第163話 追撃

「ツヴァイ!!」


 マールの前には、肩から片腕を失ったツヴァイが、敵に対して立ちはだかる様に立っていた。


「マールさま! 早く! シールドの内側に!!」


 マールは頷くと、素早く転がる様に赤ちゃん転生者が展開するシールドの内側へと滑り込む。


「マール! 無事だったのね!」


トーカがマールに駆け寄る。


「わ、私は無事です! しかし、ツヴァイが…」


「ツヴァイはゴーレムよ、修理すれば治るわ、でも人間の貴方は出来ないのよ」


セクレタが冷静にマールを諭し、それに対してマールも目で頷く。


「それより、カオリさんは!? カオリさんは無事なんですか?」


「カオリは一応無事よ… カオリの執事ゴーレムのセバスが身を挺して守ったから…」


 セクレタがそう言って、視線を移動させる。その先にはトーヤと並べられてカオリが寝かされていた。


「カオリさん!!」


マールはカオリに駆け寄り、その顔を覗き込む。


「マ、マールはん… 無事やったんや… 良かった…」


カオリは付き添うマールに気が付いて、たどたどしく口を開く。


「私は無事です! それより、カオリさんの方が…」


マールは涙を滲ませて、カオリの手を強く握りしめる。


「マ、マールはん…うちも…大丈夫やで…セバスが守ってくれたから… ちょっと、身体を打った痛みで、身体がよう動かせへんだけや…」


 カオリの言うように、確かにカオリの身体には外傷はない。しかし、かなりの痛みを堪えているように見えるので、内臓や頭には損傷があるのではないかとマールは心配になる。


「それより、うち…セバスに礼を言ってへん… セバスを見いひんかった?」


 マールは辺りを見渡す。しかし、セバスの姿はない。もしかして、木端微塵になってしまったのであろうか…


「ちくしょうぉぉぉぉ!!! 放しやがれぇ!!!」


 ふいにセントシーナの転生者の叫び声が響く。皆はその声にその男の方に向き直ると、セントシーナの転生者が黒い姿の者に後ろから羽交い絞めにされている。その黒い姿の者はセバスであった。


「セバス!!!」


 カオリはその姿を見て、痛みを堪えながら身体を起こして叫ぶ。セバスの姿はボロボロになっており、所々で内部の構造が露出していたり、切れた人工筋肉がうにうにと動いている所がある。一見してもかなりの損傷である。


「カオリお嬢様、短い間でありましたが、貴方に仕える日々は最高でございました」


セバスは転生者を締め上げながら、カオリに告げる。


「セバス! 何言うてるの!! そんな別れの言葉みたいな…」


カオリは自分の言葉にセバスの真意に気が付き、言葉尻が霞む。


「お前ぇぇ!!! 何、考えてんだよぉぉ!!!!」


転生者もセバスの真意に気付き、必死に拘束を解こうともがきながら叫ぶ。


「カオリお嬢様、おさらばでございます…」


「セバスゥゥ!!!!!!」


 カオリの言葉も掻き消す様に、眩しい閃光が辺りを真っ白に染め上げる。その眩しさに誰も二人を直視することは出来ず、目を瞑った。


そして、閃光が収まった後、再び目を開くと二人の姿は消えていた。






「あの閃光!! 館からじゃないか!!!」


 五人で円陣を組み、光の輪となって飛行する、マールの転生者が、館から眩しい閃光が輝くのを見て叫ぶ。


「ちくしょう!!! あいつ!! もう館に!!!」


「マールたんは!? カオリンやみんなは無事なのか!!!」


転生者達の背中にゾワリと悪寒が広がる。


「(そ…に…誰…い…か…?)」


その時、転生者の頭の中に直接、小さな声が聞こえる。


「なんだ!?」


「頭に直接、声が…」


「(そこに誰かいるか?)」


今度はハッキリと頭の中に声が聞こえた。


「お前、赤ん坊か?」


「(そうだ!)」


頭の中に聞こえる声、それは赤ちゃん転生者の声であった。


「今、俺たち五人いる!! 敵の転生者がここに向かっていったので、俺たちが追いかけてきたんだ!!」


「マールたんやカオリン、みんなは無事なのか!?」


「(あぁ、命に別状はない… 少々、ケガをしているがな)」


皆はその言葉に安堵して、胸を撫でおろす。


「(しかし、トーヤもカオリンも痛みで動けない、ツヴァイもマールたんを守る為に片腕を失った… そして、カオリンのセバスが敵の転生者を倒すため自爆した…)」


「では、あいつはもういないんだな? 治療の為にそこに行ったらいいか?」


トーヤとカオリが動けないと聞いて、治療することを提案する。


「(いや、ここはいい! 敵を追ってくれ!!)」


「どういう事だよ!? 敵はセバスの自爆で消えたんじゃないのか!?」


赤ん坊は倒したと思われた敵を追えと言ってくる。


「(奴はセバスの自爆の瞬間、ショートテレポートを使ったみたいだ。まだ、近くにいる!)」


「なん…だと!?」


「(いいか? 奴を必ず殺せ!! 今、カオリンはセバスを失って、わんわんと泣いている… 奴をこのまま生き延びさせれば、必ず復讐に来て、マールたんやカオリン、俺たちの大切な人々に災いをもたらす!! 必ず息の根を止めろ!!)」


ギリギリ…ガキッ!


「…分かった…必ず殺す…」


 転生者はそう答えた後、口からぺっと白いものを吐き出す。激しい怒りで歯ぎしりした時にかけた歯である。他の転生者も爪が食い込む程、拳を握りしめて怒りを堪えている。


「(俺たちの検知魔法では、西南西の方角に奴の反応がある! 頼んだぞ!!)」


「あぁ、久しぶりに切れちまったからな… 絶対に逃さねぇ!!!」


転生者は怒声をあげると、皆で意識を集中する。


「見つけた!!」


「あぁ、あれだな…」


「もう、飛べなくなってトボトボと歩いてやがる…」


転生者五人は最大限の憎しみと敵意を宿した瞳で西南西の方角を見る。


「じゃあ、最後の後始末と行こうか!!」


転生者五人は、再び光の輪となって、敵の転生者目掛けて飛翔する。




「ちくしょ… なんで俺が… なんで俺がこんな事になるんだよ…」


 セントシーナの転生者はボロボロになった身体を引きずる様にしながら歩く。セバスの自爆攻撃からショートテレポートの魔法で逃げたとはいっても、全くの無傷では無かった。


 とっさにシールドを展開したが、爆発の威力でシールドごと押しつぶされそうになっていたのだ。その為か、いくつかの骨が骨折までとは言わないが、ヒビが入っているのである。


 また、背中全体が叩きつけられたような圧力の為、内出血を起こし、青いペンキでもぶちまけたかのように青くなっている。


 その痛みの為か、怒りや屈辱の激しい感情はあっても叫び出す元気まではなかった。その転生者の頭上に光の輪が降臨し、眩しい閃光の後、男を取り囲むように五人の男が降り立つ。


「よう、兄弟… 色々やってくれたじゃねぇか…」


男は目を大きく見開いてその男たちを見る。それはマールの転生者達であった。



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