第96話 帝都での…ピヨピヨ…報告と

 帝都から帰って来た私たちは、日を置いてから、館の者を集めて会議室にいた。


「え~っと、それではですね」


ピヨピヨ ピヨピヨ ピーヨ 


「これから、帝都での報告と…」


ピヨピヨ ピヨピヨ ピーヨピーヨ


「今後の方針に… ちょっと、セクレタさん…申し訳ございませんが静かにさせてもらえませんか?」


私は、先程からヒヨコの鳴き声が鳴りやまないセクレタさんにお願いする。


「みんな、静かにしてもらえるかしら?」


ピーヨピッ……


セクレタさんが一言言うと、ヒヨコの鳴き声が蓋を閉めた様に収まる。


「すごいなぁ~セクレタはん。それでご飯たべていけるで」


カオリがセクレタさんの様子に感心する。


「いや、私、そんな大道芸みたいな事をしなくても、ちゃんとした仕事があるから…」


「ははは、せやなぁ~」


そう言ってカオリが笑う。


 セクレタさんのヒヨコたちは昨日の帰りに孵化したのを皮切りに、あっと言う間に全ての卵が孵化していった。そして、今現在はもこもこスーツを脱いだ、セクレタさんの羽根の中に埋もれて過ごしている。時々、ぴょっこっと顔を出すのは可愛らしいが、あの数で鳴かれるとかなり煩い。


「せやけど、セクレタはん。あのもこもこスーツ、脱いでしもたんやなぁ~ 残念やわぁ~ なんか、うちらの世界のゴマ通りって番組のオオトリさんに似とって可愛かったのに…」


そうカオリが残念そうに言う。その言葉にセクレタさんの眉がピクリと動く。


「そのオオトリ…さんって、どんなのかしら…」


セクレタさんのあの責め苦を受けたものは全て静まり返る。


マズイですよ!カオリさん!


「えっと、ちょっと待ってな…」


カオリはそう言って、手元のメモ用紙に何やら描き始める。


「どや、可愛いやろ? セクレタはん」


 ぐっ!


 カオリに手には、もっさもっさしたセクレタさんの様な姿の鳥が描かれている。私は吹き出しそうになる口を手で覆う。


 なんで、最近、皆、私を笑わせに来るんですか!


 そう思いつつも、セクレタさんとカオリの二人に注目する。セクレタさんの責め苦が始まるのではないかと…


「あら、可愛いわね」


セクレタさんはそう言って微笑む。

 

 えっ? 許された? カオリさんは許されたの?


「せやろ~ 可愛いやろ~」


 どうやら、カオリは許されたようである。その様子に、私を含めた、息を飲んで見守っていた者たちは、安堵の息を吐く。


「えぇっと、では改めて… これから、帝都の報告と今後の方針について話し合いますね」


私は仕切り直して、会の目的を述べる。


「それでは、帝都での品評会の結果ですが、皆さんのお陰で、試供品が無くなる程、好評で、多くの注文を受ける事ができました。詳しい事はセクレタさんお願いできますか?」


私はセクレタさんに顔を向ける。


「えぇ、では、掻い摘んで説明するわね。大領主の方々が数件と、その他の貴族・商館から定期購入の注文を受けたわ。ざっと計算して…週30~40樽程ね。週に5~6回納品するとして、日産5~6樽だけど… 生産は大丈夫かしら?」


セクレタさんはそう言って、担当の転生者に視線を向ける。


「大丈夫です。日産はその倍でもいけますよ」


担当の転生者は余裕の顔で答える。


「分かったわ。詳細についてはまた後で詳しく話しましょう。次は…鶏肉ね… こちらは丸鶏換算で週350羽程の注文を受けているのだけど…大丈夫?」


セクレタさんは眉を曇らせて訊ねる。


「えぇっと、現状では週50~60羽が限度です… 増産に力を入れていますが、まぁ、鶏相手なので、直ぐに結果は得られませんね… 抱卵する個体が増えれば一羽あたり10羽ぐらい増やせるのですが…」


鶏肉担当の中年転生者が汗を拭きながら答える。


「…ちょっと…いや、かなり厳しいわね… どうする?マールちゃん」


セクレタさんが私に判断を訊ねてくる。


「そうですね…上位の方を優先するか、それとも、注文者全員に少しでも供給するかなら… 後者ですね。多くの方に、当家の鶏肉の良さを知ってもらいたいですし」


私はセクレタさんにそう告げる。


「分かったわマールちゃん。そういう段取りで進めていくわ」


セクレタさんはこくりと頷く。


「後、お願いしていたトーヤさんとトーカさんが、まだお戻りでは無いですが、帝都に連絡所を設ける件については連絡魔法で、承諾の知らせを受けました。なので、今度、そちらの設置についても、館からの人員と新たな人員を用意するつもりです。館の方からは執事のリソンと数名にお願いするつもりです。リソンは2・3日ですが、立ち上げと挨拶周りをお願いしますね」


私の言葉にリソンは分かりましたと短く答える。


「新たな人員って、誰か雇うの?」


カオリが訊いてくる。


「新たな人員は… サツキとメイとそのお父さんです…」


私は少し、声を押さえて答える。


「えぇ~そうなんや~ サツキちゃんとメイちゃん。又雇うんやぁ~」


カオリは明るい顔で言う。


そんな、カオリの明るい表情とは異なり、私は溜息をつき、眉をしかめる。


「えっと、説明不足だったり二人を擁護出来なかった私にも責任がありますが… 転生者の皆さんのせいで、二人は少し心を病んで、その上、周りに変な噂が広がってしまったので、次の仕事先が見つからなかったそうです。なので、少しでも罪滅ぼしと思い、ここから離れた帝都で仕事をしてもらう事としました…」


私の言葉に思い当たる節がある転生者達は、一斉に目を伏せる。自覚はあるようですね…


「いいですか! これから、商品を運んでもらう事になりますが、ぜぇぇぇぇったい!! 二人に手を出したら駄目ですよ!! それと、帝都行き担当の方には、いつぞやの絵の描いた袋を被ってもらいますから!」


私は立ち上がって、転生者達に向かって告げる。


「あの袋って… うちの心の古傷、抉らんといてくれる…」


カオリが目を伏せる。


「カオリさんには申し訳ございませんが、あの二人の心の傷はもっと深いので…なので、転生者の皆さんは、絶対に二人に顔を見せないでくださいね! お願いしますよ」


「「「はーい」」」


転生者達は元気よく答える。カオリと違って、転生者達は、あの袋を被る事に抵抗が無い様だ…


さて、ここまでは品評会の報告であるが、これからが問題である…なんとしたものか…



◇◆◇◆◇◆◇◆◇


連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei

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