第88話 ねんがんのクーラーをてにいれたぞ!

「マールたん、取り付け作業が終了しました」


作業をしていた転生者達が道具を片付け、私に向き直る。


「ありがとうございます。お疲れ様でした。これでここも涼しくなりますね」


私は、クーラーの取り付け工事をしてくれた転生者に礼を述べる。


「涼しくなるといっても、一気に涼しくなるのではなく、徐々にです。それに、温度を下げる以上に熱が加われば、やはり、涼しくなりません。なので、部屋の窓や扉は閉め切って、日当たりの良い場所は、出来れば遮光カーテンでもして下さい」


「わかりました」


 転生者は丁寧に説明してくれているが、私は早くクーラーを作動させたくて、内心、浮ついている。


「それでは、使用方法を説明します。こちらに来て下さい」


 転生者は天井にクーラーが設置されている下にある操作盤の所に、私を案内し、私は浮ついた足取りで付いていく。


「これが操作盤です。これを回すと温度、でこっちを回すと風量を操作できます」


 転生者がそれぞれメモリのついた取手を回すと、上のクーラーからふぉぉーと風を送る音が鳴り始める。


「動きましたよ! 動きました! あれ? ここじゃ風が来ない、こっちですか?いや、もっと後ろ… 来ました! 来ました! うわ! 本当に涼しいぃ~!」


 私がクーラーの風を受け、涼しそうにしていると、今まで様子を窺っていたセクレタさんとトーカも、私のいる場所へやって来る。


「あら、本当に涼しい」

「これはいいわね、汗が引いていくわ」


二人が私と並んで、目を閉じながら涼しい風を受けて、気持ちよさそうにする。


「ご堪能の所、申し訳ございませんが、まだ説明が残っているので戻ってきてもらえますか?」


 私達の姿を見て、笑っている転生者が声をかけてくる。ずっと、涼しい風にあたっていたいが、私達は転生者の所に進む。


「皆さん来ましたね。では説明します。上のゲージが現在、使用しているエネルギー量です。で、このゲージが現在、風車で作っているエネルギー量です」


現在、館の屋根の上にには三階建ての館より高い、巨大な風車が幾つも建っている。


「あの風車はこれの為に建てていたのね」

「でも、風車の力だけでは足りていないわ」


トーカとセクレタさんが使用エネルギーより、少ない風車エネルギーを見て言う。


「えぇ、何本も建ててますが、あれは別系統のクーラーに使うもので、ここは一本分のエネルギーしか来てません。だから、足りない分は下のゲージの赤魔から、補充しています」


「下のゲージですね。随分と多いようですが、その赤魔だけで十分賄えそうですね。なぜしないんですか? それにそもそも赤魔ってなんですか?」


 説明された赤魔のゲージは風車のゲージの何倍もあり、使用量から見ても数倍はありそうだ。


「赤魔ってのは、俺達、転生者の仲間の赤ん坊から、魔力を吸い出しているものです。だから、今はここ一機だけですから、賄えるだけです」


「えぇ!? そんな事をしているんですか? 大丈夫なんですか? 赤ん坊たちはそれでいいんですか?」


私は転生者の説明に驚きの声を上げる。


「本人たちは、幼児期に魔力を使う事で総魔力量が増えるからいいって言ってますね… でも、まぁ、枯渇して死んだら困るのでリミッターはかけてあります」


なんでも、赤ん坊の寝るベビーベッドの下に魔力吸収の魔法陣を設置しているらしい。


「ホント、凄い事を考え付くわね…」


セクレタさんは感嘆するというより呆れている。


「で、風も吹かず、赤魔も足りない時に使うのが、下のゲージです」


「あれ?全然ありませんよ?」


「はい、これは使用者に魔力を供給してもらって貯めて置くゲージです。下の玉の所に手を当てて力を込めて貰えば溜まっていきます。やってみますか?」


転生者に玉に魔力を込めるよう促され、言われるがまま玉に触れてみる。


「あれ? マールたん、結構、魔力持ってるね」


「そうですか? 自覚はありませんでしたけど… 母が貴方と同じ転生者だったからでしょうかね?」


「えぇぇ!! マールたんのママん、転生者だったの!?」


いつもは私が転生者に驚く立場であるが、今日は逆である。


「言ってませんでした? まぁ、そもそも、ある程度の魔力量が無いと、貴族の立場を維持する事はできませんから」


 今でこそ、貴族から政治的な権力は分離されているが、権威と権力が一緒だった時代、毒を使った暗殺や、魔法を使った精神支配を受けないようにする為、貴族はその対応策の魔法を常時展開していなくてはならなくなった。よって、常時展開出来ない者は貴族の立場を奪われ、出来る者だけがその立場を維持してきた歴史がある。 

 現在では、殆ど稀ではあるが、一定の魔力量を持たぬものは、親の爵位に関係なく、貴族の立場を剥奪されたり、降下させられたりするのある。


「意外だったなぁ~ じゃあもしかしてマールたんも日本人の血が流れているのかも知れんのか… まぁ、その事は今度ゆっくり聞くとして、俺達は次の所があるから、ここいらでお暇するよ」


「次の場所とは?」


「食堂になってる会議室だよ。ここより、広いから大変だと思う。では」


 そう言って、転生者達は執務室を後にする。私達はその姿を見送った後、各自、自分の席に座り仕事を始める。


「しかし、あれですね。どうせなら、私達が座る場所に、風が当たるように設置してくれればいいのに」


「そうね… 直接風が当たると書類が捲れて邪魔になるから、配慮してくれたのではないかしら?」


「それより、温度を保つ為に、厚手のカーテンを閉めているけど、ちょっと、手元が暗いわ…」


 私の付け加えた不満に、セクレタさんとトーカが言葉を返す。そうして、途中から勉強をしに来たラジルを加えて、仕事を続けていくが、お昼前になる頃には、随分と心地よく過ごすことが出来た。


 そして、昼食を食べる為に部屋を出ると、すぐに執務室と廊下の温度差を感じる。結構、違うものだと思いつつ、食堂の会議室に向かうと、会議室の設置工事はまだ途中らしく、全く冷えていなかった。

 そこで、みんなと食事を摂り、午後から稽古に向かうラジルと別れた後、執務室に戻る。


「うわ! すごい冷えてますね!」


部屋に入った途端、かなり涼しい冷気が身体を包み込む。


「外から戻ってくると、ありがたさがよく分かるわね」


「ほんと良いわね。実家にも欲しいぐらいだわ」


こうして、私達は快適な環境の中、午後の仕事も進めていく。


 そして、午後の仕事も終わり、今日は汗を掻いていないので、先に食堂に行くと、工事が終わっている様で、食堂の中も随分、涼しくなっていた。




 こうして、一日が進んでいくのだか…



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