第98話 帝都の連絡所

「サツキ、メイ久しぶりですね。元気にしていましたか?」


 館を辞めた時に比べて、かなり元気を取り戻した二人の姿を見て、私は安堵の息をつきながら、二人に声をかける。


「マール様、こちらこそ不義理をしておきながら、又拾って頂けるなんて光栄です!」

「私も今度こそは頑張ります!」


私は意気込みの言葉を口にする二人に、胸が熱くなり、二人の肩に腕を回す。


「ありがとう…二人とも…今度は二人を守ってあげますからね…」


 二人を抱き締める時に、サツキの頭をチラリと見たが、頭髪のあの部分は無くなっている様だ。本当に良かった。


「では、二人とも馬車に乗ってもらえますか? 一度、館に向かいますが大丈夫です。カーテンを閉めて見えない様にしますし、直ぐにあの人達のいない別の場所に行きますから」


二人は笑顔で頷くと私と一緒に馬車に乗り込む。


 私は今、帝都の連絡所に在中してもらう、サツキとメイを迎えに来た所である。二人の父親であるタッツさんには、先に帝都に向かってもらい、今後帝都での生活に必要な必需品を揃えてもらっている。今日は先方のディアン家に挨拶する為、私も同行するのである。


「じゃあ、馬車を出してもらえますか?」


 私が御者に声を掛けると、馬車はカタカタと音を立てて進み始める。私はその馬車の中で二人の今までの生活を訊ねる。噂では色々と聞いていたが、本人から直接話を聞くと、色々と大変だったようだ。本当に私の館のせいで二人に苦労を掛けた事を改めて思い知る。


 そうこう話しているうちに館が見えてきたのでカーテンを閉める。私は二人に怖い思いをさせない為にカーテンを閉めたのであるが、逆にそれが二人を不安にさせる。


「あ、大丈夫ですよ。カーテンを閉めるのは少しの間ですから」


二人は私の言葉に目を丸くしてきょとんとする。


 外が見えない馬車の中で、振動と馬車の動きだけが外部の情報を得る方法である。私はその動きで、馬車が館の敷地に入り、転移魔法陣のある建屋に入った事が分かる。そして、一度馬車が止まる。そして、また再び動き出す。


 そろそろかな?


 私はそう思い、馬車の窓のカーテンをチラリと捲り、外の様子を窺う。うん、転移が終わり、帝都の近辺に来ている。そこで私はカーテンをさっと開け放ち、周りの景色が見える様にする。


「ほら、帝都の近くにきましたよ」


 二人は見慣れぬ風景に、驚きの顔をして、二人で身を寄せ合うように馬車の窓に張り付く。


「凄いです!マール様」

「一瞬でまったく違うところにでてきました!」


 私は二人の様子を見て、クスクスと笑う。思い返せば、私も初めて来た時に、同じようにしていたなと思い出す。


「2時間程で目的地になりますので、その間楽しんでください」


 そうして2時間の道中、代わるがわる移り行く景色に目を輝かせる二人を見守りながら馬車は進んでいった。そして、そうこうしている内に目的地と思われる場所に馬車は辿り着く。実は連絡所の場所に関しては執事のリソンに任せていたので、私も来るのは初めてである。


 その連絡所の表には馬車の到着に気が付いたのか、リソンと二人の父親のタッツさんの姿が見える。タッツさんはこちらに手を振っており、窓から顔を出している二人がそれに応えて手を振りかえしている。


「サツキ! メイ!」


「おとうさーん!」

「パパー!」


 微笑ましい。二人のこんな姿をもう一度見る事ができて、本当に良かった。馬車が止まると、二人は扉を開けて、父親の所へ駆け出していき、二人して父親に飛びつく。私は二人の父親の再会の様子を眺めながら、馬車から降りてゆっくりと近づく。


「お出迎え、ご苦労様でした」


私が声を掛けると、リソンとサツキとメイを抱えたタッツさんが挨拶して返す。


「ようこそおいで下さいました。マール様」


リソンが恭しく一礼して私を出迎える。


「お待ちしておりました!マール様!」


タッツさんが、サツキとメイを合わせた三人で一礼する。私はその一礼にうふふと答える。


「では、マール様。立ち話は程々にして、中で旅の疲れを癒すお茶にでもしましょうか」


リソンがそう申し出てくる。


「えぇ、分かりました。では案内してもらえますか?」


 私がそう答えると、リソンは建物の二階に上がる階段に進み始まる。私は二階に上がる前に、一度建物全体を見渡す。一階部分は大きく開け放たれており、荷馬車がそのまま入れるようになっており、奥の場所で、荷物の積み下ろしが出来るようになっていて、倉庫を兼用した作りになっている。今も様々な荷物が積まれているが、当家の荷物ではなく、場所を間借りさせて頂いているディアン家のものであろう。


 私は一階の様子を見終わると、リソンに続き二階へとあがる。二階は事務室になっているらしく、一階と比べたものものしさがない。リソンは廊下の奥へ進んでいき、扉の前で立ち止まる。その扉の前には当家の紋章を記した連絡所である看板が掛けられている。


 そして、リソンは扉を開け放ち私を中に招き入れる。中はこじんまりとした部屋で、小さな事務机とソファーなどの応接の場所。そのお茶を準備する場所があった。


 あれ?サツキたちの寝泊りする場所は?と一瞬考えたが、寝泊りする場所は他にあるのであろうと思い直す。


「使い勝手や、その他の準備はどうですか?」


私はソファーに腰かけ、リソンに訊ねる。


「はい、マール様。特に問題も無く、残りも滞りなく進んでおります。先日も注文を頂いた、他家の方々や商館にも、ここの場所について連絡をしておきました」


リソンが珍しくにっこりとして答える。


「タッツさんもここで暮らす整えはどうですか? 問題ないですか?」


私は、ここで暮らすことになるタッツさんに訊ねる。


「えぇ、大丈夫です。都会は物価が高い物だと思っていましたが、逆に安いぐらいで驚きました。品数も多くてびっくりです。部屋はここの裏手の場所にありますから、領地にいた時よりも仕事場に通うのが楽ですね」


タッツさんも笑顔で答える。


「それはいいですね。但し、ここは田舎の領地とは違って、人も多く、入り組んでいるので、慣れないうちはサツキとメイを一人で出さない様にお願いしますね。それと何かあれば、すぐに憲兵所にいくんですよ」


私は田舎と違って都会はそんなに安全では無い事を伝える。


「はい、分かりましたマール様。出来るだけ親子三人で出かける様にします」


「では、場所をお借りしているディアン家の事務所へ挨拶にいきましょうか?」


私がそう言うと、リソンとタッツが顔を曇らせる。


「それが、先方が急に都合がつかなくなったそうで…」


「えっ? それでは、今日、トーヤさんやトーカさんに会えないんですか?」


 そう、今日の目的は挨拶もあるが、品評会の日に別れたままのトーヤとトーカに出会う為に来たのである。だから、楽しみにしていたのにがっかりである。


「その代わりですが、手紙をお預かりしております」


そう言って、リソンは私に手紙を差し出した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る