第109話 思わぬ人との相席

 私とカオリはカフェテリアに歩いていく。カフェテリアに近づいていくと、やはりお昼時なので混雑している様だ。私は店員を見つけると声を掛ける。


「二人ですけど、いけますか?」


私に声を掛けられた、若い女性店員は振り返り私たちに一礼する。


「はい、今丁度、一つテーブルが空いた所ですので、そちらに案内します」


私たちは店員に案内されて運よく四人掛けのテーブルに付くことが出来た。


「こちらがメニューになりますので、お決まりになられましたら、そこのベルでお呼び下さい」


 そう言って、店員は私たち二人に黒板のメニューを手渡して一礼し、厨房につながるカウンターの方へ戻っていく。


 私は渡された黒板の手書きメニューを眺める。どうやら、お昼はメニューを絞って出している様だ。恐らく忙しいお昼時に合わせた物だ。私はその中のメニューからお腹の好き具合に合わせて何にしようか考えていると、ふいにカオリが声をあげる。


「あっ…ここのメニューまでうちらの日本が浸食しとる…」


「あぁ、確かにメニューに焼きそばがありますね…」


カオリに言うようにメニューにカオリが日本食だと言った焼きそばの文字があった。


「堪忍やで…マールはん。うちらの同郷がこんな所まで浸食してて…」


「いや、たかがメニューの一つですし、私に謝られても仕方ありませんよ」


私は笑って答える。


「ははは、せやな。しかし、何食べようかな~ 懐かしの日本食もええし、帝都でしか食べられへん物にも惹かれるし…」


カオリがメニューを見て悩んでいると、ベルも鳴らしていないのに店員が近づいてくる。


「あの~ すみません。本日込み合っておりますので、相席をお願いしてもよろしいでしょうか?」


店員の近づいてきた理由は、相席のお願いであった。


「私はよろしいですが、カオリさんはどうですか?」


「あぁ、うちもええで、二人で四人掛け座ってるんやから仕方ない。うち、そっちにいってマールはんの隣に座るわ」


私がカオリに尋ねると快く承諾し、対面の席から私の隣に移ってくる。


「ありがとうございます! では、お待ちの方!こちらですよ~!」


 店員が私達に礼を述べて一礼し、後ろに振りかって声を上げる。すると、大きな人影が近づいてくる。


「うわぁ! ミノタウロスや!」


「はい、ミノタウロスですよ」


 大きな人影の正体を見て、驚きの声を上げるカオリに、人影の正体であるミノタウロスは紳士的に答える。


「あっ… 堪忍やで… うち、田舎もんで、見慣れてへんから声をあげてもうてん」


思わず声を上げてしまったカオリは、ミノタウロスにしおらしく詫びを入れる。


「いえいえ、よくある事ですから構いませんよ… よっこいしょっと…」


ミノタウロスはカオリの非礼を気にすることなく、小さな椅子に腰を掛ける。


「それより、貴方は転生者ですよね?」


腰を下ろし、店員から黒板のメニューを受け取ったミノタウロスは、カオリに向き直り訊ねる。


「えぇ!? うちが転生者やって分かるの?」


「はい、前にお会いした転生者も、貴方と似た顔つきで、同じような事を仰っていたので…まぁ、その後、武器を向けられましたが…」


ミノタウロスはそう言ってふふっと笑う。


「か、堪忍やで! うちの同郷のもんがそんな事をしでかして…」


カオリはミノタウロスに対して頭を下げる。


「頭は下げなくて結構ですよ。貴方がなさった事ではありませんし、私も無事、事なきを得ましたから。それに私も故郷を離れておりますから、珍しがられても仕方ありません」


本当に紳士的なミノタウロスである。


「それより、カオリさん。早く注文を決めてしまいましょうか」


「あぁ、せやな。しかし、ほんまどないしよう~悩むわ」


私の言葉に、カオリはメニューを見て再び悩み始める。


「では、日本食と帝都の特産を一つづつ頼んで、私とカオリさんとで半分づつにしましょうか?」


「それ、ええな、そうしよそうしよ! じゃあ、うちが選んでええ?」


「はい、いいですよ」


私の提案に、カオリが目を輝かせて喜ぶので、私はカオリに注文を任せる。


「おおきに! ほな注文するけど、ミノタウロスはんも決まった?」


 カオリがミノタウロスにも声を掛けると、ミノタウロスはコクリと頷く。カオリはそれを確かめると、テーブルのベルを店員に向かって振る。すると、すぐさまメモ書きを持って店員がこちらにやって来る。


「ご注文ですか?」


店員の言葉にミノタウロスはお先にどうぞと言わんばかりにカオリに手を差し伸べる。


「じゃあ、うちらは焼きそばに、この海鮮フライの盛り合わせって奴、飲み物は冷たいお茶二つで」


 カオリに任せたのは私であるが、焼きそばは兎に角、昼間から海鮮フライの盛り合わせは重そうだ…というかキツイ。


「ミノタウロスはんは?」


自分の希望通りの注文が出来たカオリは、にこやかな顔でミノタウロスに向き直る。


「私は、パンと野菜サラダ大盛に、野菜ジュースで」


「えっ? パンと野菜だけでええの? 肉とか食べへんの?」


カオリはミノタウロスの注文に、彼の筋肉質の体つきを見ながら驚きの声を上げる。


「えっ!? 貴方達の世界の牛族は肉食なんですか?」


ミノタウロスの方もカオリの言葉に驚きの声を上げる。


「…いや…ちゃうけど…」


カオリは何か考え込んだ後、ポツリと述べる。


「あー驚いた、 草食の我々が、別の世界では肉食かとおもいましたよ」


 ミノタウロスはそう言って笑い声をあげる。店員はその私たちの様子を見て、注文が終わったと思い、厨房へ注文を通しに行く。


「せやけど、ミノタウロスはん、そないな大きな体で、野菜サラダで持つの?」


ミノタウロスの笑いに、カオリは好奇心を前面に訊ねる。


「あぁ、そこですね… さすがに外食で牧草とか注文できませんから、普通の食べられるものを注文してますね。お金が掛かりますから小腹が満たされる程度にですが。だから、自宅では牧草をお腹一杯に食べてます」


ミノタウロスはカオリの問いにすらすらと答える。


「あぁ~食費押さえる為に我慢してるんかぁ~ どこの世界も世知辛いんやなぁ~」


「そうですね… 牧草は元々そんなにしませんが、やはり都会だと品薄なので高くなりますね」


そう言って、二人ではははと笑い合う。


 そんな風にカオリとミノタウロスは二人で文化の違いや似ている所をお互いに話し合って、会話が盛り上がっていた。そしてそんな会話を続けているうちに注文の品が届く。


「ほら! マールはん!焼きそばやで! 海鮮フライやで!」


 カオリは念願の品が届いて大喜びであるが、私は思ったより、焼きそばも海鮮フライも盛りが多くて驚く。


「で、では取り皿に少しづつとって頂きましょうか」


 私は最初から分けると食べきれない量がくるので、取り皿に食べる分だけとる事を提案する。


「おいしい! この焼きそばのソース! こっちの世界のもんつこてるのに頑張っとるなぁ~!! こっちの海鮮フライは… うわぁ~!! 貝なんてめっちゃ久しぶりや~! ほんま涙がでてくるわ~」


 そんな調子で、カオリはやきそばと海鮮フライの昼食を楽しんだ。こんなに喜ぶのなら、今後、海産物の購入も検討しようと考えた。


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