第117話 もう一つの顛末

※今回、人によっては非常に過激な内容が含まれます。ご注意下さい。


「で、トーヤからの情報はどうだったんだ?」


転生者の一人が訊ねる。


「あぁ、マールたんとカオリンを狙った奴らの事だな。釈放になったみたいだな」


「釈放? なんで釈放なんだ? 誘拐未遂だろ?」


釈放になったとこ言葉に別の転生者が声を荒げる。


「その誘拐未遂と言う事で、実際の被害が出ていないし、加害者の中にマールたんより上位の貴族がいたようで、その流れになったようだ」


「どこの世界でも、権力を持った腐った輩はいるんだな…」


転生者はケっと唾を吐く。


「では…我々が直接、手を出せねばならない様だな…」


「ちょっと、待ってくれ」


そこに一人の転生者が声を上げる。


「お前!、この前の昼間に帰って来た奴じゃないか? 今までずっと落ち込みながら黙り込んでいたのに…もう、いいのか?」


「あぁ、マールたんとカオリンが危ない目に遇ったというのに、引き籠っていたら、転生前と変らないじゃないか」


「でも、お前、まだ、心の傷が癒えてないんだろ?」


その言葉の通り、名乗り出た転生者の顔は痩せこけており、かなり憔悴していたように見える。


「そんな事は構わない…いや、この日の為に受けた傷だ…だから、この俺に任せてくれ!」


「分かった。そこまで言うならお前に任せよう。何か必要なものはあるか?」


痩せこけた転生者の熱意に押され、承諾する。


「そうだな、流石に一人では、奴ら二人を運ぶのは面倒だ。一人、付き合ってくれ」


「では、俺が付き合おう。で、どうすればいいんだ?」


別の転生者が同行を申し出る。


「トーヤの情報で奴らの居場所は分かっている。帝都に行って攫ってくる。その後、転移魔法陣で領地に戻り、とある場所にいく」


「分かった。トーカ嬢の時と同じ要領だな。でも、どうする?あの袋はお焚き上げしてしまったぞ」


「これを使ってくれ」


瘦せこけた転生者はそう言って、同行する転生者にお面を投げ渡す。


「こ、これは鬼娘の姉の方のお面じゃないか! しかも、これは手作り!?」


「そうだ、この日の為に作り上げたものだ」


瘦せこけた転生者はニヤリと笑いながら、自分もお面を被る。


「お前のは妹の方か… ふっ、お前とはいい酒が飲めそうだな…」


「あぁ、一緒に飲もう! いい酒場を知っている」


「お前ら二人! 転移魔法陣の準備が整ったぞ! さっさとのれ!」


二人は合図に従い、魔法陣の上にのって、帝都へと転移されていった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ここはとある貴族の館の地下室。貴族らしい高価な調度品がしつらえてあるが、薄暗い部屋で、その辺りに空になった酒瓶が転がっており、散らかった部屋だ。


「あぁ~ちょーうぜー! あの芋娘が貴族の女だったとはな… 危うく捕まりかけたぜ」


金髪の男が、テーブルに足を置き、椅子で船を漕ぐように揺らしながら愚痴を漏らす。


「ほんと、やばかったよなぁ~ まぁ、お小遣い稼ぎの方まで足が付かなっただけ、マシだぜ」


銀髪の男が、相づちをとる。


「だよな、俺らが遊んでから外国に売り飛ばしている事までバレたら、さすがにもみ消すのは難しいな…」


「しかし、よぉ~ 親にヤンチャがバレたから、暫くは大人しくしてろって言われたけど、流石におもちゃの女がいねーと、暇だよな」


二人が部屋に転がる怪しげな道具を見ながら口にする。


「メイドも遊び過ぎたせいか、ババアばかりにされちまったからなぁ~」


「でも、この前の赤髪の女は残しておけばよかったなぁ~ 悲鳴の聞き心地がすげーよかった」


そう言って、金髪の男が笑い、つられて銀髪の男も笑う。


「ホントに、清々しいぐらいの外道だな…」


部屋の陰から男の姿が現れる。


「誰だ!お前は!」


貴族の男達はすぐに身構える。


「ドーモ、貴族のバカ息子の外道=サン。般若のレムです」


青髪の女の子のお面を被った男が、頭を下げて挨拶をする。


「同じく、般若のラムです」


桃色の髪の女の子のお面を被った男も、頭を下げて挨拶する。


「てめぇ! 何しにきやがった!」


そう言って、金髪の男が近くの棒を掴みとって構える。


「もちろん、貴方方を成敗しに参りました」


青髪のお面の男は、挨拶の返礼がないのを確認してからゆっくりと頭を上げる。


「外道死すべし、慈悲はない」


桃色のお面の男も頭をあげる。


「うるせぇ!やられっかよぉ!!」


貴族の男は、お面の男が丸腰だと分かって棒で殴りかかる。


「ディープスリープ!!」


しかし、それより前にお面の男の魔法が発動し、貴族の男達はすぐに眠って崩れ落ちる。


「貴族と言えど、クソガキならこんなものか」


「では、袋に詰めてさっさと立ち去ろうか」


お面の男達は、貴族の男達を袋に詰めるとすぐにその場を立ち去った。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「おぉ、帰ったか二人とも、首尾は…上々の様だな」


