第4話 説明会
王様と宰相に連れられてやってきたのは大きな会議場、というか食堂のような部屋だった。
いくつもの長机が並べられ、クラスメイトのみんなはいくつかの机に分かれて座っている。
俺はみんなとは少し離れた席に腰掛ける。
残念ながらみんなには認識されていないようなので、余計な接触をして無駄に悲しくならないようにとの判断だ。
ついでに言うと、後ろからクラスメイトたち全体を視界に収めたいという思いもある。
「さて、皆席に着いたな。
これより、貴公らに現在の我が国、および周辺のヒト種の国々が置かれている状況を説明したい。
途中で疑問点や不明点などが出るかもしれんが、まずは一通り話を聞いてくれ。
疑問点や不明点についてはその後にまとめて受け付けるのでな」
そう前置きして語り始めた宰相の説明は、はっきり言って予想以上に悪いものだった。
まず、すでにヒト種の国の1つである獣人の国が魔王軍により滅ぼされている。
そして、魔王軍と今も戦火を交えている帝国はその南部のほとんどを占領され、今なおその前線を徐々に後退させているとのことだ。
そもそも魔王軍との戦争は、南から侵攻してくる魔王軍を帝国とその隣国の獣人の国の2国で協力して押しとどめ、それを他国が後方から支援するという形だった。
それが、西の獣人の国が滅ぼされたことで、帝国は南に加え、西からも侵攻を受けることになってしまった。
結果、いかに強大な帝国といえど魔王軍を押し返すようなことはできず、今も徐々に前線を後退させることで持ちこたえているという状況らしい。
で、そこに起死回生の一手として召喚されたのが俺たちとのことだ。
俺たちが召喚されたのは大陸の北に位置する王国で、帝国に次ぐ勢力を誇っているそうだ。
帝国よりも歴史のある国で、過去の勇者召喚も全てこの王国の手によって実施されてきたらしい。
大陸における位置関係を簡単に説明すると、魔王軍の本拠地が大陸の南にあり、帝国が大陸の中央、その西に獣人の国があり、大陸の北に王国がある。
山脈やら森やらがあるおかげで、魔王軍からの侵攻を受けているのは帝国と獣人の国の2国だけらしい。
召喚された王国をはじめとする他の国々は、間に帝国と獣人の国があるために比較的安全とのことだ。
といっても、すでに獣人の国が落ちている以上、どこまで安全なのかは不明だが。
それはともかく、その地理的な優位のため、昔から帝国ではなく王国が大陸にある国々の盟主的な立ち位置になっているらしい。
まあ、過去には安全地帯にある優位性から周辺国に無茶な要求をするなど横暴な態度をとった馬鹿もいたらしいが、帝国をはじめとした各国が力をつけたこともあり現時点では友好的に共闘関係が築けているらしい。
何となく、周辺国が力をつけているならこの機に弱体化をなんてことを考えそうなものだと思いもしたが、すでに1国が落ちている以上そんな余裕はないのだろう。
正直そんな面倒事には巻き込まれたくないので、やるなら俺たちが帰ってからゆっくりやってほしいものだ。
考えが脇に逸れた。
とにかく、王国というか、大陸の国々としてはまだ余力が残っているうちに勇者を加えた戦力で魔王軍を押し返し、この戦争を終わらせたいのだろう。
戦況の説明が終わると、次は今後の大まかな予定についての説明があった。
当たり前と言えば当たり前なんだが、王国としてもいきなり俺たちを実戦に投入するなんてことはしないらしい。
ひとまず、明日から1週間はこの世界に慣れるための準備期間とするそうだ。
この世界には魔法もあるようだし、元の世界とは色々と異なることが多いのだろう。
文明的な発展度は、召喚の儀式の広間と通路、そしてこの部屋しか見ていないので何とも言えないが、王様や宰相、兵士たちの格好を見る限りではお約束通り中世あたりのように思える。
広間や通路の明かりには魔法道具的なものが使われていたのでそこからの推測は保留だ。
準備期間の1週間は、午前をこの世界についての勉強、午後を自由時間というのが基本スケジュールになるらしい。
正直、自由時間とか何をするんだよと思ったんだが、付き添いが付くことになるが街へ出ることも許可されるらしい。
加えて、城にあるという書庫への立ち入りも自由らしいし、希望するなら兵士たちの訓練に参加したり、魔法の訓練を受けることもできるらしい。
書庫に入れても文字を読めるのかよと思ったのだが、宰相曰く創造神の加護によって会話はもちろん読み書きも完璧なんだそうだ。
……ところで、邪神に呪われていても大丈夫なんだろうか。
いや、宰相の言葉も理解できているし、きっと大丈夫だろう。
…………大丈夫であってくれ。
準備期間が終わると体力強化などの基礎訓練を始めるらしい。
これは配属の希望にかかわらず、全員参加らしい。
どうやらこの世界には魔王軍以外にも普通に魔物などの危険が身近にあるらしく、戦場に出ない一般人であってもある程度の戦闘能力は必須らしい。
まあ、街から出ないのであればなくても大丈夫らしいが、勇者であれば成長も早いらしいので戦場に出ないにしても鍛えておいて損はないだろうとのことだ。
この基礎訓練が2週間続き、そこで晴れて配属先へ配属ということになるらしい。
どう考えても2週間は短いと思うのだが、勇者であれば2週間で一般兵以上のステータスへ成長できるらしい。
もしそこまでの成長がないのであれば、才能がないので諦めろとのことだ。
要は、善意で鍛えるみたいなことを言いつつ、戦闘向きか後方支援向きかを判断するためのものでもあるんだろう。
まあ受ける側にも損はないと思うので、別に問題ないとは思うが。
で、基礎訓練が終わればそれぞれが配属先へと振り分けられる。
一応は希望に沿った配属先にするとのことだがどうなんだろうか?
どう考えても、適性が“勇者”の西野なんかは前線一択のように思えるんだが。
かといって戦う覚悟のない奴が前線に出ても周りの足を引っ張るだけに思えるし、まあその辺は専門家である軍の人たちが良い感じにするんだろう。
実際に配属先に移って以降は、当然だが配属先ごとにやることが違うらしい。
前線に配属される場合はより実践的な訓練を、後方支援に配属される場合は物資の扱いを学んだりするとのことだ。
場合によっては、すぐさま実戦に投入されることもあるらしいが。
そこまで説明されたところで、宰相からの説明は終了となった。
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