第162話 強襲

「なんや!! あの轟音は!!」


カオリが轟音に声を上げる。実際には轟音だけではなく、地響きも足元に響く。


「も、もしかしてここが攻撃されているの!?」


 トーカが悲鳴に近い声をあげる。それはただ単にここが攻撃されている事に悲鳴を上げているのではない。ここに敵が来るという事は、敵の迎撃に出発した転生者たちが破れた事を意味するのだ。


「そんなん… そんなん、嘘やろ…」


 カオリは愕然として言葉を漏らす。カオリが間接的に転生者たちが破れたと思い込んで呆然としている間にも、転移建屋近辺での爆音が続き、その地響きが鳴りやまない。


「カオリ嬢! ここはもう危険だ! 早く転移の準備を!」


トーヤはカオリに向かって叫び、腕を伸ばす。


 その瞬間、転移建屋に敵の魔法が直撃する。爆発の轟音と、外壁の崩れる音、そして瓦礫が巻き上げる土煙、直接身体に響く振動と衝撃波。建屋内にいたもの全て、何が起きたのが状況を把握することが出来なかった。


「見つけたぞ… 見つけたぞぉぉ!! ここに居やがったのかぁぁぁ!!!」


 外壁に開いた大穴を通して、外から聞いたことが無い声が響く。その声に皆が上を見上げる。転移建屋は屋根の一部と二階の壁に大穴が開いており、その向こう側に見知らぬ人物が魔法で浮遊している。


 その男は狂気に満ちた顔をしており、マールたちを見つけた事で、口元を大きくニヤリと歪ませる。


「な、何…あいつ…」


カオリが浮遊する男の姿を見て、言葉を漏らす。


「あいつはセントシーナの転生者よ!!! とても、邪悪で醜悪な人物だから気をつけて!!」


セクレタが浮遊する男を見て叫ぶ。


「なんだ? お前、俺の周りをちょろちょろしていた鳥かぁ? 最近、見かけねぇと思ったら、こんな所に居やがったのか… という事は俺の事を探っていた諜報員だったわけかぁ!!!」


男はセクレタをにらみつける。


「くっそ!! 見逃してやってたのによぉ!! 糞野郎がぁ!!! 鶏肉にしてくれるわぁ!!!」


男はセクレタに手を向け、怒りに任せて魔法を撃ち出す。


「危ない!! セクレタさん!」


 トーヤがとっさにセクレタの前に進み出て、シールドを展開する。しかし、敵の魔法はトーヤのシールドをいとも容易く撃ち破り、トーヤとセクレタごと吹き飛ばす。


「お兄様!!!」


「トーヤはん!! セクレタはん!!」


カオリとトーカは二人の元に駆け寄る。


「わ、私は大丈夫… それよりトーヤが!」


 セクレタは土埃で汚れた身体を起こすが、トーヤは息が詰まっているかの様に、口を開閉する。


「恐らく、胸を強く打っているわ! 肋骨が折れているかも!!」


「だ、大丈夫なん!?」


カオリが悲壮な顔で声をあげ、トーカが兄の名前を呼びながら必死にトーヤにしがみ付く。


「がはっ!」


トーヤは血の混じった息を吐くとなんとか呼吸を取り戻す。


「くっそ!!! どいつもこいつも… なんで俺様の一撃で死なねぇんだよ!!!」


 息を吹き返すトーヤ、汚れているが無傷のセクレタ。その二人の姿を見てセントシーナの転生者は癇癪を起こし、怒声をあげる。


「うぅ… 一体…何が…」


その時、今までの轟音や騒ぎで、深く眠っていたマールが意識を取り戻し始める。


「マールはん! 今、起きたらあかん!!」


起き上がろうとするマールを見て、カオリが叫ぶ。


「えっ? なんですか? カオリさん…」


 先ほどまで眠っていて、意識もハッキリしておらず、状況も分からないマールは身体を起こしてしまう。


「そうか… お前がマールという女か… という事は、お前がここの当主で、あいつらの主という事だな…」


 外壁の外からの男の聞き覚えのない声に、マールは呆然とした顔を声の方に向き直る。マールは呆然とした顔で男に向き直ったが、その男の尋常ならざる様相にすぐに顔を引き締める。


