第103話 皇帝ゲーム

「諸君 皇帝である私は、幼女が好きだ 諸君 私は幼女が大好きだ…」


一人の男の発言に、皆が跪いて聞いている。


「色白が好きだ。ぺたんこが好きだ。金髪が好きだ 碧眼が好きだ ツンデレが好きだ」


 檀上の椅子に気だるげに座る男から繰り出される性癖を、臣下の男達は固唾を飲みながら聞いている。


「部屋の中で 更衣室で 浴場で トイレで ベッドで 様々な場所で行われる 幼女の行動が大好きだ」


「通学時のならんだ幼女の一斉挨拶が 微笑みと共に私のハートを吹き飛ばすのが好きだ」

「有頂天になった私が 通報でドタバタと逃げ回った時など心がおどる」

「工房でつくらせた88cm望遠鏡で 幼女を覗き見るのが好きだ」

「悲鳴をあげて私から逃げ惑う幼女を 後ろから抱きかかえる時など胸がすくような気持ちだった」


「諸君 私は幼女を 溢れんばかりの大量の幼女を望んでいる」

「諸君 私に付き従う帝国臣民諸君」

「君たちは一体 何を望んでいる?」


檀上に座る男に対して、ガガガガッと手を上げた臣下たちは口々に叫ぶ!


「幼女!!幼女!!幼女!!」


壇上の男は、臣下たちの反応を見る様に、少し間を置く。


「よろしい ならばハイエースだ」



「ちょっと、あなた達…何をやっているのよ…」


「あっ セクレタ様」


 狂乱に耽る男達に、声を掛けて現実に引き戻したのは、セクレタであった。


「ちょっと、貴方達は皇后陛下を警護する担当だったでしょ… それを何遊んでいるのよ」


温泉館の客室の前にある休憩所で、たむろっている4人の転生者達に注意した。


「いや、ちょっと暇だったもので、皇帝ゲームで、少佐ごっこを…」

「なんでしたら、セクレタ様も御一緒に皇帝ゲームどうですか?」

「皇帝にあたれば、俺達に何でも命令できますよ」


転生者達は筒に入れたくじをセクレタに見せつけて誘う。


「…止めておくわ… 一瞬、皇帝になって、貴方達に真面目に生きるよう命令しようかと思ったけど、逆になに命令されるか分からないから…」


セクレタは一瞬戸惑った後、きっぱりと断りを入れる。


「あらあら、面白そうな事をしているのね」


セクレタの後ろから声が掛かる。客室の方からである。


「ア、アンナちゃん…」


セクレタは振り返り、その人物の姿を見て声を漏らす。


「楽しそうなゲームだけど、なんて名前のゲームなの?」


ニコニコと笑顔を崩さないアンナが転生者達に近づいて訊ねる。


「こ、皇帝…ゲームです…」


一人の転生者が、アンナから顔を背けて、目を泳がせながら答える。


「あらら、王様ゲームみたいなものね、私も混ぜてもらえるかしら~」


アンナはにこにこして、目を細めながら転生者達と同じ座席に座る。


「ほら、セクレタちゃんも座って、一緒にやるわよ」


「いえ、わ、私は…」


セクレタは断わろうとするが、アンナは自分の隣の空いた座席をぽんぽんと叩く。

その様子を見ながら転生者達は小声で話す。


「わたしも混ざるって、貴方元々、皇后陛下じゃん…」

「さすがの俺達も、客人の皇后陛下にエロい事出来んしなぁ~」

「ここは、転生者同士のおしゃべり会と言う事にするか?」


「あぁ、そうそう!」


アンナはパンと手を叩いて注目を集める。


「私が相手だと気兼ねすると思うから、ゲーム自体には参加しないけど、私の代わりに私のメイド二人を対象にしていいわよ」


転生者達がその言葉に、アンナの後ろに控える二人のメイドに目をやる。


 美しく整った顔立ちに、野性的な魅力を備える瞳、光が流れるような銀髪に時折、ピクリと動く犬耳、スタイルもくるみの様な肉質があるタイプではなく、引き締まったスレンダーでありながら、ミューもロロもそれなりの質と大きさを備えている。その身体をくるみの様に煽情的なデザインでなく、露出は多めであるが、品のある整えられたメイド服で包まれている。


 ゴクリ…


「し、鎮まれ! 俺の右腕よ! 闇の力が活性化している!」

「今ここに、俺が生きてきた全ての運命力が、この指先に結集する!!」

「俺のターンだ!! フィールの力が俺に勝利をもたらす!!」


「うふふ、みんなやる気の様ね、でははじめましょうか」


やる気を見せる転生者達を見て、アンナが微笑む。


「「「皇帝、だーれだ!!」」」


皆が一斉に筒に入ったくじを引く。


皆はくじを自分の手元に引き寄せ、祈りながら結果の記された場所を見る。


「さぁ来い!さぁ来い!…って駄目か…」

「運命はまだ、力を蓄えろと言っているのか…」


そのように、残念な結果を口にする転生者とは対象に、歓喜の声をあげる人物がいた。


「きゃぁー!! アタリだわ! アタリ! 私、皇后だけど皇帝になっちゃったわ!」


 転生者達は、アタリを喜ぶアンナを見て安堵の息を漏らす。セクレタだと、何かお仕置きの命令がされるかも知れないが、アンナであれば無茶な命令はしないであろうと考えていた。


