第105話 トーカとの連絡方法

「私の友達が永遠に戻らないって…」


私はアンナ様の手紙の内容を口に出して二人に伝えた。


「友達が戻らんって、あいつの事ちゃうよな… 昼間帰って来たらしいし」


カオリが何か思い出しながら口にする。


「えっ? なんですか?それ… 私、聞いてませんよ?」


私はカオリが口にする単語の数々に思い当たる節が無かったので、カオリに問い返す。


「うちもよう知らんけど、アンナはんが来た夜に、転生者の一人がガビアに買出し頼まれたらしいねん。ガビアやったら、行ってこいで2時間から3時間で行けるのに、その転生者、朝になっても帰ってこんと、昼過ぎになんか思いつめた顔して帰って来たらしいで、そっから何も語らんらしいわ」


「えっ? ガビアを往復2・3時間? 馬車で一日の距離ですよ?」


私の知らない所で色々あった様だが、ガビアまで2・3時間というカオリの常識に驚く。


「身体強化魔法つこたら、そんなもんやで、うちもたまに行くし」


私は改めて、カオリを含めた転生者達の異常さを実感する。


「ま、まぁ、その方は戻って来たのでいいですが、結局の所、アンナ様の仰る友達って…トーカさん達の事ですよね…」


転生者の事も少し気になるが、今はトーカ達の事が重要である。私は頭を切り替えた。


「せやな、マールはんも、トーカはんからなんの連絡もないん?」


「なんどか、連絡魔法陣を使って連絡をしているのですが、さっぱりです…」


 私も何度か連絡用魔法陣で連絡をしているが、一つも連絡が帰ってこなかった。その時は忙しいのであろうと考えていたが、アンナ様の手紙の後では、話が異なる。


「なんでやろなぁ~ トーカはん個人に送ってるなら妨害とかも考えられへんし」


「いえ、トーカさん個人には送っていませんよ。トーカさんの家宛てです… そうか、妨害されているって事もありますね…」


 自分の言葉にトーカの家族が、私たちとトーカが連絡する事を妨害している可能性を考える。でも、どうしてだろう? もしかして、法務局での仕事を捨てて私の所で働く事に反対しているのであろうか… それなら納得できる。


「あれ? 前にトーカはん自分の魔法陣もってへんかった?」


「あれは職務上、法務局の魔法陣でトーカさん個人の物ではありませんよ。だから、あの魔法陣の連絡先は知らないんです」


 帝都に行って暴落を知った時に使っていた物の事である。後からトーカさん本人の口から聞いた事だが、あれは法務局から借り受けた物で、私の行動に怪しい事があれば、報告する為の物であったらしい… って、その事を私に話してもいいのだろうか?


「ほな、手紙ももしかしたら、検閲されとるかも知れんな…」


 もし、私の所に再就職する事に家族が反対なら手紙もトーカの手に届かない可能性もある…しかし、何故だろう、何か違和感を感じる。私の所への再就職に反対なら、私との関係を切る為、連絡所の貸し出しもしないはず…再就職に反対であるのならば、行動がちぐはぐである。


「なんとかして、トーカさんと連絡をとる方法を考えないとダメですね…」


 私たちだけで、話をして考えていても結論はでない。ここは直接トーカに話をしないと駄目だ。トーカと話をして、トーカから真意を確かめないと…


「せやったら、この前の『携帯魔話』をつこたらどやろ?」


トーカとの接触方法を考える私に、カオリが提案を述べる。


「でも、あれって近距離しか使えないって言ってませんでした?」


 顎を引いて考え込んでいた私は、カオリに頭をあげて返す。カオリは私の言葉に、あっと気付き、しばし頭を捻り、そして顔をあげる。


「ちょっと、あれを開発した技術部の相談してみよか」 



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「携帯魔話で帝都まで繋がる様にならへん?」


工房にたどりついた私たちは、早速、開発者の所へ行き、カオリが開発者に訊ねる。


「なるよ」


担当の転生者はあっさりと答える。


「えぇ!? なるんやったら、なんで最初からせいへんの?」


担当の転生者の答えに、カオリは声をあげて問い返す。


「いやいや、声をあげるなよカオリン。ちゃんと理由があるんだ」


迫るカオリに、担当の転生者は少したじろぎながら答える。


「理由ってなんですか?」


担当転生者に迫るカオリに変って、私が訊ねる。


「あれは、お互いに魔法波が届く範囲なら、単体で稼働できるが遠距離だと届かないんだよ」


「なるほど、理屈はわかります」


私は担当転生者の説明に理解を示す。


「なので、魔法波の届かない距離なら、途中で中継装置を設置してやらないと駄目なんだ」


「あ~ うちらの世界にある電波塔みたいなもんか…」


カオリが自分の世界の物を思い出しながら言う。


「では、それを設置すれば帝都まで話が出来るんですね?」


「いやいや、多分無理だと思いますよ」


私の言葉に転生者は否定する。


「え? 先程は出来ると仰ったのになぜですか?」


「通常なら1キロ毎に設置しないと駄目だから…」


「1キロ毎ですか!?」


 その設置が街道沿いであろうが直線距離であろうが、帝都からここまでの距離を考えると物理的にも時間的にも金額的にも、到底不可能な数である。


「そこをなんとか、うまいことならへんの?」


カオリが訊ねる。


「いや、方法はあるんだけど…」


「どんな方法なのですか?」


ぽつりと答える担当転生者に私が訊ねる。


「無線みたいに出力をあげて、その上で指向性を持たせればなんとかなりそうだけど…」


「アマチュア無線みたいなもんか… ほなそれやったらできるんやね?」


再び、カオリが自分の世界の物を思い出しながら言う。


「こちらの基地局は、先日の風車を使えば直ぐだけど、帝都側に設置出来る場所あんの?」


「帝都内に連絡所を設置しましたので出来ますよ!」


私は担当転生者に迫って、強く主張する。


「なら、設計してみるから、少し時間と…そうだな帝都までの地図もらえる? 方向を調べないといけないから」


「分かりました。地図は後で届けさせますので、よろしくお願いしますね」


私はそう言って、担当転生者に頭を下げた。


「後はトーカはんに携帯魔話を渡さなあかんけど…」


カオリが困り顔して述べる。


「そちらの方が、設備の設置より難易度が高そうですね…」


 こうして、設備や道具の事は担当転生者に任せて、私たちはトーカに携帯魔話を渡す方法を考える事にした。


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