「わ、私はこの地の当主である、マール・ラピラ・アープです! 貴方は何者ですか!!!」


マールは長椅子から身体を降ろし、男に立ちはだかる様に向き直って、名乗りをあげる。



「へっ! やっぱり、お前があいつらの主かよ… 俺の名はマコト… セントシーナの王…いや、この世界の頂点に立つ男だ!!」


 男は恥ずかし気もなく、この世界の頂点に立つと言い放つ。自尊心と自己愛の大きさだけは世界の頂点に立つ発言であった。


「さて、お前を殺して、その首をもぎ取れば、俺の勝利だ… 後でその顔をぐちゃぐちゃにしてやるから覚悟しておけよぉぉ!!!」


 そう言って、男はマールに向けて力を貯め始める。その様にマールは逃げも隠れもせず、ただひたすらに男を睨みつける。


「あかん!! マールはん! 逃げて!!!」


 カオリがマールに向けて叫ぶ。しかし、その魔力の大きさからして、今から逃げ出しても逃げようのない大きさだ。


「死ねぇやぁぁぁぁ!!!!!!!」


男は罵声と共に怒りを込めた極太の魔法を撃ち出す。


「バブー!!」

「バブバブ!!!」


 その瞬間、赤ちゃん転生者たちが声をあげ、マールの前に魔法を展開する。その魔法は半透明の虹色をしており、赤ちゃん転生者達の数と同じ、十枚の花びらの様に展開し、男の極太の魔法を完全に受けきる。そして、両者の魔法が衝突する眩しい閃光が巻き起こり、辺りを白く染め上げる。


 そして、しばらくして、眩しい閃光が収まり、男の極太の魔法は消え去り、赤ちゃん転生者達の展開した、虹色のシールド魔法だけが残り、そのシールドの向こうに全く無事なマールの姿が見える。


「ちくしょうぉぉぉぉ!!! 一度ならぬ二度までも俺の魔法をとめやがってよぉぉぉぉ!!!!」


男は再び自慢の魔法が止められた事により、癇癪を起こして、狂ったように叫び始める。


「良かった… マールはんが無事で良かった…」


カオリはマールの無事な姿を見て、胸を撫でおろす。


「良くねぇ!!! うるせえんだよ!!! そこの女!!!」


男はカオリの言葉が癪に触って、八つ当たりでカオリに向かって魔法を打ち込む。


「カ、カオリさん!!!」


「カオリ様!!」


マールとカオリの執事ゴーレムのセバスの声をが響く。


 カオリがシールドを展開し、執事ゴーレムのセバスがその身を挺してカオリを庇うが、シールドは容易く撃ち破られ、セバスごとカオリが吹き飛ばされる。


「死ねぇ!! 死ねぇ!! 死ねぇぇぇぇ!!!!」


 マールには赤ちゃん転生者のシールドによって攻撃が通じないと知った男は、立て続けにカオリに向かって魔法を撃ち込む。


「バブ!」


赤ちゃん転生者はカオリの危機を知り、慌ててシールドをカオリの方に動かす。


「きゃはぁ! その時を待っていたぜ!!!」


シールドがカオリに展開された隙を見て、男はマールに向けて魔法を撃ち出す。


「マール!!!」


「マールちゃん!!!」


「バブッ!?」


トーカ、セクレタ、赤ちゃん転生者の声が響く。


ドテッ…


女性の肩からもげた、片腕が床に落ちる。


「ひぃっ! マ、マール!!」


トーカは青ざめた顔で小さく悲鳴をあげる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る