転移魔法陣の上に現れた二人に、待っていた転生者が声をかける。


「トーヤ基準で考えていたが、ちょろかったな」


「あぁ、貴族の子弟と言えど、鍛えていない人間など容易いものだ」


誘拐に行っていた二人が感想を述べる。


「で、これからどうするんだ?」


「ガビアの街に行って、とある人物に任せる…」


「他人に任せるって… そんなので大丈夫か?」


やつれた転生者の言葉に片眉を上げる。


「あぁ、大丈夫だ。おそらく死ぬよりも恐ろしい事になるだろう…」


やつれた転生者は不気味な笑みを浮かべる。


「わかった。お前に任せる。では行ってこい!」


「あぁ、行って来る」


そう言うと二人はガビアへと駆け出していった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「おい、一体どこへ向かっているんだ?」


 怪しげな店が建ち並ぶ街並みを、先に進むやつれた転生者の背に、同行している転生者が声をかける。


「ん? もう着いたぞ。ここだ」


そう言って、やつれた転生者は立ち止まり、一つの酒場を見上げる。


「ここって…なんだ? マッスルガール?ただの酒場にしか見えんが…」


「中に入れば分かる…ついてこい」


そう言って、やつれた転生者は店の中に進み、同行している転生者も後に続く。

店の中は至って普通の酒場に見えるが、薄暗くてちょっとお洒落な感じがする。

ただ、ウエイトレスが、筋肉質の女装した男である事を除けば…


「ベティーはいるか?」


やつれた転生者がピッチピチのドレスを着た、筋肉質の店員にたずねる。


「カウンターの奥にいるわよ」


筋肉質の店員は顎でカウンターの方を促す。


「分かった」


やつれた転生者は、教えられたカウンターへ向かい、そこにいる青髭の残る店員に話しかける。


「ベティー」


 やつれた転生者に声をかけられた、青髭の店員はキセルの様なタバコを吸いながら、チラリとやつれた転生者を見る。


「あら、貴方、この前のノンケじゃないの。なに?この前ので目覚めちゃったの…って訳でもなさそうね…」


青髭の店員はやつれた転生者が背負っている袋を見て、瞳を細める。


「この荷物の事をお願いしたいのだが」


「うちの店は揉め事はお断りよ。揉め事なら他にあたって頂戴」


青髭の店員は、拒否するようにやつれた転生者から、顔を背け、タバコの煙を吐き出す。

そこに、やつれた転生者が懐から一枚のコインを取り出し、カウンターの上に置く。


「これ! 皇室のコイン… 分かった。貴方、アンナちゃんの関係者ね…でも、直属って訳ではなさそうね…」


青髭の店員はコインを見て、目を丸くする。


「これでお願いできるか?」


「このコインを出されたからには、私達も引き下がれないわよ…で、今回のご注文は何かしら?」


青髭の店員はやつれた転生者に向き直り、上目遣いで見つめる。


「そうだな…組合員フルのガン掘りNG無し、ケツローズ咲き乱れで、妖精になるまでお願いできるか?」


やつれた転生者の言葉に、青髭の店員はニヤリと口元を歪める。


「うふふ、私たちって、公に出来る趣味でもないし、少数派で、ガタイがいい子ばかりだから相手を気遣って、なかなか、思う存分ヤルって事は出来ないのよね…」


青髭の店員はそう言うと、笑いを堪えているのか、小刻みに肩を震わす。


「だから…思う存分出来るとなると…そう、血が騒ぐわ!! おい! 野郎ども!! 今夜はノンケを思う存分やれるぞ!! 組合員フルのガン掘りNG無し、ケツローズ咲き乱れで、妖精になるまでOKだ!!」


青髭の店員は、店の店員たちに先程までの裏返った声ではなく、地の野太い声で叫ぶ。


「うひょー!私、一度でいいからノンケを壊れるまでヤッてみたかったのよねぇ~」

「私も妖精だから、今まで我慢してきたけど、今日は我慢しなくていいのねぇ!!!」

「うぉぉー! 今日のノンケはどんな花をさかせてくれるのかしら~」

「きやぁぁぁ!!! ベティーちゃん、素敵ぃぃぃ!!! では、店は閉めるわね」


 青髭の店員の言葉に、十数人に及ぶ、屈強な男…いや店員たちが集まってきて、それぞれの期待を胸に、それぞれの思いを口にする。


「いや、開けたままでいいわよ! 今日は飛び入り参加もばっちこいよ!!!」


男…いや店員たちが一斉に怒号をあげる。


「はしゃぐのは結構だが、酒場の本来の目的を果たしてくれないか? 持ち帰りで酒が欲しい」


「あら、今夜はサービスしとくから、好きなの持って行って」


袋を受け取った青髭の店員は、準備に忙しく、勝手にしろと言う。


「では、遠慮なく」


やつれた転生者は、二本の瓶を掴むと、そのまま何事もなかったかの様に、店の外へとすすみ、同行している転生者も狼狽えながらその後に続く。


「ほら、お前の分だ」


店からしばらく歩いた所で、やつれた転生者が同行している転生者に瓶の一本を投げて渡す。


「あぁ… ありがとう…」


「うめぇ… 身体に染み渡るぜ…」


やつれた転生者は蓋を開け、瓶の中身を一気に煽る。


「お、俺は、恐怖で味がしない… ってか、お前、あそこで何があったんだよ!」


一口のんだ同行している転生者は、やつれた転生者に問い詰める。


「…聞きたいのか?… 戻れなくなるぞ」


やつれた転生者はなんだか、物悲し気な顔をする。


「…いや、いい…俺にはそんな度胸はない」


やつれた転生者の言葉に、同行している転生者は目を伏せる。


「では、マールたんとカオリンのいる館に戻ろうか」





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