第10話 ステータスプレートの捜索
≪呪われてるって、どういうこと?≫
部屋の隅の机に座った途端、机の上に現れたノートによってそんな質問をされた。
どうやら、この部屋に着くまでに明石さんにも本条さんが説明をしてくれていたようだ。
ちなみに、今の俺たちはすでに兵舎に到着し、クラスメイト達を一緒に用意された部屋へと通されている。
まあ、俺たちの場合は勝手についてきているだけなのだが。
で、この用意された部屋なんだが、俺たちが夕食を食べた食堂よりも手前にある部屋で、大きさは教室より一回り大きいくらい。
普段はいわゆるブリーフィングみたいなことに使われているらしいが、今は俺たちが使いやすいように部屋の中の物が動かされ、壁際に置かれた戸棚と食堂のような並びになった机と椅子が置かれているだけだ。
一応、これからの準備期間を含めた訓練期間中に自由に使える部屋ということらしい。
泊る部屋は男女別に分かれているが、この部屋であれば自由に交流してOKとのことだ。
あと、食事もこの部屋で集まって取ることになるらしい。
夕食のときに見た限りでは食堂にも十分に余裕があるように見えたが、おそらく召喚勇者を一般の兵士たちから隔離しておくためだろう。
でも、訓練が開始されれば、いやでも兵士たちとかかわることになるであろうから、実際にはクラスメイト達が落ち着けるようにとの配慮なのかもしれない。
≪俺のステータスに〝邪神の呪い”という表示があったんだよ≫
なんとなく、この部屋のことについて考えながら明石さんへの回答をノートへ書く。
ちなみに、今この部屋にいるのはクラスメイトの半数ほどだ。
残りのみんなはすでに割り当てられた各自の部屋へと移動している。
≪じゃあ、あたしたちのステータスにも、その〝邪神の呪い”があるの?≫
≪それは確認しないとわからないけど、ある可能性が高いと思う≫
「どうにかして私たちもステータスの確認をすることができないでしょうか」
本条さんが不安そうにつぶやく。
そう、俺たちもきちんとステータスの確認ができればいいのだ。
そして、俺はそれが実現できる可能性が高いことを知っている。
あの文官たちの話が事実であれば、召喚勇者たちのために用意されたというこの部屋にステータスチェック用のプレートがある可能性が高いだろう。
例えば壁際に置かれている棚なんて、いかにも怪しい。
≪でも、あのプレートは持っていかれちゃったからねー≫
≪もしかしたらプレートが見つかるかもしれない≫
俺は明石さんが書き込んだ続きにそう書き込む。
「本当ですかっ!!」
その瞬間に本条さんから驚いたような声が上がる。
いや、驚き過ぎじゃない?
俺としても予想しているだけで、まだ確信しているわけではないんだけど。
≪本当?どこにあるの?≫
やや遅れて明石さんからも反応が返ってくる。
なんだろう、やはり〝邪神の呪い”というのはインパクトが大きかったのだろうか。
……そういえば、俺もショックで固まっていたし、気にするのは当たり前か。
そんなことを考えながら、俺はさっき聞いた文官たちの話を本条さんたちに伝えた。
「なるほど。
そういうことであれば、確かにこの部屋にプレートがある可能性は高そうですね」
≪あの戸棚の中が怪しい?≫
時間がかかりながらも、筆談でどうにか2人にさっきのことを説明するとそんな反応が返ってきた。
というか、筆談メンドクサイ。
時間もかかりすぎだし。
実際、周りを見ても部屋に残っているのは平井先生たち5人だけになっている。
「じゃあ、さっそく確認してみましょう。
平井先生たちまで部屋に行ってしまうと明かりを消されるかもしれませんし」
なるほど、そういう可能性もあるのか。
であれば、すぐに確認すべきだな。
本条さんの言葉で俺たちは壁際の戸棚へと移動した。
「では、開けますね」
本条さんのその言葉が聞こえた途端、右端の戸棚が気づけば開けられていた。
どうやら、開けている最中は認識できずに開け終わった状態になってから認識できるようになるらしい。
まあ、そのことは今はどうでもよくて、肝心の中身なんだが、残念ながら何も入っていなかった。
