第114話 対策会議

「トーヤさんが転移室に現れたんですか!?」


私はカオリの言葉に驚く。


「そや! それで何でも頼みたい事があるらしいで!」


カオリの顔は強張っており、事態の緊急さを現している。


「分かりました。私も直ぐ行きます!」


私はカオリに伝え、携帯魔話に向き直る。


「トーカさん。トーヤさんがこちらに現れました。緊急事態の様なので一度切りますね」


「分かったわ。私も不安だけど、お兄様の事も心配だから、マールに任せるわ」


私はトーカの了承を得て、通話を切り、カオリに続いて転移室に向かう。


「で、トーヤさんの状態はどうなんですか?」


私は廊下を小走りに進みながら、カオリに訊ねる。


「傷とかそんなんは負ってへんけど、転移魔法陣を無理やり起動させたみたいやから、かなり消耗してるみたいやねん」


「えっ!? 転生者達が何人も掛かって動かす、魔法陣を一人で起動させたのですか? それは無茶過ぎますよ!」


「それだけ、急いどったんやろな…」


そう言ってカオリは心配なのか眉をしかめる。


こうして、私たちは本館から陸橋に出て、そこから転移魔法陣建屋に向かう。


「トーヤさんは無事ですか!?」


 私は建屋の扉を開け放ち、状況の分からないまま言い放つ。建屋の二階から下を見下ろすと、ほぼ全員と言える数の転生者が既に集まっており、その中でトーヤは椅子に座らされ、転生者達に介抱されている様だった。


「マール嬢…君も来てしまったのか… これからの話に君はいない方がよいと言うのに…」


 トーヤは私の存在に気が付いてそう告げる。私はトーヤの言葉と、周りの転生者達の集まりに、トーヤがこれから何をしようとしているか、大体察しがついた。


「私はここの転生者全員を保護して管理している責任者です! 彼らの言動については全て私に責任があります! なので、勝手に転生者達を使う事は許しません」


 私は階段を降りながらトーヤに告げる。そして、階段から降りて消耗しきっているトーヤに近づく。


「なので、ちゃんと私に話してください。トーカさんも憔悴しきって、いつもなら彼女を支えるトーヤさん、貴方もこの状況です。私も腹をくくりました。」


「転生者達が君の知らぬ所で勝手に事を起こして、それがバレても君への追及は、殆ど行くことがない。しかし、君が知っていたと言う事なら、責任は免れないのだよ… せっかく、転生者達が了承してくれたと言うのに…」


トーヤの話からすると、すでに転生者達に話はつけている様だ。


「いいえ駄目です。ここにいるものが誰一人として欠ける様な事は許しません。だって、みんな仲間で、家族ですよ? それなのに私だけが何も知らないなんて我慢出来ません!」


私はそう言ってトーヤに詰め寄る。トーヤは私の言葉に目を丸くした後、目を閉じてふっと笑う。


「君は思った以上に、芯の強い令嬢だったんですね…分かりました。出来る限り話しましょう」


そう言ってトーヤは語りだす。


「実は、明日の昼に、帝都でトーカの結婚式があるんだ」


「えっ!? 明日なんですか? 早すぎませんか!?」


私はトーヤの一声目で驚く。


「あぁ、トーカの気が変わらないうちに、さっさと結婚式という既成事実を作ろうと言う話らしい」


「折角のトーカさんの決意なのに、ご両親は信用なさっていないのですね…」


「あぁ、両親も余裕が無くて焦っているんだ。だから急いで予定を進めているようだ。でもね…」


トーヤが顔を曇らせる。


「心を決めていたはずのトーカが、今日の相手側との引き合わせで、異常に怯え始めたんだ」


トーカが言っていた、相手の親御さんの事だ。


「トーカは折角、死の運命から逃れられたと言うのに、このままでは心が死んでしまう…」


ん? 死の運命? あれは夢の話ではなかったのではないのかな?


「さすがに私でも今日の明日では時間が少なすぎる…なので、ここの転生者達に助けを求めにきたんだよ…」


「みなさんは、この話を聞いて了承したんですね?」


私はこの場にいる転生者全員に向かって訊ねる。


「あぁ、了承したよ」

「トーカ嬢は、俺達全員の妹みたいな存在だからな」

「なので、放っておくことなんて出来ないな」


転生者達がそう告げていく。


「では、皆さん了承と言う事でいいんですね?」


「あぁ、そうだ」


「分かりました。では、ここではなんですから、場所をいつも食堂にしている会議室に移して始めましょう。カオリさん、メイドに頼んで、皆に眠気覚ましの飲み物を準備するように伝えて貰えますか?」


「うん、分かった! うち、メイドに言うてくる!」


 カオリは声を弾ませて答える。一番トーカの身を案じていたカオリである。トーカが救えるのなら、どんな事でも乗り気だろう。


「トーヤさんももう少しだけ頑張って下さい。もっと詳細な事情が分からないと対処できませんから」


「あぁ、分かった。頑張るよ」


トーヤはふらつく足取りで立ち上がる。




こうして、私たち一同は、場所を会議室に変えて、対策会議を始める。


「なるほど、トーカさんの結婚と、支援の取り決めの詳細は以上ですね」


私たちは、会議室で、トーカの結婚についてと、それに伴う、相手貴族からの支援内容について、トーヤから聞き取る。


「あぁ、私も最初にトーカが騙されているのではないかと思い、契約書等は穴が開きそうなぐらい、読み込んだよ」


「分かりました。後は私達で対策を検討いたしますので、トーヤさんは部屋で休んでいてください」


私は青白い顔をして今にも倒れそうなトーヤに、休息するように促す。


「あぁ、私の妹の事なのに、悪いが休ませてもらう… 流石に限界だ…」


そう言って、トーヤはフェンに肩を貸されて、トーヤの自室になっていた部屋へ連れられて行く。


「じゃあ、ここの結婚の風習と、支援契約を踏まえての対策だな」


一人の転生者が声を上げる。


「そうですね。私もある程度の事は覚えていますが、うろ覚えや記憶違いがあると、全てが駄目になるので、習慣や法律の書物をお持ちします。あっ、ついでに会場周辺の地図も探してきますね。リーレン、手伝ってもらえますか?」


私はリーレンに声をかける。


「うちも手伝う!」


カオリも声を上げる。


 こうして私たちは日付が変わる深夜まで対策会議を行い、仮眠を少しとった後、早朝に帝都へ向かったのであった。



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