第83話 真・猫耳メイドの登場にゃん(ハート)

「やはり、何かもう一手、欲しいわね」


「セクレタさんもそう思われますか?」


執務室で、炭酸飲料の資料に二人で目を通しながら口にする。


「物珍しいから、試しに一つ買ってみるって売れ方なのよね…」


「そうですね…今はまだ、そんなに量産体制も整っていないからいいですけど、毎日出荷出来るぐらいに、売れてくれるといいですね…」


昨日、帝都に商品を詰めて、商談に出かけたのだが、今一手ごたえがない。


「まだ、始めたばかりだから、高望みしても仕方無いわね」


そこへ扉がノックされる。


「セクレタ様。荷物が届いております」


フェンの声だ。


「支払いと、荷物の引き取りがございますので、お願いできますか?」


その言葉に、セクレタさんは眉をしかめる。


「…あれが届いたのね…」



 暫くして後、支払いを済ませたセクレタさんと共に、台車に棺の様な箱が運び込まれてくる。


「セクレタさん。これは何ですか?」


 私はそう訊ねるが、セクレタさんは眉をしかめ、嫌そうな顔をしている。ふぅっと溜息を着いた後、棺の様な箱の蓋を取り外す。


「えっ!? 人? 女の子? えっ?」


 箱の中には女の子が入っていた。箱は棺の様な箱ではなく、本当に棺であったわけだ。しかし、中の女の子は生きているような感じはしない、もしかして、中の女の子も死体? それとも人形?


 セクレタさんが近づいて、額に触れると、ぱちりと瞳を開けて、起き上がる。その起き上がった全貌を見てみると、ベビーフェイスの顔立ちにクリクリとした潤みのある碧眼、細い髪質だが、ウェーブとボリュームのあるピンクブロンドの髪型。人と同じ耳もあるのだが、頭の上にも獣耳が何故だがある。背丈は10才のフェンより少し高い程度であるが、体つきは子供や少女の体型ではなく、女性らしいくびれを備えた体型をしており、白と黒を基調としたメイド服らしきものを来ているが、スカートは下着が見えそうなぐらい短く、首から胸元が大きく開けており、布一枚で零れそうな大きな胸を支えている。


 男性から見れば可愛いのかもしれないが、女性の私からすれば、かなり異様な存在に見える。


「えぇっと、この子は何なんですか?」


「…メイドよ…」


セクレタさんは、女の子を目を細めて、嫌悪感を出しながら見つめている。

女の子は、セクレタさんの声に反応し、身体をくねらせてながら発言する。


「あなたが、くるみの御主人様ですかにゃん? よろしくお願いしますにゃん☆」


女の子の痛い言葉に、執務室が静まり返った。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「この子はね、メイドが足りていなかった時に、転生者達に大量のお願い券を差し出されて、なんとか用意したものなのよ…」


 私達は今、このメイドを転生者たちに引き渡すため、豆腐寮に向かって、話しながら歩いている所である。


「私がお願い券を発行した以上、ちゃんと最後まで責任を持って探したのだけど… やれ、猫耳がいいだとか、小柄がいいとか、胸が大きい方がいいとか… もう色々変な注文ばかりで苦労したわ…」


「…はぁ… しかし、よく探し出せましたね…」


「普通に探しても無理だから、特殊な手段を使ったのよ…」


 特殊な手段って、誘拐?人買い? そう言えば工房って言っていたから、人体改造?

 私は、恐ろしい想像をしてしまう。


「ちょっと! 貴方! 私に纏わりつかないでくれる!」


 大人しく歩くのではなく、セクレタさんの周りをちょろちょろと纏わりついていたメイドに、セクレタさんは声を上げる。


「そんなぁ~ くるみはもっとご主人様と仲良くなりたいだけだにゃん… だから、そんな事言わないで欲しいにゃん。ご・主・人・様☆」


 メイドは瞳を潤ませながら、しっぽと身体をくねらせて、おねだりするように言う。


「セクレタさん… 私、ムズムズするというか、さぶイボが出てきたんですけど…」


「私もよ… 先程から全身、鳥肌がたっているわ… だから、早くあの人達に引き渡しましょう…」




 そういうと、私達は足早に豆腐寮へ向かう。本館から豆腐寮かかる陸橋を渡り、豆腐寮の2階の広間に入ると、ちょうど休憩中だったようで、多くの転生者たちがいて、入って来た私達に注目が集まる。


「ちょっと、いいかしら? 先日、貴方達が要望していたメイドだけど、この子を連れてきたわ。これで満足していただけるかしら?」


転生者達は、目を見開きながら虚ろにたちあがり、メイドの姿に視線を集中させる。


「さぁ、あの人達が貴方のご主人様達よ。しっかりご奉仕しなさい」


セクレタさんはそう言って、メイドの背中を押し、転生者達の前に進ませる。


「にゃーん☆ 素敵でカッコいいお兄様達がいっぱいにゃん☆ くるみ、胸はドキドキ☆ ハートはキュンキュンにゃん☆」


 くるみはくるりと回って、ウインクし、片足で立ちながら、両手で胸元にハートの形を作る。


「あ…あれは…一体何にゃ…」


後ろから声がするので振り返ると、たまたま掃除に来たアメシャがいた。


「あの子は、くるみ。新しいメイドですよ…」


 私がそう説明するが、アメシャはくるみに目を奪われたまま、珍しく驚いた表情をしている。


「ほー いいじゃないか」

「こういうのでいいんだよこういうので」


 転生者達の声がするので、また振り返ると、くるみを取り囲むように転生者の人だかりができていた。


「では、満足して頂けたと言う事で、私はお役御免と言う事でいいかしら?」


 セクレタさんがそう言葉をかけた時、転生者の一人が震える腕を伸ばして、くるみの頭に手を置き、ゆっくりと確かめるように撫でる。


「ご主人様… ぽっ♡にゃん…」


くるみは両手を頬にあて、上目づかいで顔を赤らめる。


「満足どころか最高ですよ!! セクレタさん!!」

「これ以上の逸材、どこ探してもいませんよ!」

「グッジョブ!! セクレタさん!!」


「では、契約成立と言う事で… 漸く肩の荷が降りたわ…」


セクレタさんは大きく息をつき、肩を撫でおろす。


「ご主人様達にそんなに見つめられたら、くるみ、照れて身体が熱くなっちゃうにゃん☆」


 くるみは、聞いていてこちらが痛くなってくるセリフと、あざといポーズを振りまいている。


「それでは、後は転生者達に任せますか。アメシャ、くるみに仕事をって… アメシャどうしたの!?」


 アメシャの顔はいつものぬいぐるみの様な可愛い物ではなく、黒いオーラを纏わせ野生の猫の顔になっている。


「にゃんにゃん、にゃんにゃんと… 猫を… 猫を馬鹿にするな…」


ちょっと、アメシャ、ほんと怖い…


 しかし、そんな私達の存在などいないかの如く、くるみと転生者達は舞い上がっており、くるみは、転生者の中をくるくると周りながら、愛想を振りまいていく。そして、転生者の一人に胸を押し当てるかのように抱き付く。


「ご主人様ぁ~ くるみにもっとニコニコしてにゃん☆ 撫で撫でしてにゃん☆」


 最初は鼻の下を伸ばしてニヤニヤしていた転生者だったが、徐々に怪訝な表情に変わっていく。


「お、おむ、お胸が…か、硬い? この子… もしかして、人間じゃない?」



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