続けて残りの戸棚も順に開いて確認していく。
だが、どの戸棚も中には何も入っていない。
そして、5つあった戸棚のうち最後の一つになった。
「えっと、これが最後です」
そう言って、本条さんが最後の戸棚を開く。
次の瞬間、開いた戸棚の中には……、何もなかった。
「……」
なんだろう、沈黙が痛い。
いや、明石さんに関してはもともと声を聞くことができないんだが。
「……なんか、ごめんなさい」
いたたまれなくなって、とりあえず謝ってみる。
まあ、本条さんにしか聞こえないんだろうけど。
「いえっ、もともとあるかもしれないという話でしたし。
それにこの部屋になくても別の部屋に置いているかもしれません。
万が一それも見つけられなくても、何日かすればクラスメイトのみんなが使えるようにプレートが設置されるはずですので、それまで待てば大丈夫ですよ」
本条さんが必死にフォローしてくれるが、やはり申し訳なく感じる。
ステータスについては〝邪神の呪い”なんていう不安な情報だけを与えて、肝心のステータスチェックについてはできるかもしれないという希望を与えてそれを裏切るという……。
「とっ、とりあえず、席に戻りましょう」
そう言った本条さんの言葉にしたがい、俺はトボトボと先ほどまで座っていた席まで戻っていった。
≪とりあえず部屋に行ってみる?≫
元の席に戻ってすぐに明石さんがそう提案してきた。
「そうですね。
プレートもなかったですし、平井先生たちが移動すると明かりがなくなってしまうかもしれませんし、何より部屋の確認も早いうちにしておいたほうがよさそうですね。
とりあえず、ベッドが2つある2人部屋ということしか聞いていないですから」
ベッドが2つか。
まあ、2人部屋であれば当たり前なんだろうが、俺も一緒の部屋にとなると誰かが床で寝るか、どちらかのベッドで2人が寝るという形になるだろう。
それを考えるとさっさと部屋の確認に向かって、今日の寝床を確保するのも悪くないかもしれない。
ステータスのチェックは早いうちにやっておきたいが、さすがに何が何でも今日中にやらなければいけないというものでもない。
≪今日は諦めて部屋に行こう≫
なので俺はノートにそう書き込む。
「そうですね、行きましょう。」
本条さんがそう答えるのを聞いて、俺は席を立つ。
2人の姿は見えないが同じように移動しようとしているだろう。
が、ふと考えてどの部屋に向かうかを決めていないことに気づいた。
「そういえば、どの部屋に向かうの?
女子側の部屋だとは思うんだけど」
既にノートは回収されているので口頭で本条さんに質問する。
この部屋に着いたときの説明だと、男子側は兵舎の南側の3階、女子側は兵舎の北側の3階に部屋が用意されるとのことだった。
さっきのことがあるのではぐれたら本条さんも声をかけてくれるとは思うが、先に確認しておく。
さすがに連続して迷子になるのは勘弁だ。
「女子側の3階です。
男子側も女子側もワンフロアすべてが私たち召喚勇者のために用意されているそうなので、そこで空き部屋を探します」
「そっか、ありがとう。
ごめんね、移動を止めちゃって」
「いいえ、こちらこそ先にはっきりと行き先を伝えるべきでした。
明石さんとは部屋割りのときに話をしていたんですけど」
……あぁ、俺がはぐれている間に話していたのか。
道理で明石さんも確認しないわけだ。
向かう先もはっきりしたので改めて移動しようかと思ったタイミングで廊下から足音が聞こえてきた。
部屋の中の人数が少なくなり、ちょうど会話も止まっていたこともあって、足音がよく響く。
どうすべきかと、なんとなく本条さんの声がしていたあたりに顔を向ける。
「ひとまず様子を見ましょう」
本条さんの提案に俺はうなずく。
ぶつかる心配もないのでそのまま入れ違いに出てもいいかな、なんてことを考えないでもなかったんだが、まあ、普通に様子を見るべきだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます