第106話 カオリと帝都
いつもはカタカタと音を立てて揺れる当家の馬車も、この帝都の路面ではあまり音も立てず、揺れも少ない。
「やはり、帝都の路面はしっかり舗装されていますね」
私が対面に座るカオリに声をかける。
「うちはあんまり馬車のらへんから、よう分からんけど、マールはんの所も頑張ってんねやで」
カオリが返してくる。
「えっ? 私の所でも? そんな話ありましたっけ?」
「マールはんは、鉱山方面にいく事ないから知らへんけど、鉱山方面の道の舗装やってんのやで」
「あぁ、そう言えば昔、そんな事を言ってましたね… なんでも、製錬で出た残渣を使って舗装しているんでしたっけ?」
「そそ、もうかなり進んでいるらしいから、それが終わったら街の方向も舗装していくらしいで」
「それは助かりますね、雨の多い時期には、地面がぬかるんで轍をとられる人が多いそうですから」
カオリとそんな事を話し合っていると、帝都の連絡所が見えてくる。
「連絡所が見えてきましたね」
「ほんま? サツキちゃんとメイちゃんおるかな?」
「あっ、すみません、今日は転生者達を沢山連れてきているので、怖がる二人にはお休みを与えているので…」
「そうなん? それは残念やわぁ~」
カオリに話した様に、今日は設備設置の為の転生者を何人も連れてきている。先日話した、帝都と私の領地との遠距離魔話をする為の設備である。
そして、私達を乗せた馬車は連絡所前で停車し、転生者達や設備の材料や道具を乗せた馬車は荷下ろし場に向かう。
「よいしょっと、では、カオリさん行きましょうか?」
私は馬車の昇降台からぴょんと降りる。
「マールはん、ほんまにええの? 馬車使わんと歩きで」
「えぇ、一応警戒されるといけませんから、今日はその為に、服装まで変えて来たんですから」
私の今の服装は、普段の貴族の服装ではなく、都会の町娘の姿である。なので、その軽快さを確かめる為に、昇降台から飛び降りたが悪くない。
「それにカオリさんも警護について下さるのでしょ?」
「それはそうやけど…まぁ、ええか」
今日、私たちは、転生者達が連絡所に中継魔法波塔を建てている間に、帝都の法務局に向かい、トーカかトーヤに出会う為に来ている。ただ、普通に会いに行ったのであれば、避けられる可能性もあるので、一般人に変装しているのである。
「では、行きましょうか、カオリさん」
「そやね、いこか」
そう言って、私とカオリの二人は法務局に向けて歩き始める。私も今では当主になったので馬車による移動が多いが、学院にいた頃の学生の時には、稀にではあるが、歩いて移動していたので、こうして帝都を歩くのは懐かしく思える。
今日は、時間を決めて会うのでないし、特に急ぎでもないので、ぶらぶら見て回りながら行くのでも良いだろう。そう思うと一直線に行くのはなく、商店街や出店を見て回るのも悪くはない。
「そう言えばカオリさん」
「なんや?マールはん」
「先日の品評会の後は、どうなさっていたんですか?」
先日の品評会後の自由時間についてカオリに訊ねる。
「あぁ、あの日は会場をぐるっと回った後、みんなで近くの出店で買い食いしとったな」
「帝都の食べ物はいかがでした?」
私が何気なく尋ねるとカオリは少し難しい顔をする。
「いや、思った以上に転生者、しかも日本人がここにきとるんやなぁ~と思ったで」
「どういう事ですか?」
私は首を傾げて尋ねる。
「たこ焼きやら、焼きそばやら、お好み焼きとかがあってビックリしたわ。うち、日本にもどったんとちゃうかって」
「えっ?あれってカオリさんの世界の食べ物だったのですか?」
「そやで、他にも色々あるけど、出店の定番はあれやね」
もしかして、私たちの世界は人知れぬ間にカオリさんたち転生者達に侵略されているのではなかろうか… ちょっと心配になってくる。
そんな事を話していると出店や露店が並ぶ通りが見えてくる。
「カオリさん、ちょっとみていきますか?」
「ええな、前は会場の周りやったから食べ物屋ばっかしやったし」
カオリがそう答えると、私たち二人は露店通りに足を進める。帝都の露店通りは私の領地とは異なり、人ごみに溢れており、なんだかお祭り状態である。
「ガビアとは違って人も多いし、物も豊富やなぁ~」
カオリが周りを見渡しながら口にする。
「それは帝都ですから、人、物ともに色々なものが集まりますね」
「せやけど、うちが想像してた異世界の露店とはやっぱりちゃうな」
最初にカオリと話した時もそうであるが、カオリたち転生者は色々と私たちの世界について誤解している事が多い。
「どの様なものを想像していたのですか?」
「例えば、剣や武器たったり、魔物の素材やったり、異世界ならではの野菜や果物やったりかなぁ~」
カオリの説明には何か殺伐としたものを感じる…
「武器などの高価なものは露店ではあまりありませんし、魔物等の素材ついては、希少部位は専門店の取扱いになりますし、食べる部位などはここの露店ではなく、朝市の方になりますね」
「あぁ、なんやかんや言うても首都やから、雑多に露店をするのではなくて、ちゃんと別れてるって事やね」
そもそも、国の中心である首都に、一般向けに数多くの武器が売られていたり、人に害をなす魔物が売られていたりする状況はどうかとは思うが…
「あっ!?」
私はとある露店に目が留まり、声を漏らす。
「どないしたん?マールはん」
「いや、あそこの露店、カメオのブローチを取り揃えているのでちょっと見てきてもいいですか?」
私は店前に数々のカメオを並べる露店を指差して訊ねる。
「あぁ、マールはん、貴金属の装飾品は、ほとんど付けてないけど、カメオのブローチは色々つけてるしな。好きなんやろ?見に行こか」
「ありがとうございます!」
私は礼を述べるとカメオを売っている露店に駆け寄る。
「うわぁ~ 凄いですよ! カオリさん! 月毎の花シリーズや聖女シリーズ、動物シリーズもありますよ!」
「ほんまにマールはんはカメオ好きやなぁ~」
カオリはしげしげとカメオを眺める私に声をかける。
「えぇ、学生の頃、私のお小遣いで唯一買える装飾品ですからね」
私は学生の頃を思い出しながら答える。
「カメオって、安いの?」
「宝石やメノウで作られたブローチは高価ですが、貝殻からつくられるカメオは比較的に安価なんですよ。特に新人職人のカメオはお買い得ですね」
カオリに説明したように、カメオはメノウや大理石で作られる物もあるが、露店に並ぶものは、漁師から仕入れた分厚い殻の貝を使って、新人職人が作って露店に並べる事が多い。なので、専門の装飾店に比べると安価な掘り出し物があったりもするのだ。
「せやったら、当主になった今のマールはんやったら、もっとええもん買えるんとちゃうの?」
「そ、それはそうなんですが… なんだか、高価なものは身が引けますね…」
確かに、学生の頃に比べると自由に使えるお金は多いが、まだまだ先が不安であるし、領地の利益と私の資産とを混同してはならない。
「そうかぁ… それはマールはんらしいてええな、せやったらゆっくり選んだらええで」
「ありがとうございます!」
私はカオリに礼を述べると、トーカの事は一時的に忘れてカメオに熱中した。
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