにとのお達しが出ている。
俺たちとしても協力してもらう貴殿らの希望に沿いたいと思っている。
だが、それでも、力を持つ貴殿らには共に戦ってほしいと願うのだ!
平和な世界に暮らしていた貴殿らにこの願いが酷なことはわかっている!
それでも、どうか共に戦うことを選んではくれないだろうか!」
そう言って、お偉いさんは頭を深く下げる。
この言葉を聞いた平井先生たちは複雑そうな表情だ。
偏見かもしれないが、運動部の西野と津嶋は戸惑っているがやる気になったような表情をしている。
対して残りの3人は苦い表情のままだ。
そんな中で平井先生が口を開く。
「お気持ちはわかりますが、私たちも今日こちらに来たばかりですし、いくら適性といったものがあると言われても戦いに関しては素人ばかりです。
元の世界に戻るためにあなた方に協力するという意思はありますが、今の時点ではどこまで期待に沿えるかはわかりません。
……正直に言ってしまえば、私としてはまだあなた方に対する疑念というか不信感が強く残っています。
そのような状態で共に戦ってほしいと言われても、はいそうですかとうなづくことはできません」
最後はお偉いさんをにらみつけるようにしながら強い口調になっていた。
平井先生の隣にいる西野たちは驚いたような表情をしている。
俺としても驚きだ。
正直、平井先生がこんな喧嘩を売るようなセリフを吐くとは思わなかった。
というか、下手をすると平井先生がこのお偉いさんたちから敵視されかねないんじゃないのか。
……まさか、自身に敵意を集めるためにこんなことを?
「失礼した。
確かに貴殿らからすれば我らはただの誘拐犯といったところ、信頼などあるはずもない。
俺としたことが気がはやっていたようだ。
申し訳ないが、もはや貴殿らがこちらの世界に召喚されたという状況を回避することはできない。
であれば、我らとしては貴殿らに納得して共に戦ってもらえるように信頼を勝ちとるしかないだろう」
そう言って言葉を切ると、お偉いさんは平井先生たちの顔を見回して続ける。
「今の俺が言っても信じられないかもしれないが、我々としては純粋に貴殿らに助力を願いたいと思っているだけだ。
間違っても貴殿らを都合の良い道具として扱おうなどいう考えはない。
……だが、それでも、考えたくはないが状況の見えない馬鹿がわが国にも残念ながら存在するかもしれない。
もし貴殿らを利用しようとしたり、下に見るような扱いをする者がいれば俺に伝えてくれ。
そのような馬鹿はすぐにでも処分しよう。
他にも何か要望があれば周りの者に言ってもらえればできる限りの対応はする。
まあ、訓練に関しては貴殿らの為にも手を抜くことはできんが。
とにかく、何が言いたいかというと、貴殿らの助力を得るために我らは可能な限りの対応をするということだ。
とは言っても、現時点ではただの軽い言葉でしかないだろうし、今後の我らの対応を見て判断してもらうしかないがな」
「そうですね。
先ほども言いましたが、まだ信用することはできません。
ですが、私たちとしても元の世界に帰ることができるまでの期間をあなた方と敵対して過ごすよりは、良好な関係を築きたいとは思います。
ですので、あなたの言葉が本心からのものであることを祈っています」
お偉いさんに対する平井先生の言葉は辛辣なままだ。
だがまあ、平井先生の立場としては警戒に警戒を重ねるくらいでいないといけないのかもしれない。
クラスメイト達の中には、異世界だとか魔法だとか、メイドさんだとか言ってテンションを上げているやつもいたしな。
「ああ、俺の言葉に偽りはない。
それを証明するためにも今後は行動で示していくことにしよう。
では、遅くまで付き合わせて悪かったな。
俺はここで失礼させてもらう」
お偉いさんは平井先生の言葉にやや苦笑しつつ、そう言って部屋を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます