第84話 リバースエンジニアリング

「女の子の胸はプリンと言うか、マシュマロと言うか… プリンプリンしていて、ふわふわしているはず… でも、この子のはカチコチだぞ!」


 抱き付かれた転生者の言葉に、ニヤニヤしていた他の転生者達は、冷や水をかけられたように真顔になり、抱き付かれた転生者の言葉を確かめる為、くるみの肩や腕を触りだす。


「ほ、ホントだ… 硬てぇ…」

「マジ陶器みたいな感触だぞ…」

「こんな硬いおっぱいなんて…」


「どういう事なんですか!! セクレタさん! くるみちゃんは人間じゃないんですか!!」


転生者たちはセクレタさんに向き直り、そう叫ぶ。


「そんな気が狂ったとしか思えないメイドが、人間である訳ないじゃない」


セクレタさんは今更何を言っているのという態度だ。


「そ、そんな…くるみちゃんが人間じゃないなんて…」

「あんなカチコチの身体じゃ…にゃんにゃん出来ないじゃないか…」

「よくもぼくらを……」

「よくもぼくらをォ!!だましたなァ!!」


転生者達は怒りに任せて絶叫をあげる。

セクレタさんは転生者達の言葉にムスッとして、眉を寄せる。


「騙したってなによ。貴方達、満足どころか最高ですって言ったでしょ? 私、言質とったわよね?」


「くっ!! それは…」


セクレタさんの反撃に、転生者達は決まりが悪く、顔を背ける。


「そもそもね、貴方達の要望全て満たす人間なんている訳ないじゃない。えっと、なんだっけ? 歳は13~4歳で、小柄でスイカみたいに胸は大きく、童顔の金髪、碧眼。それでいて、アメシャの様な猫獣人ではないのに猫耳あって、しっぽもある。それでなんだっけ?ミルクの様な甘い体臭するのだっけ?」


「ちょっ! ま、待って! セクレタさん!!」


ぺらぺらと転生者の要望を説明していくセクレタさんに、転生者達は狼狽える。


「それでいて、上目づかいで甘えてきて、お兄ちゃんって呼んでくれたり、パパって呼んでくれたりですって? まぁ、貴方達、パパって呼んでもらうのが好きなの~ 面白わねぇ~

それなのに、ママの様に甘やかしてくれて、膝枕してくれたり、赤ん坊の様に抱っこしながら食べ物をお口にあーんして欲しいって言っていたわね」


「セ、セクレタさん!! マジやめて! マジやめて下さい… マールたんがドン引きしてるから… アメシャもそんな汚物を見るような目で見ないで…」


転生者達は狼狽えるのを通り越して、泣き出しそうな顔になっていた。


「それに服装についても色々と注文を付けてくれたわね。メイド服をベースとして、首元から胸元まで大きく開いていて、胸が零れてポロリしそうなのがいいって言っていたわね。それに、首にはチョーカーか首輪の様なものを付けて欲しいって。あとスカートは下着が見えそうで見えない長さで、そのくせ、ニーソックスを膝の上まで上げていて、スカートとニーソックスの間で、太ももが煽情的に見えるのが良いって… まぁまぁ、随分と高尚なご趣味をお持ちだこと…」


「もう… 殺して… もう、殺してください…」

「我々が悪ぅございました…」

「何卒…何卒! お怒りをお鎮め下さい…」


 畳みかけるセクレタさんの言葉に、転生者全員、子猫の様に震えながら、平身低頭で、セクレタさんにひれ伏していた。


「まだまだ言いたい事はあるけど…マールちゃんの前だから許してあげるわ…」


セクレタさんは一先ず溜飲が降りて、鼻息をふんと鳴らす。


「ありがとうございます…セクレタ様… ホント、マジありがとうございます…」


 転生者達は頭を下げたまま礼を述べる。先程までの内容もかなりキツイ話ではあったが、私には聞かせられない、それ以上の要望があったようだ… ちょっと、それ恐ろしいんですけど…


