第107話 他になかったのですか?

「ふむ、中々良い物が買えましたね」


 私は両手に持つ二つのカメオを掲げて眺める。一つは初代聖女のカメオで、もう一つは百日草のカメオだ。中々良い出来である。時間の余裕がある時は、また足を運んでみるのも悪くはない。


「マールはんも買い物終わった?」


カメオを眺めている私にカオリが声をかけてくる。


「お待たせしました。カオリさん」


 私は視線をカメオからカオリに移し、カメオを懐にしまう。カオリに視線を移すと、手に何か持っている。私がカメオに熱中している間にカオリも買い物をしたようだ。


「カオリさんも何か買い物をしたのですか?」


「せやねん。ちょっと衝動買いしてしもたわ」


そう言ってカオリが私に差し出して見せたのは、手のひら大のパズルゲームだ。


「露店の店番の子が、カチカチやってる所を見てたんやけど、なんか凄い下手くそで、『もう見てられへん!うちに貸してみぃ!』ってノリで買うてもてん」


「あぁ、カオリさんもこれ、買っちゃったんですか…」


私はよく見慣れたパズルゲームを見てそう告げる。


「えぇ!? うちもって事はマールはんも持ってるの?」


「いえ、私は買っていませんが、学院時代に同級生たちが、カオリさんと同様に店番が下手くそにやっている所を見て、思わず買ってしまって、でも直ぐに飽きて、寮の談話室に山積みにされていたんです」


私は学院時代を思い出しながら、カオリに説明する。


「えぇぇ~ って事はうちもあの店番の子に乗せられて買うてもたんか…」


カオリは気落ちして、手の中にあるパズルゲームを眺める。


「ふふ、まぁ、暇つぶしぐらいにはなりますよ」


「まぁ、ええわ、マールはんはどんなん買うたん?」


私はカオリの言葉に懐にしまったカメオを取り出し、カオリに見せる。


「初代聖女のカメオと百日草のカメオです」


カオリは私の差し出したカメオを手に取り、私と同じように掲げながら眺める。


「へぇ~ 中々ええ出来やなぁ~ 花のカメオも可愛いし、聖女のカメオもええな」


「初代聖女は聖母でもあって、繁栄の象徴でもあるんです」


私は聖女についてカオリに説明する。


「えぇ? 聖女やのに聖母って、聖女が結婚して子供つくってもええの?」


「まぁ、その初代聖女が特例だったようですが、なんでも凄い子沢山で、私の地方の大領主、レグリアス家の礎となった方です」


 初代聖女は初代皇帝の子供を沢山産み、そのうちの一人が12公爵家の一つ、レグリアス公爵家となり、その部下であったアープ家の子孫がレグリアス公爵家の娘を娶り、本家のアープ伯爵家を起こした。分家の私の家から見てもご先祖様にあたるわけだ。


「私の遠いご先祖様にあたる方なんですよ」


私は付け加えてカオリに説明する。


「そうなんやぁ~ マールはんのご先祖様なんやぁ~」


「また、そのあたりの話はおいおいしていく事にして、今はトーカさん達がいる法務局に行きましょうか」


「せやな、行こか」


私の促しの言葉に、カオリはそう答えて、二人して露店街を後にして法務局へと向かった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「さて、着いたはええけど、どうする?」


法務局の大きな建物を見上げるカオリが、視線はそのままで私に訊ねる。


「とりあえず、中に入って考えましょうか」


私も建物を見上げたまま答える。


「せやな、そうしよか」


私たち二人は入口に視線を降ろし、中へと進んでいく。


 法務局の入口から中へ入ると、大広間になっており、中央に受付があってその前に待合の長椅子が並べられており、結構な人混みが見える。


「マールはん。前に来た時はどやったん?」


「前に来た時ですか? 前に来た時は爵位継承で来たのですが、いつの間にか私だけ、査問部に連れていかれたんですが…」


私は当時の事を思い出しながら答える。


「その査問部がどこか分かる?」


「そこまではちょっと自信がありませんね… 案内係にでも訊いてみましょうか?」


私は入口広間の奥にある受付へと視線を向ける。


「いや、それはあかんやろ。トーカはんの家の人が手を回しとったらバレるで」


「あぁ、そうでしたね。どうしましょうか?」


私ははははと笑って誤魔化す。


「マールはん、見て見て! あそこに案内掲示板があるで」


カオリが壁にある案内掲示板を指差す。


「ホントですね。丁度いいですね、見てみましょうか」


私とカオリの二人は案内掲示板に駆け寄って、覗き込む。


「多分、ここが前に来た時に案内された待合室ですね…」


私は掲示板の一画を指差す。


「そこから、私だけ呼ばれて、奥へと進んでいったのですが…」


私は当時を思い出しながら、掲示板を辿っていく。


「おそらく、このあたりではないかと…」


私はそう言って、掲示板に記された、建物の奥の一画をトントンと指し示す。


「結構、奥やな、早速行ってみるか」


「そうですね、行きましょうか」


私とカオリは二人、顔を見合わせて頷いた後、思い出した査問部の場所へと歩き始めた。


私とカオリが廊下を歩いていると、廊下の左手に扉が見えてくる。


「あそこが、前に来た時の待合室ですね」


私はカオリに指差しながら説明する。


「そして、私はその奥へと連れ出されて…」


そう言いながら、待合室を通り過ぎて、廊下の奥へと進む。


「ここを右に曲がって…」


廊下を奥まで進み右に曲がると三叉路にでる。


「そこは確か、左に曲がったと思うのですが…」


そう言って、三叉路を左に曲がると、男性の法務局の職員に出くわした。法務局の職員は私たちの姿を見つけると、少し怪訝な顔をして近づいてくる。


「すみませんが、ここから先は関係者以外立ち入り禁止ですが、何か御用で?」


私は突然の法務局職員の遭遇に、背中に冷や汗をかく。


「いや、ちょっと…」


「ごめんな、うちらちょっと、お花摘みたいから、付き添って探してる所やねん」


カオリが咄嗟に前に出て、誤魔化してくれる。


「お花摘み? …あぁ、なるほど… おトイレですね。それなら今来た道をまっすぐ戻ると左手にございますので、こちらに進むのはご遠慮願います」


そう言って職員は私たちが来た道を指差す。


「分かった。おおきにありがとなぁ~」


 カオリはそう言って職員に礼を告げると、耳まで真っ赤になった私の手をとって、先程来た道を戻っていく。


「カ、カオリさん、もうちょっと他に言い方なかったんですか?」


私は職員の姿が見えなくなってから、カオリに問いただす。


「えぇ~しゃーないやん、他の言い方やったら職員に怪しまれるで」


「それは、そうですが…」


さらっと言うカオリの正論に、私は言葉が詰まる。


「せやけど、この様子やったらトーカはんに会うのは難しそうやな…」


「そうですね…他の方法を考えないと駄目ですね…」


私は気を取り直して考える。


「せやったら、トーヤはんの方に行ってみるか」


「トーヤさんの方ですか?」


私はカオリに問い返した。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇


カオリが買ったアレはスマホのゲーム広告がモデルですw

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