第102話 皇后とメイド
「うふふ、ここは最高に面白いわね」
アンナは敷かれた布団の上を転がりながら言葉を口にする。
「左様でございますか、アンナ様」
人狼メイドのミューがお茶を啜りながら言う。
「私には何処が良いか分かりません。アンナ様」
人狼メイドのロロがお茶菓子を食べながら言う。
「例えば、あの転生者達…うふふ、思い出しただけでも笑ちゃうわ」
アンナは枕に顔を埋め、くすくすと笑う。しかし、ミューとロロは何処が可笑しいのか分からず、首を傾げる。
「今まで、何人もの同郷の転生者達と出会って来たけど、あんなに平然と嘘を着いた人達…『鬼は人の心の中にいる』って、ありえそうな嘘は初めてよ…よくあんな嘘を言うわ…」
「そう、仰ると言う事は、アンナ様は結末を御存じなのですか?」
ロロはアンナに訊ねる。
「えぇ、知っているわよ」
アンナは顔を枕からロロに向ける。
「では、どうして訊ねられたのですか?」
「それは、何時、向こうから来たか調べる為よ」
そう言ってアンナは身を起こす。
「今回聞いた鬼の話だけではなく、色々な事を聞いてみて、その人がいつ死んで、いつ来たか調べるの。大抵の人は今回みたいに結末を知らない場合は、素直に知らないと答えるのだけど…ここの人達は…うふふ、思い出したらまた笑っちゃうわ」
アンナはまた、枕に顔を埋めて笑いだす。
「でも、その辺りの情報はセクレタ様より頂いているのでは?」
ロロが重ねてアンナに問いかける。その言葉にアンナは再びロロに視線を戻す。
「そっか、ロロはまだ最近来たばかりだったわね」
「はい、そうですアンナ様」
ロロはアンナに視線を移す。
「貴方の目から見て、セクレタちゃんはどの様な人物に見える?」
「私の目から見てですか… 論理的で理性的な方だとは思いますが…」
ロロは頭の中でセクレタの人物像を思い返す。
「そうね、普通はそう見えるわね… でも、セクレタちゃんはね…ああ見えて、信じられないぐらい情に熱く、物凄く情に脆い所があるのよ…」
「ちょっと、想像できませんね…それがどの様に関係するのですか?」
ロロはアンナの言葉に少し首を傾げる。
「もしかしたら、情に絆されて、偽の情報を流しているかも知れないでしょ?」
「…その時はどうなさるのですか?処分されるのですか?」
「いいえ、その逆、なんとか保護してあげるわ…だって、あのセクレタちゃんが情に絆されるぐらいだもの、よっぽどの理由よ」
想定とは異なるアンナの答えに、ロロは少し目を丸くする。
「あら?ロロ、驚いているみたいだけど、私にとっては、皇后だけど皇室の血を引いていない、私を警護する貴方達の方が驚きだわ」
アンナはぐるりと身体を回して仰向きになる。
「それは古の盟約ですので」
ミューが答える。
「古の盟約といっても、初代皇帝の時の話でしょ?貴方達が縛られる必要はないんじゃない?」
アンナは布団から、二人が飲み食いするテーブルにずりずりと近づいていく。
「確かに初代皇帝の話ですが、その盟約を交わした我らが始祖様はまだ、御存命なのです」
ミューはテーブルに近づいて来た、アンナにお茶を入れる。
「えっ?そうなの? あの人狼族以外には名を知られてはならない始祖様が?」
アンナは注いでもらったお茶をずずっと啜る。
「はい、我ら人狼族は全員、古の盟約に纏わる話を始祖様よりお話頂きます。あのお話を聞いて人狼族で涙を流さぬものなどいません」
ミューの話にロロは同意するようにコクコクと頷く。
「なるほど、そうだったのね…知らなかったわ…では、初代皇帝四天王の内、一人が死去されて、一人は行方不明、そして、貴方達の始祖様ともう一方が御存命なのね」
「皇后さまでも御存じなかったのですか?」
四天王を指折り数えるアンナにロロは訊ねる。
「皇帝だけに知らされる情報が沢山あるのよ…四天王の事もその一つかしら… まぁ、いいわ、それより自動車の方は問題ない? 何かされていないの?」
「えぇ、自動車からの反応は何もございませんので」
ロロは懐中時計の様なものを取り出して、確認しているが何も反応は無い様だ。
「あらあら、本当に見るだけで我慢しているのね… 意外とお行儀良いわね…あの転生者達」
アンナはテーブルの上のお茶請けのお菓子を一枚とり、パリッという音と共に口にする。
「警戒されているのでしょうかね?」
ミューは新しいお茶を注いでアンナに差し出す。
「どうなのでしょう? この部屋の外で色々話をしているみたいだから、ちょっと窺ってみましょうか?」
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