「普通に考えれば、そんな人間いる訳ないでしょうに、逆にいたら怖いわよ…だから、仕方なく、帝都のお気に入りの魔術工房と、評判の腕の良い工芸家に依頼して作ってもらったのよ…私が注文する時にどれだけ恥ずかしかったか分かる? あぁ、あの書店に引き続き、あそこの工房にも、いけなくなっちゃったわ…」


セクレタさんの言葉に平身低頭していた転生者達は、ピクリと動く。


「…作ってもらった?」


「えぇ、そうよ。帝都の工房で最新・最高の技術を使って作らせた、メイドゴーレムよ」


転生者達は、頭を上げ、一斉にメイドのくるみの姿を見る。


「にゃにゃんっ! そんな、みんなに見られたら、くるみ、恥ずかしいにゃん☆」


 転生者達が、くるみの意を介さず、二の腕まで上がっている手袋や、ニーソックスを脱がしていく。


「そ、そんな! まだ、日は高いのに、皆の前でなんて… くるみ、御主人様の為なら我慢するにゃん… でも、少しだけ優しくして欲しいにゃん…」


私はくるみの言動に思わず、『うわぁ…』っと声を上げてしまう。


「ちょっと! マールたんに聞かれてる! マズい! 早く口を塞げ!」


そう言って、転生者は後ろからくるみの口を塞ぎ、絵面は更に酷くなっていく。


「うぉ! 球体関節だ… この子、マジ、ゴーレムだ…」


手袋を下ろしていた、転生者が呟く。


「膝も球体関節だ… すげえ…」


私も言われて見てみると、関節部分に薄っすらと筋というか節のような物があった。


「しかし…ホント、スゲーな。こういう場合ってさ、異世界の技術とか人とかがショボくてさ、転生者スゲー現代技術スゲーってなるのが普通だろ? でも、この子の技術、現代知識でも作れないんじゃね?」

「そうだよな、特に受け答えしている所を見ると、俺達の元の世界のAIとかでも無理だろ」

「体の部品、一つ一つとっても、これ、かなりの職人技だよ」


 くるみを取り囲む転生者の顔つきが、先程までの腑抜けた顔つきから、職人・技術者の真剣な顔つきへと変わっていく。


「これも… 転移魔法陣みたく、リバースエンジニアリングするか?」

「いやいや、これは流石に難しいだろ…」


「でもさ…ボディーをシリコン樹脂で作れるようになれば…」

 

転生者たちははっと息を飲み、考え込んでいた顔をあげる。


「それって… 全人類男性の夢である、動くラブド…」

「それ以上いけない」

「オリエントなんちゃらではなく、動く等身大シリコンフィギュアだ!!」


「ちょっと、盛り上がっている所、悪いんだけど、そのメイドゴーレム、壊しても修理したり、新しく買い直したりしないわよ… もう恥ずかしくて行けないから…」


セクレタさんがポツリと言う。


「くっ!!」

「どうする!? くるみちゃん、今のままでもスゲー良いんだけど…」

「確かに、もしも壊してしまったら、勿体なさ過ぎるよな…」


「でも、シリコンだぞ!!」


その転生者の声に皆が静まる。


「やっぱ…シリコンボディーは諦められないよな…」

「だな…ではやるか?」

「そうだな、まずシリコン作れるようにもならないといけないが…」


「セクレタさん…また、転移魔法陣の時のように、ゴーレムの技術本、買ってきてもらえませんか?」


 転生者の一人がセクレタさんの前に進み出て、頭を下げると、みなも揃って頭を下げ始める。セクレタさんはその様子に大きくため息をついて、私を見る。


「マールちゃん。どうする?」


「どうすると言われましても… そうですね… ゴーレムの事は分かりませんが、魔法陣以降、工房も使っていませんし、暴落の影響で、生産調整をして、人が余っていますから…本格的に工房を稼働していきましょうか」


「マールたん、マジでいいの?」


転生者が驚きの声をあげる。


「ええ、その代わり、定期的に私や、当家にとって有益な開発を提示して下さい。ちゃんと提示できるのであれば、それ以外の時間はゴーレムの研究をして頂いて結構ですから。それと、予算の方は私とセクレタさんでチェックしますからね」


こうして、本学的に魔術工房を運用していく事が決定された。



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