「では、皇帝の私は命令できるのよね…じゃあ四番!」


「はい!」


「明日、領内を自動車でドライブに出かけるつもりだから、自動車をピカピカに朝まで磨いてくれるかしら」


「はい! 朝までにピカピカにしておきます!」


転生者はおまかせあれと言った感じの顔をする。


「あらあら、言葉はちゃんと理解しないと駄目よ」


アンナはその内容では駄目だと意思表示する。


「はい?」


「私は『朝まで磨いて』と言ったの、『朝までに』じゃないわ…意味の違いは分かるでしょ?」


「は、はい…」


ようやく意味を理解する。


「じゃあ、直ぐに始めて!」


「はい…」


言われた転生者はトボトボと歩き始める。


「歩いちゃだめよ、走って!」


「サ、サーイエッサー!!」


アンナの命令に、転生者はやけくそになって走り出す。


その様子を見て、他の転生者達は自分たちの置かれた事態を把握する。


「…警護する俺達を労ったご褒美だと思っていたのに…」

「セクレタ様以外は大丈夫だと思っていたが…」

「やべぇ… ガチだ…ガチ勢だ…」


「さぁさぁ、次はじめるわよ~」


蒼ざめる転生者達とは対照的に、アンナはご機嫌な声をあげる。


「「「皇帝、だーれだ!!」」」


「きゃぁー!! また私だわ!!」


その言葉に転生者達は顔に影を落とす。


「では、次は3番の人! 朝風呂したいから、それまで風呂掃除お願いね」


「サ、サーイエッサー!!」


命令された転生者はすぐさま駆け出していく。


「さぁさぁ! つぎつぎ!」


「「「皇帝、だーれだ!!」」」


ゲームは続けられていく。


「きゃぁー!! また私! 私って、運がいいのよねぇ~ では2番」


そして、やはり、勝者はアンナになる。


「あっはい…」


「私、朝食で牡丹鍋食べたいのだけど、お願いね」


「牡丹鍋って…猪でしたよね… やべぇ…このあたりの猪って俺達が狩り尽くしたはず…」


「じゃあ、いってらっしゃーい」


アンナは笑顔で手を振る。


 残りの人数はアンナ、セクレタ、転生者の三人であるが、アンナがくじの入った筒をカシャカシャと振っているので、ゲームは終了にならないようだ。


「さぁーて、次行くわよ~」


「「「皇帝、だーれだ!!」」」


「きゃぁー!! また私! 私って運は凄く良いのよねぇ~」


他のメンバーははいそうですかと言った感じに顔を伏せる。


「では、次は1番の人」


「は、はい…」


最後の転生者がこっそりと手をあげる。


「あらら? 貴方は先程、皇帝役をしていた人よね…」


他の人手は、転生者の見分けは付きにくいが、アンナはちゃんと見分けられるようだ。


「それじゃあ、貴方にはお使いを頼もうかしら…ここの近くにガビアって街があるのはしってるわよね?」


「あそこの街って馬車で往復一日かかるんですが…」


転生者は卑屈な愛想笑いする。


「貴方、転生者でしょ?身体強化使えばすぐじゃない。私でも直ぐに『行ってこい』ぐらい出来るわよ」


転生者はアンナの言葉に目を泳がす。


「まぁいいわ、そのガビアの街の南西に『マッスルガール』って言う24時間営業の酒場があるんだけど、そこで飲み物を買ってきて欲しいのよ。はいこれ、お金よ。おつりはちゃんとお駄賃としてあげるから」


そう言って、アンナは金貨一枚を転生者に手渡す。


「そこの店に入って、カウンターの奥にベティーちゃんって人がいるから、『タチガン6本、テイクアウトで』って言えば分かるわ。では、行ってらっしゃい」


「サーイエッサー!」


 転生者はお金を握り締めて、すぐさま駆け出していき、その場にはアンナとセクレタの二人になった。


「馬鹿ね…いくら死んで転生者として転生できるぐらい運が良いっていっても、その上で皇后にまで昇りつめた私の運に勝てる訳がないじゃない」


 そういって、アンナはくじをぽいっと後ろに投げる。しばらく遅れてからカランカランと落ちる音が聞こえてくる。


「ようやく、二人になれたわね…セクレタちゃん…」


アンナは両手をテーブルに付き、その上に顔を載せてセクレタに向き直る。


「そ、そうね…」


セクレタは少し戸惑い気味に答える。


「私、セクレタちゃんに一杯聞きたい事があったのよ」


「な、なにかしら?」


セクレタもアンナに向き直る。


「時間なら朝まで一杯あるわよね…皇帝が幼女趣味みたいな事言っていたけど、一体どういう教育をしているか教えてくれるかしら?」


「あ…」




 次の朝。


「あれ?セクレタさん、顔色が悪いですけど、どうされました?」


「…マールちゃん…何でもないわ…何でも…」


 




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