第100話 みんな、アポなしが好きなんですか!?
「先方はどの様に言っているんですか?」
私は建屋の二階から一階部分で状況が分からず、右往左往している転生者に問いただす。
「何でもいいから、転移させろっていってます! 転移したらわかるって!」
何だろう?かなり無茶な事を言ってますね… 向こうの転生者が混乱している? それとも、誰かに脅されているのか? 何か緊急事態という事もある。
「向こう側が、犯罪や誰かに脅されているかもしれない場合の対応方法はありますか?」
私はこう言った緊急事態に対する対策を立てていなかった事を後悔する。
「えぇ、一応、力場を発生させて、すぐに出てこれないようにする事はできます!そして、問題がある場合には、そのまま送り返す事も!」
あぁ、私なんかより、転生者達の方がよっぽど対応策を考えていてくれていたんですね。だから、問題は誰が決断して責任をとるかという事ですか。
「分かりました。私が許可しますので、皆さんは万が一に備えて、力場を発生させてください!」
私が皆にそう告げると、転生者達は自信を持って自分の作業に取り掛かり始める。
転生者達が所定の位置に着き、ヴォンという音と共に力場を発生させる。そして、転移の確認点灯が灯っていき、転移が実行される。
「えっ? うぉ! すげぇ!」
下の転生者達から感嘆の声が聞こえる。私も目を凝らして転移されたものを見定める。
「あれ? 馬車? でも馬がいない?」
私は上から見ていても、判断が着かないので連絡階段を使い一階に降りていく。そして、その馬車の全貌を見た時に背筋が凍る。
「ひっ!」
宝珠に聖剣に旭日! これ皇室紋!!
って事は…もしかして皇后陛下! うそ! えっ? もしかして、誰か打ち合わせに来ただけ? でも、それなら皇室紋は使えない… では、本当に皇后陛下!?
「直ぐに力場を解いてください!」
私は転生者達に大声で告げる。そして、唖然としながら馬車に向き直る。
私が息をするのも忘れて、その馬車を見ていると、扉が開き、中から銀髪のメイドが二人出てきて、やんごとなき方が降りる準備をする。
「うぉ! 猫耳? いや! 犬耳だ! 銀髪犬耳メイドだ!」
転生者の一人がメイドの姿を見てそう叫ぶ。銀髪の犬耳って…人狼族!!! 世に数多の亜人獣人がいるが、誇り高き古の人狼族がメイドとして使えるのは、たった一つの家系のみ…やはり、皇室専属の護衛メイドじゃないですか!!
そして、馬車の中から静々とした所作で、一人の女性が現れる。
「あら、マールちゃん、先日ぶりね」
やはり、アシロラ帝国皇后、アンナ陛下!
服装は先日あった時の普通の御夫人と言うかそれより、軽装の姿であるが、間違いなくアンナ皇后陛下だ!
「ごめんねマールちゃん。突然来ちゃって、でもお忍びの場合には、テロ対策の為に、予定を教えられない事になっているのよ」
いや、理由は理解できますが、突然、皇后陛下が来られる方が、迎える側としてはテロより驚きますよ。
そんな事は兎も角、私は皇后陛下に挨拶をしなくてはならない。私は膝を付き臣下の礼をとる。
「聖の剣と魔の宝玉を賜りし、日出る御代の天の皇巫女…華々しい帝都より、ようこそおいでくださいました。私、マール・ラピラ・アープがお待ちしておりました」
私は冷汗・脂汗を全身から吹き出しそうになりながら、必死に覚えた皇室の皇后陛下を迎える言葉を思い出しながら、こうべをさげた。
「あらあら、マールちゃん。頑張ったのね。でも、そんな凝り固まらないで、そうね…商談相手が来た時と同じように接してもらえるかしら? そうでないと、私の身分がばれてしまうから」
アンナ皇后陛下の優しい声が私にかかり、膝まづく私に手を差し伸べる。私はアンナ陛下に促されて立ち上がる。
「では、呼び方も先日と同じようにお願いね」
「わ、分かりました。ア、アンナ…様…」
私は前と同様に、緊張のあまり狼狽えて、舌を噛みそうになりながら答える。
「そう言えば、セクレタちゃんはどうしてるの?」
「セ、セクレタは今、事務をしておりますので…」
「あら、そうなの…まぁ、後で出会えるわね」
私とアンナ様が話している隙に、転生者達が騒ぎ始める。
「すげぇ~ これ、馬無しだぞ…」
「これって、おれらの世界の車を意識して、作ってあるよな…」
「動力はなんだろ? もしかして、内燃機関?」
「ちょ、ちょっと、皆さん! アンナ様の前ですよ!」
私は転生者達に注意の言葉を飛ばす。そこにアンナ様が転生者達の方へ進み出る。
「それ、凄いでしょ? 内燃機関じゃないけど、こちらの技術で再現した自動車よ」
転生者達は、アンナ様に向き直り、目を丸くする。
「やっぱ自動車! えっ? 自動車を知ってるって・・・」
転生者はアンナ様と自動車と呼ばれる馬車に視線を往復させる。
「も、もしかして、貴方も俺達と同じ転生者?」
転生者は確かめる様に訊ねる。
「そうよ、私も貴方達と同じ転生者よ」
「マジっすか?」
転生者は素っ頓狂な声をあげる。
「うんうん、マジマジ」
アンナ様は微笑みながら頷く。
「すげー、俺達以外の転生者を初めて見た!」
「やっぱいるんだなぁ~ ポテチやマヨネーズもあったし・・・」
「それそれ! 私が来た時には既にポテチもマヨもあったから驚いたわよ。でもマヨラー出来るような値段じゃなかったけど」
アンナ様と転生者達は、近所の知り合い同士が世間話するように話している。
「そうだそうだ! 少年チョウヤクの鬼殺しの剣って、読んでた?」
「読んでた読んでた! 俺、節子が大好き!」
向こうの世界の話らしく、私には全く分からない。
「私はずっと前にここに飛ばされたから、結末を知らないのよねぇ~ 知っていたら教えてもらえるかしら?」
どうやら向こうの世界の小説か何かかの話の様である。それの結末を教えて欲しいと、町娘のようにアンナ様が強請る。しかし、転生者達はすぐに答えるのではなく、小声で相談し始める。
「おい、お前、知ってる?」
「いや、アニメで見た分だけしか知らん」
「あれで人気出て、本買えなかったもんなぁ~」
「そもそも、結末が出る前に俺達も飛ばされたし…」
「でも、どうするよ、あんなに結末知りたそうにしてるぞ」
「どうするって… 期待されてるのに知らんとは言えんだろ…」
「だよな… では、適当に話を作るか…」
私とアンナ様に聞こえない声で相談した後、転生者はこちらに向き直る。
「え、えっと…その… 実は人の心に鬼は宿るって話で・・・」
「だから、人がいる限り、俺達の戦いはまだまだ続いていくって感じです…」
「せ、節子も火葬エンドは回避しました」
転生者達は目を泳がせながら説明する。
「へぇ~ そんな終わり方だったんだぁ…」
アンナ様は嬉しそうに目を細めながら答える。
「うふふ…ありがとう。お礼に、自動車が気になっている様だから、私がここにいる間は見てもいいわよ。でも、中をあけちゃ駄目だからねっ」
アンナ様は転生者たちにお茶目につげる。そして、私の方に向き直る。
「では、色々と案内をしてもらえるかしら?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
祝、100話
連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei
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